第44話 王女への謁見 2


 中学のころ、教室で一人の女子がいた。

 熱子とは違う。

 孤立しがちというか、誰かと親しくしているように見えない女で、その点は共通していたけど……。

 

 

 授業の時に先生に指名されても、答えられない、いや喋るのもおぼつかないような。

 だからかな?

 せめて仲間に入れてやりたくなったのだ。

 だから声をかけたんだ。

 いや、かけないといけない……。

 仲間はずれにするのは良くない。

 

 下心はない。

 ガキの頃だったし、なにより異性と親しくするのがおかしな年代、だったように思う。

 男子から注目されるような人間ではなく、言ってしまえば貧相だったように思う。

 


 その女子と学校近くのスーパーで偶然会い、少し話す機会があった。

 その時は、少しばかり笑える女子になっていた……ように思う。

 かなり前の話だから、もう顔も正確に浮かばないけれど。


 その後、特に仲良くなるということもなく……最後まで、何の意味があるかわからない関係だった。




 ―――――———



「モエルさまっ お会いできて光栄ですわ」


 あっさり、広い部屋で両手を広げたその女性。

 王女……正確にはいずれ王女となるらしいが、王都グスロットの王族、直径子孫で、継承権から考えても民衆からの支持を見ても、次期王女となる可能性が限りなく高い。


 そうミキから説明を受けた。

 王女、正確には次期王女ということだが。

 ミキはすっかり王女と呼んでいる……普通に知り合いというか、同い齢の友人といった具合なのが凄いな。

 これらの流れの多くが、どういうことなのかわからないモエル。

 いったい何が起こっているんだ。


 ミキに指定された通り、レイネが歩み寄るまでモエルは動かなかった。

 相手は王族だ、何かをやらかして処刑なんてことは、ご勘弁いただきたい。


 身なりもいいが眩しい肌つやだ。

 きっと良いものを食べて、良い暮らしを送っているのだろう。

 街の人も、活気にあふれていたがレベルが違う印象は受ける。

 高貴なお方特有の、堂々とした立ち振る舞いも感じる。

 自分の方が姿勢が悪いと気づかされる……バレエとかやったことなどないモエルである。


 モエルは怯む、身構える。

 金持ちの存在感は、いつだって俺より大きい。

 威迫されているのだ、別に今、モエルが特別に貧乏というわけでもないが。

 アウトローやスラムとは全くかかわりのなさそうな、綺麗な瞳が、モエルを押さえつける―――ように思える。


「お噂はかねがね、ミキから聞いています」


 朗らかな顔で、次期王女はそう言った。

 ああ、そうなのか……と困惑するモエル。

 齢はそう変わらないと、声の感じからも伝わってくる、再確認。

 笑顔で歩み寄ってくる……陰りのない笑顔。


「お礼を申し上げたくて、今回、急なお呼び立てをしましたの―――ミキを助けてくれて、ありがとうございました」



「…… ああ!」


 少し遅れて、目を見開くモエル。

 そのことか。女剣士ミキの逃亡を手伝った件か。

 怒られるわけではないと確信できてとりあえず一息つける。




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