~妖かし人の陰陽師〜 美少女が骨董屋さんに凸して来て、怪異事件を押しつける……仕事、したくねぇぇ!!

竹本蘭乃

第零話

 京都タワーの先端に、一人の男が満月を苦々しく眺め立っていた。

 白銀の肩までの長髪を秋風に揺らし、禍々しく陰惨な皆既月蝕かいきげっしょく――〝神喰の月蝕〟を睨みつける。


 野性的だが、人間離れした妖艶な容姿が、神喰の月蝕の光に撫でられ怪しげに浮かぶ。

 

「やれやれ……今夜は大忙しだ。見ろよ、あの狂った月光を」


 その言葉に背後から浮かび上がる影が一つ。

 闇からしみ出たかの如く、じわりと空間へ現れたのは、黒の艶やかな西陣に身を包みこむ美しく若い娘。

 

 まるで粉雪が人の素肌になり、はかなげだが強い意思を持った瞳で同じ月を見つめ、ぷっくりとしたみずみずしい唇を開く。


「ええ……本当に忌々しいんだよ。お陰でほら、妖かしが狂喜乱舞しているんだよ」

「それもこれも、あのお嬢様が半端に目覚めたせいかよ」

「もぅ、尻拭いするのは私達なんだよ。ハァ、困ったものなんだよ。あの明日夏お嬢様・・・・・・には」


 見下ろせば空を飛ぶ妖かしが複数見える。

 動物型が多いが、人型が居ないのがまだ救いか。

 そう思いながら、背後から襲いかかる怪鳥と化したカラスの妖かしを、妖刀で一閃。


 断末魔を上げながら、京都タワーの展望台へ落ちていく黒い塊を見下げながら吐き出すように話す。


「どうやらやっこさん達に捕捉されたようだ」


 京都タワーの外殻を複数登ってくる妖かしの群れ。

 それらを見た娘は、冷めた視線を妖かしへ向け楽しげに話す。


「ふふ。無邪気に向かってくるんだよ」


 それに「あぁ面倒だなぁ」と嘆息しながら妖刀を右肩に担ぎ下を見る。


「懲りないバカ共だ。いいだろう。妖かし人の陰陽師として、視界にいる全てを……討滅してやる」


 口角上げ〝ざわり〟と妖気を放つ。

 瞬間、タワーの外殻へ取り付いていた妖かしは一瞬動きを止めた。

 

 そこへ躊躇なく飛び降りる男は、妖刀に赤く濁った月光をまとい、妖かしを斬り裂いていく。

 そのまま頭から自由落下をしつつ、狂った月蝕を見ながら今日会った気の強い娘の事を思い出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る