扶桑国戦記
長幸 翠
プロローグ
プロローグ1
『デルタ・ワンよりアルファ・ワン。デルタ小隊は間もなく指定ポイントに到着』
「アルファ・ワン了解」
神威直也中尉――アルファ・ワン――は、デルタ小隊からの報告に答えた後、コントロール下にある人型ロボット≪タロス≫十機と四脚支援ロボット≪バーロウ≫二機の計十二機からなる分隊に移動指示を出す。同時に各機体の状態をチェックする。全機異常なし、バッテリーは平均九十五パーセント、弾薬百パーセント。
続いてレーダースクリーンに意識を移す。直也の後には、同じアルファ小隊の神威彩華少尉――アルファ・ツー――がコントロールする≪タロス≫四機と≪バーロウ≫六機からなる計十機の分隊も続いている。アルファ小隊の人員は直也と彩華の二人のオペレーターのみで、実際に戦闘するのは二人がコントロールするロボット兵器だ。
アルファ小隊の後ろには、少し離れてデルタ小隊が続いている。
その間にも、前進させていた九三式偵察ドローン≪カワセミ≫から映像が送られてくる。曇天の元、装輪装甲車に先導された敵の車列が、山を迂回するように緩やかな右カーブが続く道路を北上していた。
装輪装甲車四両の砲塔は交互に左右を向き、上部ハッチから乗員が上半身を乗り出して進行方向と左右を警戒している。少し間隔を開け、その後ろを兵士と物資を搭載した十両のトラックと六両の装輪装甲車、最後尾に戦車八両が続く。
道路の両側二キロメートルは見通しの良い野原になっているが、その外には雑木林が広がっている。直也の部隊は敵を待ち伏せするため、道路西側の雑木林の中を、襲撃ポイントへ移動していた。
『ブラボー・ワンよりアルファ・ワン。ブラボー及びデルタ小隊、配置完了しました』
「アルファ・ワン了解。そのまま待機」
ブラボー・ワンこと出雲あけみ中尉が指揮する、ブラボー小隊からの通信に答える。直也は、アルファからエコーまで五つの小隊を指揮する立場でもある。
五つの小隊と言っても、人員はオペレーターの十人のみだ。それぞれの小隊には二人のオペレーターがおり、どちらか一人が小隊長となる。オペレーターはそれぞれ分隊長として十機程度のロボット兵器からなる分隊をコントロールする。従って、合計百機余りのロボットが、五つの小隊が持つ兵力となる。
『チャーリー・ワンよりアルファ・ワン。敵偵察ドローンを三機発見。あと五分で敵の索敵範囲に入る。指示されたし』
「アルファ・ワン了解。……三分待て」
久滋龍一少尉――チャーリー・ワン――からの通信に、レーダースクリーンを確認しながら直也は答える。それから二分三十秒後、予定通りの時間で配置についたアルファ分隊とデルタ分隊。
敵の車列は大きく三隊に別れており、それぞれに襲撃する小隊を割り当てている。先頭の計二十両の車列にはブラボー小隊とエコー小隊が、中央の十二両の車列にはチャーリー小隊が攻撃予定だ。後尾は先程紹介した計三十両の車列で、アルファ小隊とデルタ小隊が攻撃を行う。
敵大隊の移動速度は変わらない。敵に気付かれた様子は無いようだった。
「アルファ・ワンより各小隊へ。攻撃開始」
『『了解』』
直也の号令一下、戦闘が開始された。
ECMを起動、配下のロボットを戦闘モードに移行、武器使用をイネーブルに設定。敵車列に向かって前進を開始。
アルファ小隊は今回、近距離から中距離の戦闘を担当する前衛は直也の分隊、遠距離と支援砲撃を担当する後衛は彩華の分隊が担当する。
攻撃開始の指示と共に、彩華のコントロールする≪バーロウ≫のうち、迫撃砲を搭載した五機が、背負っている八十一ミリ迫撃砲の発射を開始する。
直也は続いて、配下の≪タロス≫に移動指示を与える。片膝立ちで待機していた全長二メートルの鋼鉄の人形が次々と立ち上がり、前進を開始する。
「アルファ・ツー、ドローンを処理」
直也の指示に、応答代わりと彩華配下の≪タロス≫二機が、手にしている対物ライフルを空に向けて発砲する。銃弾は狙い過たず、雑木林の上空で警戒に当たっていた偵察ドローン二機にそれぞれ命中し、微かな煙を吐きながら墜落していく。
微かな飛来音と共に、迫撃砲弾が着弾していく。これは完全な奇襲となった。一両の装輪装甲車と二両のトラックが迫撃砲弾の直撃を受けて大音響と共に火柱を上げ、別の一両のトラックが、至近弾によって横転する。不意を突かれた敵車両が、慌てぶりを表すように、急旋回で路外に待避し停車する。最後尾の戦車八両は味方の車両を守るため、道路西側に飛び出すと、砲身を雑木林の方へ向け壁となって立ち塞がる。
装甲車とトラックは次々と歩兵を吐き出すが、次々に降り注ぐ迫撃砲弾が空中で炸裂、その破片になぎ払われていく。敵戦車の上部ハッチから身を乗り出していた車長が慌てて車内に待避する。直後に迫撃砲弾が空中で炸裂し、破片が戦車上部を雹の如く叩きつけ火花を散らせる。
雑木林から草原へ躍り出た直也配下の≪タロス≫十機が敵部隊へ突撃していく。雑木林から敵部隊までの距離は約二キロメートル。遮蔽物の少ない野原を駈け抜ける事は”人間の歩兵”にとって無謀以外の何ものでもない。しかし人型ロボット≪タロス≫にとっては造作のないことだった。オリーブドラブを基調とする迷彩塗装されたボディは、甲冑を纏った武士を連想させるが、より角張った無骨なデザインだ。
一部の迫撃砲は、雑木林と敵車列の間に煙幕弾を撃ち込んで敵の視界を遮り、≪タロス≫の突撃を支援する。
時速二十キロメートル以上の速度で戦野を駆け、敵との距離を詰めていく。戦車の砲塔が、煙幕の隙間から直也の≪タロス≫六番機に狙いを定め砲弾を発射するが、狙われた六番機は発射直前に咄嗟に向きを変えて回避。一瞬前にいた付近に砲弾が命中し、土煙を吹き上げる。
敵車列との距離を一キロメートルまで縮めた頃には煙幕は収まる。九番機が停止し、手にしていた携帯式対戦車ミサイルを片膝立ちに構える。ミサイル発射前の隙を突くように、敵装輪装甲車が九番機に向けて機関砲をフルオートで発砲するが、大楯を持った三番機が立ちはだかる。
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
斜めに掲げた大楯が激しく火花を散らして弾丸を弾く後ろで、ロックオンを完了した九番機がミサイルを発射し、すぐさま機関砲の射線から退避。続けて三番機も反対側へと離脱する。
発射された対戦車ミサイルは緩やかに弧を描いて装輪装甲車へと飛行した後、その手前で急上昇、さらに急下降し、装輪装甲車の上部へと着弾。装輪装甲車は火柱を上げて動きを止める。
六番機は先程砲撃してきた戦車に、趣旨返しとばかりに対戦車ミサイルを放つ。敵戦車は対戦車ミサイルを回避しようと高速で急旋回をかけるが、上空の≪カワセミ≫から放たれる誘導レーザーに導かれて進路を調整し、狙い過たず砲塔上部に直撃。メタルジェットの奔流が装甲を貫徹し、車内に吹き荒れる。
六機の≪タロス≫が発射した対戦車ミサイルによって、四両の戦車と一両の装甲車が沈黙。一発は戦車の装備している防御システムによって阻まれた。
対戦車ミサイルを持つ≪タロス≫は一射目を放つと、待避のためにジグザグで移動しながら、即座にミサイルを装填して発射。二射、三射と繰り返す度に、敵車両を鉄屑へと変えていく。
手持ちのミサイルを撃ち尽すと、発射筒を放棄し、ライフルに持ち変えて前進を再開する。
対物ライフルを装備した彩華の四機の≪タロス≫は、直也配下の≪タロス≫の突入を支援する。≪タロス≫は十二・七ミリまでの弾丸に耐える装甲を持っている。そのため五・五六ミリライフルを持つ敵兵は無視し、脅威度の高い携帯式対戦車ミサイルや対戦車ロケットを持つ敵兵から優先的に狙撃していく。さらには突撃する≪タロス≫に向けて飛来するミサイルさえも迎撃し、空中に爆発の花を咲かせていく。
彩華の強力な支援を得て、五・五六ミリライフルを持つ直也の≪タロス≫達が敵兵を有効射程に収める頃には、敵車両は迫撃砲と対戦車ミサイルによりトラック数両を残して全滅していた。残るは車両の残骸の影に身を潜める敵歩兵が散発的に抵抗するのみ。もはや脅威は無くなっていた。
二十分にも満たない戦闘で敵は降伏する。他の小隊も同様の戦況であった。
降伏した敵兵を、後方に控えていた友軍に引き渡して作戦を完了した。
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