5.クトゥルフ

 【ショゴス】のパッシブ効果である状態異常無効化は試す方法がわからないので、次はアクティブ効果を試してみる。

 【ショゴス】のアクティブ効果は粘体というのと粘魚というものを生み出して操る能力らしいな。

 粘体出ろー、と念じると手のひらの上に黒い球体が生み出される。

 なんだか初めてスキルというものを使った実感を得た。

 アクティブ効果というのはこういうものなんだな。

 魔力ってのを消費しているらしいが、実感はないな。

 黒い玉に触ると、粘体というわりにネバネバはしていなかった。

 プニプニしていて柔らかい、ほんのり温かくて、まるで人の柔肌のようだった。

 逆に怖えよ。

 これだからクトゥルフは。

 しかしこれのどこが粘体なんだろうな。

 俺は黒い玉がどこかにくっ付かないか色々試してみる。

 半分に割ってみたり、包丁で切ってみたりしたがくっ付かない。

 しかしくっ付けよと思いながら指で触れると、まるでトリモチのようにネバっと吸着してきた。

 すごいな、くっ付くかくっ付かないか、スキル所持者が決めることができるのか。

 まるで電磁石だな。

 動きは遅いが粘体自体もグネグネと操ることができるようだし、これは使いようによってはかなり使えるかもしれない。

 そして何よりスキル詳細に気になることが書かれていた気がする。

 

 ショゴス:【パッシブ効果】状態異常無効化。水中で呼吸ができる。水中での移動にプラス補正。【アクティブ効果】魔力を消費して粘体と粘魚を生み出し、操ることができる。粘体と粘魚の中には異空間が広がっており、なんでも飲み込む。異空間の中はスキル所持者のテリトリーとなり、魔力を消費することによって内部の時間を操作することができる。魔力を消費することで粘魚は人間に存在する器官を生成することができ、スキル所持者はその感覚を共有することができる。


 『粘体と粘魚の中には異空間が広がっており、なんでも飲み込む。』

 この部分だ。

 異空間って、アイテムボックスじゃねえかよ。

 魔力を消費すれば内部の時間も操作できると書かれている。

 なんでも飲み込んで内部の時間は止めるも早めるも自由自在。

 これはまさに近年の異世界小説でよく見かける超便利な能力、アイテムボックスだ。

 俺は粘体の中にテーブルの上に置かれていた眼鏡を突っ込んでみた。

 眼鏡は黒い粘液の中にズブズブと飲み込まれて消えていった。

 粘体をプニプニ触ってみても中に固いモノが入っている感覚は無い。

 どうやら眼鏡は無事異空間に飲み込まれたようだ。

 なんとなく脳の奥の方に違和感があり、異空間に俺の眼鏡が入っているということを感じることができた。

 これが異空間の中が自分のテリトリーになるという感覚か。

 異空間に何が入っているのか自分で知ることができるなら、入れたまま忘れる物とかが無さそうで安心だ。

 俺は粘体に眼鏡を吐き出せと念じる。

 すると粘体の中から眼鏡がズブズブと出てきてポトリと落ちた。

 吐き出すこともちゃんとできるな。

 そして中の時間も操作可能。

 アイテムボックスとして使うことが十分に可能だ。

 これだけでもこのスキルは大当たり中の大当たりだろう。

 俺はしばらく部屋中を粘体ボールを転がしたりして遊んだ。

 粘体に埃を吸着させることによって部屋がどんどん綺麗になる。

 引きこもりスキルの影響で半年経ったわりには綺麗に保たれていたのだが、その前から汚かった部分というのは綺麗になっていなかったのでこのスキルは助かる。

 男の一人暮らしの割には綺麗にしてる方だとは思うが、どうしても家具の下とか部屋の隅とかは埃が溜まるからな。

 これなら埃だろうが排水溝のヌメった髪の毛だろうがすべて吸着して飲み込んでくれる。

 異空間の中は無数の部屋のように分けることができるようなのでゴミと他の物が混ざるようなことは無い。

 これは異世界小説のアイテムボックスと一緒だ。

 部屋ごとに時間の設定ができるようだが、それに関してはどのくらい魔力を使うのかわからなかったのでやめておいた。

 俺の魔力値は12しかないからな。

 MPの総量も12ということだ。

 魔力は一晩寝ないと全快しないみたいだし、今日中に試したいことを優先する。

 とりあえず【ショゴス】のもう一つのアクティブ効果、粘魚という能力を試す。

 俺は粘体を消し、粘魚を生み出した。

 粘体のように黒い粘液からヌルりと魚のような形の黒い物体が出てくる。

 やっぱりクトゥルフだけあってちょいキモイな。

 真っ黒な身体にでかい口、そして身体中にある無数の真っ赤な目玉がぎょろりとこちらを見る。

 深海魚のような得体の知れなさを感じるヌルっとしたフォルムの魚だ。

 魚は空中に浮かび、俺の周囲を優雅に泳ぎ回る。

 そして2匹に分裂した。

 4匹、8匹とドンドン小さくなると同時に増えていく。

 最終的にメダカサイズまで小さくなり、群れで泳ぎ回った挙句また一つに合体した。

 なんなんだこの魚は。

 マニュアル操作の粘体と違い、粘魚はある程度自動で動き回るらしいな。

 顔に寄ってきて口をパクパクさせている姿がちょっと可愛いと思ってしまった俺はクトゥルフに染まってきているのだろうか。

 俺はまだ正気だよな。

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