謝れよ
実践魔法学の授業は、時間通りに始められた。生徒たちに語りかける教師の声が、中庭の空に響く。
「はい、今日の授業では
教師に指名されたエマは、やや緊張した声で答える。
「えと、術名の詠唱のみで発動させる魔法のこと……ですよね?」
「そうですね、正解です。よく予習していますね」
教師は満足そうに頷き、言葉を続ける。
「
クロイと同じ一般クラスの生徒たちは、皆が教師の話に熱心に耳を傾けている。一方特選クラスの生徒たちは、大半が馬鹿にしたような態度で教師の話を聞き流していた。貴族として英才教育を受けている彼らは、
「今日は【
そう言って、教師はそれぞれの魔法を実演してみせる。
【
一方、【
「魔法の概要はわかりましたか? では散らばって、練習を始めてください。私は回りながら指導していきます。ああそれと、魔法は決して人に向けて撃たないように!」
教師の指示に従い、生徒たちは各々に練習を始めていく。
「ええっと、こんな感じかな……【
エマが作り出した石は弱々しく前方に飛びだしたものの、すぐに失速して地面に落ちてしまった。
「あ、あれ〜?」
「生成までの流れはいい感じだけど、少し魔法力が込め足りないかな。体の芯から持ってきてあげるイメージでやると、少し良くなると思うよ」
「あっ、そっか! ありがとう、クロイ君!」
クロイの言葉を受けて、エマは笑顔で練習を再開させる。
一方、アヤは眉間に皺を寄せていた。
「むむむむむ……す、【
詠唱はするものの、なかなか石の生成が終わらない。たっぷり時間をかけて生成された石は、数秒経った後にやっと発射された。
「アヤは逆に、ちょっと余計な力が入り過ぎかな。
「おおっ、なるほど! ありがとう、意識してみる!」
クロイのアドバイスを受けながら練習する2人。しばらく練習を続けると、2人の魔法は見る見るうちに上達していった。
「この短時間でこんなに上達するとは……すごいな2人とも」
「ううん、クロイくんの教え方が良いんだよ!」
「本当にね。もう教師よりも教え方が上手いんじゃない? とても同じ新入生とは思えない……」
「ああいや、
アヤの鋭い指摘に、クロイは首を振って慌てて誤魔化す。もっとも、クロイが
「よし、【
「【
クロイが言葉を続けようとした時、背後から鋭い詠唱の声が響く。と同時に、弾丸のような速度で石ツブテが迫り来る。
「――【
応えるようなクロイの詠唱。瞬時に生成された土壁が石の弾丸を防ぎ、鈍い衝突音が大きく響く。
結果だけ見れば、誰も何も傷ついていない。しかし、クロイは苦りきった顔をしていた。
「…………ざけるなよ」
そんなクロイに、石弾を放った張本人――ダグラス・プロミネンスは半笑いで話しかける。
「おーおー、よく防いだなぁ、庶民。ついうっかり魔法がそっちに飛んでしまったみたいだが、やっぱりお前は運が――」
「ふざけるなッ!」
クロイの怒号に、一瞬場が静まり返る。
「お前いま、エマさんを狙ったな? それがどういう意味か……お前は本当にわかっているのか?」
「……な、なんだよ急に。ち、違うぞ? 今のはただの事故で……」
ゆっくりと迫るクロイに、ダグラスは思わず、といった様子で一歩後退る。
「
「だ、だから事故だって言ってるだろ! それに、俺が庶民に謝る理由は何もない!」
濁りきった目で、開き直った態度を取るダグラス。
「……理由、か。そっちがその気なら、俺にも考えがある」
クロイはそう言って、ダグラスの足元に自身の手袋を投げつけた。その様子を見て、突然の事態の連続に硬直していたアヤとエマが、一斉に悲鳴のような声をあげた。
「待て、クロイ! 多少君が強くても、貴族を敵に回しては……!」
「だめ、クロイくん! それは、それだけは……!」
そんな2人の声が聞こえないかのように、クロイは躊躇なく言葉を続けた。
「ダグラス・プロミネンス。クロイ・スミスの名において、貴様に決闘を申し込む」
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