それがあなたのいいところ

猫パンチ三世

それがあなたのいいところ

 キツネさんは、今日も森の仲間と一緒に働きます。


 クマさんたちと木を切ったり、シカさんたちと木の実を拾ったり一生懸命働きます。


 キツネさんは、他の誰よりも真面目です。

 朝の集まる時間には誰よりも早くやってくるし、仕事が始まればみんながお喋りしている間も頑張ります。


 けれども周りのみんなはキツネさんよりも、ずうっと仕事が早いです。

 

 クマさんはキツネさんよりも、早く木が切れます。


 シカさんはキツネさんよりも、たくさんの木の実を早く見つけられます。


 キツネさんは毎日毎日、どうすればみんなよりも早く仕事ができるのかを考えます。

 家に帰ってからも、ずっとずっと考えてしまいます。


 どうすれば木が早く切れるのか、キツネさんはクマさんに聞きました。


「クマさん、どうすればあなたのように木を早く切れるようになりますか?」


 クマさんは答えます。


「無理はしないほうがいいよ。僕とじゃ腕の太さが全然違うじゃないか、僕のようにはできないよ」


 キツネさんはシカさんに、どうすれば木の実を早く、たくさん集められるか聞きました。


「君じゃ私のようにできやしないさ、君も鼻はいいみたいだけど私の方がもっとすごいからね」


 キツネさんは、しょんぼりとして家に帰ります。


 ごはんを食べて、体を洗ってベットに入ったキツネさんはなんだかよく眠れません。


 くらい部屋で目を開けていると、なんだかとっても悲しくなってきてしまいました。

 どうせ自分は何をやっても一番にはなれない、自分はきっと必要ないんだと、そう思ってしまったのです。


 胸がぎゅうっと苦しくなって、お腹もなんだか痛くなってきてしまいました。

 キツネさんは体を丸めて、なんとかなんとか眠ります。


 キツネさんは次の日、はじめてお仕事に行きませんでした。

 次の日も、その次の日も行きませんでした。


 四度目の朝に、仕事にこないキツネさんを心配して友達のタヌキくんがやってきました。


「キツネ君、三回も仕事を休んでどうしたんだい? みんな心配しているよ?」


 キツネさんは答えます。


「ごめんねタヌキ君、僕はどこも悪くないよ。ただどうしても仕事に行きたくなくなっちゃたんだ」


「どうして?」


「僕はクマさんのように木を早く切れないし、シカさんのようにたくさんの木の実を早く見つけられないからさ。僕がいなくたって大丈夫だよ」


 そう言ってうつむいたキツネさんの肩を、タヌキ君は軽く叩きます。


「確かに君は早く木を切れるわけじゃないし、木の実を集めるのも早くない」


 キツネさんはまたしょんぼりとしてしまいます。

 タヌキ君はそれを見て、励ますように話します。


「だけど君にだっていい所はたくさんあるよ、君は遅いけれどそのぶん丁寧に木を切っているよね。それに木の実だって、君が集めてきたのは虫にかじられてないのばかり。それは君がしっかりと選んで木の実を集めているからだよ」


 タヌキ君は、キツネ君の方を見てにっこりと笑いました。


「それに君は、誰よりも一生懸命仕事をしているじゃないか。みんなも君を見て、自分も頑張ろうって思って仕事をしてるんだ。だからキツネ君、君が悩む必要はなにもないんだよ、君はとっても頑張ってるしみんなもそれを知っているんだから」


 キツネさんは、とってもとっても嬉しくなりました。

 

 そしてキツネさんは、タヌキ君とご飯を食べ、一緒に仕事に行きました。

 

 今日もキツネさんは、一生懸命仕事をします。


 やっぱりクマさんやシカさんには勝てません、でもきっとそれでいいのです。


 キツネさんの胸は、もうちっとも痛くありません。

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