第57話 王都に迫る闇 3
モエルとミキは、並んで夕陽を見ていた。
夕焼け空。赤い空。
身体に肌に染み込むような陽の光に照らされている。
「ミキ、何なんだ……いったい何なんだよ。いつもあんなことやってんのか」
流石にドン引きするモエルであった……アウトローにもほどがある。フッツーに逮捕だろーが。
……ああいや、しかし警察という組織がこの世界にはないのか。
そりゃあそうか。
まったく、難儀なものだ。
そのくせ帯刀は許可されているようだから、性質が悪いよなあ。現代日本よりも治安は悪いのだろう。
……もう日本には行かないし、現代も何もないのだが。もう懐かしいかも。
モエルにとってはもはや過去の遺物でしかない。
ミキの剣は今、鞘に納められている。
しかし、抜いた時の存在感は大きい―――モエルがそう感じたのは、包丁を握って料理する機会が日常的にあったためだろうか。
俺のより三倍くらい長いじゃあねえか、もっと長いか、というようなイヤなリアリティを感じる火属性。
いいかげんな性格に見られがちで実際いいかげんな生き方までしているモエルではあるが、そのあたりの危機管理感覚は持っている。
刃物を人に向けるなや。
なお、魔獣討伐は防具のみ付けて、行なっているモエルである。
「説明したけれど、あのルスガは鳥舎番よ―――鳥を管理する仕事」
「鳥?」
「ええ、人が乗れる鳥がいるのよ」
ミキはそれに乗って空を飛びたかったらしい。
空を自由に飛びたいだなんて、そんな童心、この切っ先のような女が持つものだろうかと、モエルは思った。
まだ何らかの意図が隠されているのだろう。
「ああ、そろそろ来る頃よ」
夕焼け空を眺めながら、ミキは言う。
こんな時だが、天気は良い。涼しい風がそっと駆け抜けていく時間帯である―――。
異世界の空は、故郷よりも空気が澄んでいるように見えるモエル。排気ガスも公害も一切ない大自然。
夕焼け空の、オレンジの球に、横切る影があった。
何か飛んでいる。
翼があり、鳥じゃないことは明らかだ―――どこかヘビのようにに動いている。
空中で、うねうねしている―――やはり鳥類ではない。
魔獣だろう。———どうせ、魔獣だろう。
ここでは大して珍しくもない。
ふと、昔、ここではない世界で、学校の上空をヘリコプターが飛んだことをぼんやり思い出した。
元居た世界ではそれくらいか……飛翔物は。
「
不意に、指さして示す女剣士。
「ドラ……ゴン……?」
信じられないという様子だが、そうか魔獣で、ドラゴン……ありえなくもないのか。
「二代目よ」
「え?」
「アレに―――『魔王の二代目』が乗っているのよ」
「は―――はぁああ!?」
なんだ、何の話だ?
モエルは驚愕というか動揺する……何の前振りも脈絡もなく魔王。魔王だって……?
魔王は、飛竜に乗っているのか?
「だからあ―――、
飛ばないとあの竜までは届かないという話らしいが……目を凝らしてみると、確かに遠く、飛竜の上に何か、でっぱりのようなものが見えないでもない。
言われなければ、誰かが乗っているという発想には至らなかったが。
竜が太陽を過ぎ、逆光を受けなくなったからようやく直視できる。
黒い影が、飛んで、離れていく。モエルの方など見やりもせずに。
「アレを、追いかけるつもりだったのか……?じゃああの男に剣を突き付けてたのは……そういう」
「そういうこと。魔王は止めないといけないわ」
これ以上優先すべき事柄はない。
私が何の意味もなく一般人に剣を向けると思っていたのか、とミキは怒りを瞳に宿しているようだ。
脈絡も前振りもないと感じてはいたが、あれはちゃんと意味のある前振りだったのか。
「魔王が、って言われても―――なんであんなところを飛んでいるんだよ?」
「王都を監視しているとか、そんなところでしょ、先代が落とせなかったもんだから、手柄のためよ」
「……っ」
モエルは困惑する。話は突拍子もなさすぎる気がするが、二代目……確かに、魔王が一人であると考えるのは単純というか、単細胞だったか。
王である以上、王を継ぐ者がいる。
「モエル、あんたに手伝ってほしいわけじゃあない……そんなことするもんですか。あんたの力を借りるなんて。……けど、覚えておいて、『魔王の脅威』はまだ続いているの。地の果ての人は、確かに必要よ」
っていうのがリイネの意見よ。そう言って、女剣士は空を向いた。
いつも通り不機嫌そうに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます