第43話 王女への謁見

 王女。

 お姫様。

 そんな存在が王都にはいて。

 住んでいて。

 この度、モエルを名指しでご指名、呼び出しているらしい。


「そんなこと言われても……え、何?どういうことだ」


 モエルは話が見えない。

 目通り。身分の高い人にお目にかかる……という機会らしいが。

 どういうことだよ。

 

 一応ミナモに、土厳塁根どげらいねのことを問うてみた。

 それほどの大事になったのか、と思案した結果だったが、どうもその件は関係がないらしい。

 これまで魔獣討伐は、街から降りてきた依頼書を提出してこなしてきた。

 それとは関係なしに討伐に赴いたのは事実。

 つまりは、自分がやらかしたから怒られるのかと思った。


 なお土厳塁根討伐事件のことはミキは知らない。

 ミナモのたくらみというか、知らない方がいいこともある、とのことだ。

 ミキはモエルが、グスロットに慣れ親しみつつあること、魔獣討伐の任務にいそしんでいること程度しか認識していない。


 だがそれらの諸々をミキもミナモも指摘しなかった。

 ただ馬車でガタンゴトンと、おとなしく揺られるモエルだった。

 タクシーよりは天井が高いなあという空間。

 隣にはミキがいるのみ。

 気まずい……スマートフォンが恋しい気持ちもある。


 なお、話しやすい性質のミナモ(ミキに比べれば)は同行していない。

 仕事に戻るそうだ。

 何も思い浮かばないモエル。

 馬車での移動中、モエルは床を睨みつける。

 考えていたのだ。

 王女との謁見のことも大事というか大事だ、しかしどうにも現実味がない。


「元々、地の果ての人になんていうか、距離が近いのよ、リイネ……あっ王女のことね? ―――そのへんは衛兵の悩みの種なんだけどね」


 危ないやつもいるから。

 そう呟く女剣士。


「はぁ……」


 モエルはそんな返事しか出来ない……何もかも困惑の中である。

 女剣士は、危ないやつって、お前みたいなやつのことだよ、と言いはしない。

 目を細めるだけだ。

 モエルは、相変わらず刃物のような雰囲気の女だと思ったし、その方が気が楽だった。

 彼はそのまま、意識を他に移す。

 どうやらミキが細かいやり取りを主にする流れなのだろう、迎えに来たのもその流れの中にある。

 いま、ミキよりも気になる人物がいた。


『嫌われ者の能力者が! 邪魔者、新参者———』


 かつての熱子の言葉を反芻。

 投げつけてくるような声色だった。

 まあ簡単に忘れられない。

 ……いや、忘れているかもしれないが。

 他人の言ったことを細かくは覚えない、おおざっぱな火属性男。

 ただ……。


 初日のあの台詞。

 日本にいた頃に受けた、罵倒。

 徹底して、好戦的な女だった。

 ……そんなんだから友達少ないんだよ、と一方的に心配をしているモエル。

 実際その見解は正しいんだろう。


 元の世界でも、近づきがたい、否。

 近寄ったらいけない、といった雰囲気を周囲に放っていたのだ。

 


 森での戦闘で、熱子らしき人物は、炎を使った。

 能力を―――使った。いや使えた。

 どんな心境で言ってたんだ。

 俺の料理、俺が料理を……炒飯を、ふるまってやろうとした時。

 あの時から……?炎は、使えたのか?


 俺が嫌いで攻撃する―――意味。

 それ以外の意味もあったということじゃないか。

 邪魔者、新参者———。


「なんであんなこと言ったんだよ―――」


「なぁに」


 不機嫌そうな声をかけられ、ハッとするモエル。


「いや、こっちの話……だ」


 馬車はグスロットの中心付近、王城敷地に向かっているらしい。

 ミキはミキで、自分の話について考えている。

 意識は王城に向いていると思われる……考え事をしているようで、モエルの顔色を窺いはしない。


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