第35話 闇夜の遭遇、土厳塁根2
「まだ飲むのかい、お前よぉ」
「いいじゃねーか、ホラ、酒だ、酒」
王都グスロットの郊外。
建物も少ない涼しい夜風の中、二人の男が歩いていた。
顔は上気して、何も言わないまでも何かがおかしくて笑いだす。
足は迷いそうになりながらステップを刻み、酒瓶を振っている。
つまり背の高さとしては凸凹コンビの二人が、完全に出来上がっている。
「なあ―――おい」
一人が、街の外に見える景色を指差した。
ずいぶん離れていて、魔獣が出現する森に、かなり近い。
「うん?なんだよ、俺の酒だぜ、あげねえぜぇ………上げるとすればお酒様の許可をだなぁ、お前、ヒック、お前―――」
酒瓶を持っていた男の方も、異常に気付き、目を細める。
黙って、それを見た。
「―――なんだい、あの炎は」
赤いものが、ちらちらと跳ねていた。
煙は闇の中なので、見えにくかった。
―――――――
モエルは、熱球を両手に出現させ、魔獣と対峙していた。
先程から炎を打ち込んでいるが、ダメージを与えている感覚がない。
「ちぃいい! バレたか! このォォォ!」
「モエルくん―――」
後ろからミナモが声を上げたが、構わず攻撃を続ける。
地響きが聞こえて、足元がふわりと浮き上がる。
モエルは疲弊していた。
「俺の炎が効かない………何故!」
「一人で戦うのは危険だ!」
そんなことを後ろから言われても、困惑するだけだった。
炎が弱点だと、ミナモは言った―――言ったのはミナモだったぞ。
それにこの巨大な円形のような魔獣、確かに木の肌のようだ。
木材独特の香りが強い。
間違いなく、獣要素はない、そんな魔獣だ。
とにかく、この壁のような外皮を何とかしないといけない。
球体に近い身体に、二本足。
外皮は毛がなく、堅いうろこか何か―――瓦のような材質なのだろうか?炎を受けても、燃えださないので彼は焦る。
熱球を投げつけたすぐ後に土厳塁根はゾウよりも巨大な脚をモエルの近くに踏み出し、また身体が揺れてしまう。
「畜生、おいおい、さっきの話は嘘だったのか、ミナモ!」
「違う!そうじゃなくて、弱点が―――」
「なに―――聞こえない―――!」
モエルは、上の方から何かが降ってくることに気付く。
いや、降ってきたのではない、振り回しているのだ。
黒い影が迫る。
何か別の新手ではない、これは今対峙している魔獣の巨大な腕だ。
月明かりがわずかに反射し、木地が艶やかに映された。
「ちいいいっ!バレちまったものは仕方がないぜ―――」
ドッヂボール感覚の火球、それを投げつけている。
やりながらに、後ろに下がるモエル。
それは巨大な魔獣に命中する、ほぼ100パーセント直撃だが、コンクリートに壁打ちしている程度の手ごたえがある。
ええい……、マジかよこの巨大ボウリング玉……硬いな。
そうだ、敵魔獣はつやつやだ。
土厳塁根は奴の―――彼?の意思でのみ、進行方向を決定しているようだ。
モエルの行動攻撃に意味はない……そんな反応。
効いていないのか……痛がれよ少しは。
今までのと、桁が違うというわけか。
「焼け石に水! ———かぁよ!」
モエルは、森林間の湿った土を蹴り、駆ける。
ずぅんん。
ずぅんん……と、これは足音であるが、モエルの身体よりも太い木が、地面に衝突する際も大きな音が鳴った。
大樹大木も、奴にとってはさしたる障害ではないらしい。
だがそんな土厳塁根は、今ひとりの人間を必死になって追いかけている……俺ちっちゃいのに、相当イラついたらしい。
元の世界で、どちらかといえば高身長の方かと自覚していたが、逃げるネズミの気分だぜ。
――――――――――――———————————————————————————————————————————
ミナモはその様子を見守りつつ、追いかけていた。
回避し続けるだけならば、彼にも可能だと思うが、それでも冷や冷やする。
「モエルくん……!」
なんてことだ……あの火属性男は魔獣討伐に積極的だ。
知っていたさ、地の果ての人の話ならば日頃からチェックしている女であった。
グスロットの講習を受け、その周辺で能力を使うならば、彼の本質を知ることが出来る。
ミナモも、この世界にやってきて初期の頃は、全能感が無きにしも非ず。
しかし、
目立った遠距離魔法はないにしても、その防御力などが原因起因し、厄介な魔獣だ。
例えば現在のミナモならば、どうあがいても討伐は不可能だろう。
本来は人里から離れたところに出現するし、あの図体だから人間も、被害にあう前に退避できる。
そうだ。遠征班の相手。
遠征部隊向けの活動だったはずだ。
活発化か―――魔獣は、何ごとにも繁殖期などあるため、人間が百パーセント把握することは不可能だ。
ミナモは魔獣討伐のプロではないにしても。詳しくない。
まあいい、今はモエルだ。
ミナモははやる気持ちのまま、木の影から、手を振って指示する。
ともかく、今はモエルくんだ―――!
無事でいてくれよ。
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モエルには勝機が見えていなかった。
「くっ……うっ……!あのバカ狼め」
あいつのせいでバレちまった居場所、空気読めってんだ。
しかも結局どこかに消えたしよ。
俺の人生こんなんばっかり。
偶然現れた小魔獣を罵倒しつつ……自分が空気を読めるかどうかは認知しないモエルであった。
また巨体が迫ってきて、木が不規則に倒れる。
めきめきめき……と木が倒れるすぐ隣で、姿勢低く逃げ回る。ええい―――情けねえ、このままではいかん、けれど……!
転がるような走り方で、駆け下りていく。
木の根の階段を駆け下りる。
ふと、足音が停止する。
倒した複数の木が重なり、足がバランスを崩した様子である―――。
樹上の草、葉っぱの中にいる本体というか、顔———そこに眼がついているはずだ。
魔獣だっていうのなら。
あの、日本での公園の時のやつも顔はあった。
スキがある。
今度こそ攻撃を当ててやるぜ。
今までの炎は逃げながら、中途半端な火力を跳ねさせた結果がこれだ。
今度こそは―――!
「植物野郎!やられっぱなしには―――らなんぜ、ならんぜ!
走り回るモエルは言葉噛みつつ、両足を地面につけ、バーベルを持つがごとき力み方をする。
地面の上で膨らむのは渾身の炎だ。
「最大火力を叩き込むぜ」
流石に何らかの反応はあるだろう。
だが、もしこれが通用しないのならば……。
その時はその時だ。だが、ミナモ―――火属性が弱点っていうのは
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