振り返れば、僕がいる
羽弦トリス
第1話長い坂
僕は何度この長い坂を上らなくてはならないのか?
今日、不眠治療をしている心療内科の主治医にある病名を告げられた。
きっと僕は職も彼女も失うだろう。3ヶ月の静養が必要らしい。職場にも彼女にも、どのようにこの病名を告げたらいいのか?
明日からゴールデンウィークだ。仕事は休みになるが、彼女のいずみは看護師だから休みがない。すぐに、病気の事を告げなくても良い。冷や汗なのか、五月晴れの陽気の汗なのか、額からボロボロと大粒の汗が頬を伝う。
僕の名は、大塚良弘。36歳で小さな会社の新光警備保障の2号警備を担当する係長と言う立場である。
2号警備は、道路工事などの片側通行の交通警備の事である。
係り付けの川谷クリニックに通うには、駅からバスに乗り、バス停から随分長い下り坂を歩く。
帰りはその坂を上らなくてはいけない。
辛いが、主治医の厚子先生に診断書を書いてもらい、来週会社に提出しなければならない。
この病気になると、恐らく昇進どころか係長と言う肩書きも無くなるだろう。
考えると息苦しくなってきた。過呼吸だ。
僕は肩掛けカバンから、ビニール袋を取り出し袋を口に当て、まるでシンナーを吸っている若者の様に深呼吸をする。
日陰を探し、お寺の石段に腰掛け発作が止まるのを待った。
今日もらった薬をミネラルウォーターで飲み発作が治まってもしばらく座っていた。
人生の歯車が狂ってしまう、僕の病名は『うつ病』である。
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