第62話:鴨川デルタの妖かし
「ったく、昨日の今日でまた会うとはなぁ……」
「嫌そうに言わないの。それで、あんたは何者でどうして凄く強いのよ。しかもただ強いだけじゃない。異能と言っていい力だわ」
ふむと頷きながら、「異能ねぇ」と呟く。
まぁ確かに異能ではあるし、それが俺らの力だろう。
が、今
まだ完全覚醒には時間があるはず。
少しでも普通の学生生活をおくらせてやりてぇが……。
「ちょっと、何を考えているのよ? さ、早く答えなさいよ」
「ハイハイ仰せのとおりにオジョウサマ」
それに〝ムッ〟とした表情を浮かべ、リスのほお袋みたく膨らませて睨まれる。
「なんだろうか……この小動物みたいな残念な娘は……」
「ちょっと、胸を見ながら残念とか言わないでよ!」
「しかたねぇだろ、お前がそんな場所に立ってるのが悪い」
さらにムっとしながら「変態ッ!」と言いながら、思い切り上半身で怒りをあらわす。
が、亀の甲羅は丸い。マヌケなお嬢様はそれに足を滑らせて、「きゃああ」と叫びながらこっちへと倒れ込む。
仕方ねぇなと思いながら鴨川へ落ちないように、両肩を抱き狭い足場へと引き寄せる。
瞬間、頬を染めて「あ、ありがとぅ」と尻すぼみに声が小さくなった。
「やれやれ。お嬢様らしく、おしとやかにしていたらどうだ?」
「ぅ、うるさい。私だって好きでお嬢様しているわけじゃないし」
そう言いながら頭を下げた。
だが狭い空間でそれをやるもんだから、俺の胸へとポスリとおさまる。
そんな俺らを水遊びをしていた小学生達が、「ぜったいキスするんだぜ!」とか、「違うよアゴクイが先だよ!」とか言っている。マセガキ共が。
「え? ち、違うの! そんなんじゃないんだから!!」
「「「キ~ス! キ~ス!」」」
「違うんだってば! もぅ、あんたのせいよ変態さん!」
「はぁ、これも俺のせいですか。面倒だねぇホント」
顔を真っ赤にした明日夏を見た小学生は、「もっと近くで見ようぜ!」と言いながら迫ってくる。
それでまたアワアワとしだし、小さな足場がなおせまくなる。
迫るガキ共。奴らと逆の向こう岸までは俺ならひとっ飛びだが、動揺しているコイツを連れて行くと、また足を滑らせるかもだな。
「面倒だがしゃぁねぇか。暴れるなよお嬢様?」
「えッ?! ちょ、きゃあああ!!」
左手で背中をささえつつ、右手で膝裏を軽く押す。
カクリと抵抗なく後ろへと倒れる明日夏だったが、次の瞬間フワリと浮き上がる感覚で目を丸くする。
その後叫び声をあげながら、体が宙に浮く感覚で顔を青くしているのが面白い。
ちょっとマヌケな顔だとニヤケつつ、お嬢様を倒す前に仕込んだ術を起動。
瞬時に体が薄くすけはじめ、俺たちの体はガキ共の視界から完全に消え失せた。
「お、おい消えちゃったぞ!」
「しんちゃんが近くで見ようとかいうからだよ~」
「いや、ひびきが見たそうな顔してるから……」
「そ、そんな事ないもん! しんちゃんの馬鹿! キライ!!」
「お前ら喧嘩すんなよなぁ! それにしても、なんだったんだあの二人……」
――六年後。十七歳になって初めての、燃える赤がまぶしい秋。
しんちゃんと、ひびきはあの時の不思議な二人のことを思い出す。
それで何となくあの時の不思議な二人が妙に美しかったと盛り上がり、あれは妖かしか天狗だと興奮。
もしかしたらまた会えるかも? と、そんなくだらない事で会話がはずむ二人は、今でも親友だ。
さっそく二人は鴨川デルタへと行くが、なりゆきで亀石の上で初めて親友を卒業する事を二人はまだ、しらない。
◇◇◇
無事に小学生から逃げれたのはよかった。
確かに感謝はしているよ。あんな狭い場所だから落ちそうだったし。
けど、けど! どうしてあんな恥ずかしい事を……うぅぅ。
言いたいことが沢山あるけど、思わず下を見ながら小声で抗議することしか出来ない。
そんな感じで変態さんの背中を見ながら、鴨川の河川敷にあるさんぽ道を歩く。
なのに、
その姿が無性に腹ただしくなり思わず叫ぶ。
「しんッッッじられないッ!! いきなりする!?」
「何をだよ」
「何をって、アレよ! お、お姫様だっこ……」
「あぁ~。そうだなぁ、残念なせいか意外と軽かったぞ?」
「胸がそんなに重いわけないでしょ!!」
失礼全開の変態さん。
そんな彼がピタリと足を止め、静かに振り向く。
そしてこれまでにない真面目な表情となり、私の目を見て静かに口を開き、「アレが見えるか?」と問いかけた。
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