第54話 魔導士 2

 まず、大型の魔獣がいたとしても、簡単に剣や槍で仕留められない。

 魔獣は大型でも、いや大型こそ、人間よりも素早く駆ける。

 避けるものがスタンダードだ。

 避ける獣が、スタンダードだ。


「大型」魔獣の定義については今は割愛するが、人間を見れば襲ってくる。

 だからこそ、討伐対象となってギルドでも賞金がついているのである。

 そのために討伐部隊パーティの中に、盾となる役が必要となる。

 そして使われる盾は―――。


通常ただのシールドじゃないんだろう?」


「その通り」


 シマジが頷く。

 盾には風属性の魔導具が仕込まれていて、衝突する前に瞬間的な突風で魔獣の動きを狂わせる。

 そうした魔力と、普通にぶつけに行く突進―――金属の盾との相乗効果で、魔獣の動きを止めるんだ。


「魔導具を使って戦っているんだな!」


地の果ての人オレらはみんな、『かぜタンク』って呼んでるポジションでな―――どのギルドにも、割といるタイプだ。ああ、魔獣討伐とか護衛とかやっている組合ところに限るけど」


「ほほう」


 キャキ、という―――。

 金属の擦れる音が近づいてきた。


「■■■にでもやってきたのかい?」


 聴き取りにくい、くぐもった声がしたので、モエルは振り返った。

 ヘルメット、というよりも防具のカブトを外した男がいた。

 いたというか、睨んでいる。

 口調も厳しかった。

 兜を取りながら発した言葉だったらしく、言葉が聴き取りづらいのはその所為だったかと得心がいく。

 睨む男は、口調でも挑発気味だった。


「新入りが来るなんて、俺は聞いていないが?」


「ああ! この―――彼はモエル。最近来たんだ、つまり―――この街にね! 地の果ての人だよ」


 シマジがにこやかな態度で説明した。


「ちょっと見せてやってくれませんかね、マシューさん」


 マシューと呼ばれた男は、蛇のように鋭くにらんできた。

 初めて会うが、横柄おうへいな雰囲気は感じ取るモエル。


「けっ……俺ァ、『地の果て』のための見世物みせもんになッた覚えはねえ―――ついてくんなよ!」


 背中を見せ、手を振りつつも―――しっし、あっち行けと言うような振り方で―――攻撃的な男は去っていく。

 仲間の集まる方へ行った。

 終始、モエルに対し笑顔を見せない男であった。


「あららあ……今日はご機嫌悪かったか」


「なんだアレ……初対面なのによぉ」


 モエルが不機嫌そうに呟くと、シマジはびゅわッと首を振り、モエルを睨んだ。


「モエル……彼らが『魔導士』……魔導具を使用して討伐をしているギルドの人々だ。俺たち地の果ての人と、同じターゲットを狩る、いわば商売敵だ」


 口元に手のひらを当て、声を低くして説明するシマジ。

 説明してくれる、シマジ。

 そこで合点がいくモエルだった。


「なるほど、つまり、だからああいう感じの態度なのか。そりゃあ仕方ねぇな」


「だから、まあ、親しくしましょーねッ?」


 少しお道化どけるような口調で、会話を締めるシマジ。


「ああ……そうだな、まあ、上手くやるよ」


 言ったモエルだが、口に出した自分の言葉にうすら寒いものを覚えた。

 そして、ゆっくり地面を睨む。

 上手くやるよ、か。

 俺が一番苦手としてきたことではないか。


 魔導士、風タンクか……!

 異世界の住人、現地人に舐められるのは、正直言って気は進まない。

 しかし彼らの戦い方に純粋な好奇心や驚きを感じた自分もいた。

 魔獣討伐の奥深さを知る、自分。


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