お披露目

 翌日の朝、直也達は制服姿で基地の共通エリアにある格納庫の一つにいた。ロボット兵器とグリフォン中隊の紹介のため、中には統合機動部隊に所属する多くの将官と佐官が揃っている。


 壇上で説明をする副司令官に促され、直也達は壇上へと上がる。全員の注目を浴び、さすが緊張した表情だ。


「彼らが新たに配属となった、グリフォン中隊の十人のオペレーター達だ。彼らが一人当たり十機程度のロボット兵器やドローンをコントロールして戦闘を行う。

 まだ運用方法は確立していないため、旅団直属の部隊として、旅団長が中隊長を兼務する」


 異例の編制に、ざわめきが広がる。


「戦闘部隊隊長は神威直也中尉。副隊長は出雲あけみ中尉」


 続いて全員の名前が呼び上げられ、返事とともに一歩前に出る。


 全員が二十歳そこそこ、成人したかしないかの青年である。彼らに集まる視線には、好意的なものはほとんど無かった。驚き、不安、落胆が多くを占める。


 ズレヴィナ軍の圧倒的な物量差に押されてジリ貧の状況下で、戦況を覆す切り札と聞いていた新兵器。そのオペレーターが、成人するかしないかの若造と知ってしまうと、期待より落胆の方が大きいのは当然のことであった。


 副司令はその重い空気を無視して直也達を壇上から降ろし着席させる。部屋の隅には同じ制服姿の一彰がいて、直也と目が合うと小さく手を上げていた。


 続いて一彰が呼ばれる。格納庫の隅に、仕切りで隠されていた≪タロス≫と≪バーロウ≫を引き連れて壇上に上がると、初めて実機を見た一同から、「おおっ」とどよめきが上がる。


 一彰、≪タロス≫、≪バーロウ≫、最後にディスプレイ付きのコントローラーを手にした研究所の男性職員が並ぶと、一彰は大型スクリーンを使って説明を始める。


「まずは人型ロボット≪タロス≫から説明します。これは我が国とエトリオの共同開発です」


 見た目は、迷彩塗装された甲冑とヘルメットを纏った人に似ているが、全体的に角張っており、“アニメに出てくるような無骨なロボット”である。


 スクリーンに≪タロス≫の3D映像と共に、簡単な諸元が表示される。


・全高:二メートル

・本体重量:約百二十キログラム

・最高速度:二十キロメートル毎時 以上

・動力:電力

・電源:専用バッテリー

・操作方法:専用コントローラまたは専用コントロールシステム

・使用武器:歩兵用武器全般および専用武器(ソフトウェアのバージョンにより異なる)


「武器は歩兵用武器全般を使用可能ですが、専用武器として、より大口径の武器も開発しています。

 ここにいる機体は通常型と呼んでいるA型で、重装型と呼ぶB型もあります。また、屋内戦闘を考慮し、成人男性サイズまで小型化したC型も、近いうちに配備を予定しています」


 言葉を句切り、一彰は士官達を見回す。多くの者が≪タロス≫やスクリーンを凝視していた。当然ながら、陸上部隊の士官の食いつきが良い。


「続いて四脚の支援ロボット≪バーロウ≫の説明に移ります。こちらもエトリオとの共同開発です」


 ≪バーロウ≫はロバを表すが、見た目の共通点は四足であることくらいか。トラックの荷台のような上面が開いている箱に、サイやゾウのようなガッシリとした脚が付いている。≪タロス≫と比べてカッコイイとは言えない。


 再び≪バーロウ≫の3D映像と諸元が表示される。


・全高:一・三メートル

・本体重量:約三十キログラム

・最高速度:十五キロメートル毎時(無負荷時)

・動力:電力

・電源:専用バッテリー

・操作方法:専用コントローラまたは専用コントロールシステム

・積載重量:約二百キログラム

・使用武器:八十一ミリ迫撃砲を搭載可能。別途迫撃砲用のオプションを付けることで、単体での調整と連続射撃が可能


「≪タロス≫や以前ご紹介した≪アトラス≫と共に行動します。主に武器、弾薬、荷物の運搬用ですが、八十一ミリ迫撃砲を搭載して支援砲撃も可能です。ご覧の通り装甲はありません」


 スクリーンが切り替わり、迫撃砲と砲弾を荷台に載せている≪バーロウ≫の姿が映る。さらに砲弾を迫撃砲に詰めるマニピュレータが付いている。また角度や方向を調整するダイヤルも、モーターを内蔵し自動化している。


 支援ロボットのため士官の反応は薄いが、歩兵大隊であるケルベロス大隊の士官は、だれもが羨ましそうに見ている。八十一ミリ迫撃砲は歩兵でも持ち運べる火砲だが、本体と砲弾を運ぶには分解して数人がかりとなる。それがいつでも使える状態で、持ち運ぶ必要がなくなれば、どれほど負担が減り、そして心強いだろうか。


 根っからの技術者である一彰は想像するしかないが、兵士である直也達オペレーターは≪バーロウ≫を高く評価している。


「最後に、偵察ドローン≪カワセミ≫を紹介します。

 これは既に我が軍で使用していますが、グリフォン中隊が使用する物はロボット兵器と連携を強化するため、いくつか改造をしています。性能は割愛します」


 スクリーンに≪カワセミ≫の3D映像が表示される。


・変更点

 ロボット兵器専用の高速データリンク搭載。

 ロボット兵器と同じ専用コントロールシステム搭載。

 カメラ、センサー類の強化。

 対人、対ドローン用ミサイル搭載。


「≪タロス≫と≪バーロウ≫、そして≪カワセミ≫は、専用の高速データリンクを介して索敵情報をリアルタイムで共有して連携します。

 オペレーターは主に武器使用の判断、攻撃目標や移動経路の設定し指示を与えて、実際の動作はロボットが自律しています。この操作方法が基本で、“自動モード”と呼んでいます。

 リアルタイムシミュレーションゲームに例えると、プレイヤーがオペレーター、ゲーム上で行動するユニットがロボットやドローンというイメージでしょうか。

 他に、オペレーターが直接≪タロス≫の一機または複数機を、自分の分身のように動かす“直接操作モード”があります。

 また、職員が持っているコントローラーで操縦することも可能ですが、これは整備や移動用の機能で、戦闘は出来ません。基本的には専用コントロールシステムを使用します」


 スクリーンが切り替わり、専用コントロールシステムの一つ目として、専用のヘルメットとグローブの写真が表示される。


「これは“初心者向け”のコントロールシステムです。このヘルメットとグローブを使用し、目線と指先の動きでコントロールします。先程、リアルタイムシミュレーションゲームで例えたため、誰でも扱えるように思ったかもしれません。しかし並外れた集中力とセンス、厳しい訓練が必要となるため、ほとんどの人は二、三機の操作で十分持てば良い方でしょう」


 一彰の言葉に、訝しげな表情を浮かべる士官達。「そんなはずは無いだろう」「あの青年達が使えるならば、自分も使いこなせるのではないか」と言いたげな様子だ。


 予想通りの反応に満足しながら、一彰は徴発するように言葉を続ける。


「試したい方が多いと思いますので、基地内に簡易のシミュレータを設置する予定です。人への負荷が大きいため、体調不良には十分注意してください。

 好成績を収めた方は、≪タロス≫や同様のシステムを使うロボット部隊のオペレーターとして採用される可能性もありますよ」


 再び会場がざわめく。その反応を見る一彰は、シミュレータに大行列が出来ることと、シミュレーションを終えた人々がグッタリして去って行く事を確信した。(あいつらの凄さを、身を以て味わえ)と、内心で黒い笑みを浮かべる。


「専用のコントロールシステムにはもう一種類あり、先程のコントロールシステムに慣れた後は、こちらを使用します。もちろん、ここにいるオペレーターは、この方法でロボット兵器をコントロールしています」


 スクリーンに≪メーティス・システム≫と≪アメノサグメ≫という文字が並ぶ。


「このコントロールシステムを、我々は≪メーティス・システム≫と呼んでいます。

 オペレーターに≪アメノサグメ≫と呼ぶナノマシンを注入し、思考のみでロボット兵器をコントロールしています」


 口の端を吊り上げ、さりげなくドヤ顔をキメる一彰。会場はしんと静まり返り、ほとんどの人達は狐につままれたように一彰を見上げたり、近くの者達と顔を見合わせては首を傾げている。


 思考で機械を操作する技術など、未だ空想科学の世界にしか無いと思っていたのだ。それが現実化され、しかも目の前にあると言われて、多くの者達は思考が追いついていなかった。


 置き去りの観客をよそに、一彰は説明を続ける。


「オペレーターは、先日配備された≪九五式多脚指揮車≫、または以前ご紹介したパワードスーツ≪アトラス≫に搭乗し、ロボットに随伴してコントロールします。

 ≪九五式多脚指揮車≫は半径十キロメートル、≪アトラス≫は半径一キロメートルまで、リアルタイムにロボット兵器やドローンを操作可能です。

 では、質疑応答の前に模擬戦闘の映像をご覧ください。この映像は、一人のオペレーターが操作する六機の≪タロス≫と、歩兵三個分隊、三十名が戦った時のものです」


 スクリーンに、歩兵との模擬戦闘の映像が映し出される。戦場は曇り空の日中、雑木林の中だった。


 亮輔のコントロールする六機の≪タロス≫が戦闘エリアに散開すると、前方に展開した一~四番機が五・五六ミリライフルを手に敵部隊の捜索を行う。後方の五、六番機は狙撃ライフルを装備し、距離を開けて後を追う。


 二、三番機がほぼ同時に一分隊ずつを発見する。≪タロス≫が敵歩兵を発見した時の映像もオーバーラップで表示されているが、カメラ画像だけでは無く温度や動体検知など複合センサーによってクッキリと映り込んでいる。二番機の発見した分隊を優先攻撃目標に設定し、三番機を除く五機が半包囲するように移動する。この時点で、相手の分隊は全く気付いていない。


 配置につくと、五、六番機が千メートルの距離から狙撃を開始。分隊長と副分隊長が瞬時に排除され、残りの兵士が慌てて地面に伏せる。そこに一、二、四番機が三方向から迫りながら銃火を浴びせる。交戦距離は六百メートルから四百メートルで、兵士側が≪タロス≫を見つけるか見つけないかの距離から、一方的に銃弾を当てて無力化していく。兵士からの反撃は散発的で、二分と経たずに一分隊を倒す。


 残りの二分隊も同様に、≪タロス≫を捕捉する前に攻撃を受けて各個撃破されていく。≪タロス≫はほとんど反撃を受ける事無く、十五分ほどで戦闘が終了した。


 食い入るように映像を見ていた一同は、映像が終わってもシンと静まり返っていた。特に陸上部隊の真剣さは群を抜いていた。映像に出ていた敵兵士役は、陸軍最強と言われる空挺旅団だったのだ。すなわち、扶桑国最強の歩兵部隊が、手も足も出ずに敗れた事になる。


 一通り説明が終わると、一同の雰囲気は明るくなっていた。模擬戦闘の映像が相当に効果あったのだろう。「かなり使えるんじゃないか?」というのが、多くの者の感想だった。


 質疑応答に移ると、一人の少佐が手を上げ、一彰は「どうぞ」と頷く。


「ナノマシンとは、最近、医療用として特定の病気に使用され始めているものと同じようなもの、と考えて良いでしょうか?」

「はい、おっしゃる通りです。機能は異なりますが、あれをベースとしており、人体への影響が無いことを確認済みです。

 既にロボットのオペレーターだけでは無く、いくつかの部隊の隊員、それにコンピューターの操作用に研究所でも使用を始めています」


 その後も、配備数や稼働時間など、多くの質問が飛ぶ。一彰は高速データリンクの詳細など、機密に関わる所は回答を避けつつ、話せるところは一つ一つに淀みなく答えていき、説明が終わる。


 続いて、部隊総司令官である神威秀嗣中将が壇上に上がる。


「皆も知っての通り、開戦以来、敵の侵攻は続いており、国土の三割あまりを失った。軍は遅滞戦闘を繰り返し、大きな損害を出しながらも、間もなく住民の避難を終える予定だ。

 二週間後、我々統合機動部隊も前線に赴き、敵の侵攻阻止と決戦までの時間を稼ぐ。国民のため、各員の奮励努力に期待する」


 一同は「いよいよ出番か」と気を引き締め、司令官に敬礼をする。ズレヴィナ共和国との戦争が始まって三ヶ月あまり、統合機動部隊は一部を除いて戦場に出る機会を与えられず、悪化していく戦況を気にしながら訓練をする日々だった。


 各隊は十分に練度を高め、開発していた新兵器も配備が進みつつある。雄飛の時は間もなく訪れると、場内は静かな熱気に包まれるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る