第4話

「わかった…だが、監視をつける前に説明してくれ。

 何が起きている?」


同情するような目で聞いてくる陛下に、一応は愛情があったのかと思う。

ここでどうでもいいという反応をするのなら、

すぐにでも王宮から出る許可をもらおうと考えていた。


だが、この反応ならば…改善するかどうか試してみてもいい。

ダメだったら、その時に出ればいいのだから。



「まず、私の普段の生活は知っていますか?」


「もう七歳だから、王女教育を受けているだろう?

 お前が五歳の時に教師をつけたはずだ。」


「いいえ。王女教育は受けていません。

 教師は三日でいなくなりました。」


「…それは…全員か?」


「ええ、全員です。」


語学、歴史、地理、王政、礼儀作法やダンス、楽器までありとあらゆる教師が用意されていた。

だが、教えてもらえたのは三日だけ。

その後は「ハズレ王女に教師など税の無駄使いだ」と辞めさせられていた。


「では、普段は何をして過ごしていた?」


「掃除と洗濯とかですね。」


「は?」


「使用人が来ないので、部屋の掃除や洗濯だけでなく、

 浴室や手洗いに使う水も自分で汲みに行ってました。」


「水瓶の水までか!?」


「ええ。最初は水だけは用意されていたんですけどね。

 一週間に一度くらいでしたけど。

 でも、浴室の水は湯あみ用なのに冷たいままでしたので、

 入浴しても身体を洗うのにも困るような状況で…。

 それすらなくなったので、水汲みに行くところから自分でやっています。

 今でも湯を沸かすことができず、布を浸して絞ったもので身体を拭いています。」


「「「……。」」」


「このドレスは謁見用のものが一枚しかないので、普段着ることはできません。

 他の服は無いので、いなくなった使用人が置いていった私服を着ています。

 辞めさせられた侍女とかが着ていた古い私服とかですね。

 シーツも一枚しかないので、汚れたと思ったら洗濯して干すのですが、

 乾くまで見ていないと濡らされたり泥がついていたり、

 床に落とされていたりするので…それだけで一日終わります。」


「痩せているのは労働のせいか?」


「それは食事のせいですね。

 食事は一日一度、野菜の葉クズが少し入ったスープと、

 乾いて固くなったパンが一つ。

 この食事ですら出てこない日もあります。」


「…まさか…まさか、そんな目に遭っていたとは。

 いつからだ。ひどい目に遭っていたのは。」


「おそらく…生まれてからずっとじゃないでしょうか?」


「…っ!!」


驚きと怒りの表情で顔色が赤黒くなっていく陛下に、

身体は大丈夫かと心配になる。

興奮しすぎて倒れたりしたら、私が殺したことになりかねない。


「あとは、いろいろと問題はありますが、

 人が関わっているものは証拠が無いと話せません。

 私がそう言ったからといって簡単に処罰できないでしょうから。

 だから私を監視してほしいのです。

 ひと月様子を見て、改善できるかどうか判断してもらえますか?」


「お前は…そんな状態でひと月も我慢できるのか?」


「…?今さらじゃないですか?」


「……そうか。

 儂との食事会の時は食べてないようだが、あれは好き嫌いではなかったのか?」


そういえば、それもあったか。

陛下との面会の日は必ず食事会が行われる。

陛下と王太子と王太子妃、公爵である第三王子とその妻、そしてイライザも来る。

私の席は必ず陛下から一番遠い席にされ、隣はイライザだ。

豪華な食事が並ぶ中、私が一口でも食べることは無い。なぜなら…。



「あれは食べられるものではありません。すべてが腐っていました。」


「お前のものだけ別なものが出ているということか?」


「そうでしょうね。

 わざわざ緑や黄色になった肉を用意するのも大変だと思いますが、

 私のものだけ別に作ってあるのでしょう。

 粗末なモノだったり、虫が入ってたりするのは食べられるからいいのですが、

 さすがにあれは食べられません。

 寝込んでも誰も面倒を見てくれませんし、医師も呼んでもらえませんから。

 自分の身を守るのは自分しかいません。」


「はぁぁぁぁ。わかった。すぐに監視をつける。

 ひと月と言わず、証拠がそろったと思ったらすぐに言いなさい。

 無理に今の生活を続けなくていいんだ…お前は儂の孫なんだ。

 …抱っこと言われ、驚いたがうれしかった。

 お祖父様と初めて呼ばれたのも…それが人払いをさせるための手段なのだとわかっているが、

 できれば今後もお祖父様と呼んでくれないだろうか?」


「いいのですか?」


思わず首をかしげてしまうが、うれしそうに笑って頷いてくれる。

意外と…好かれているのかもしれない?


「ところで、女官長を排除したのはどうしてだ?」

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