第6話
「うっ、寒い……」
目が覚めると、納屋の中だった。やはり、昨日の出来事は夢ではなかったらしい。ポケットの中にきちんと魔石があるし、盛田さんにもらったマントにくるまっているし。
納屋の戸を少し開けて外を見てみる。すでに明るく、雨は降っていない。雨の日よりは晴れの方が活動しやすいから助かる。さて、今日はどこへ向かおうか?
「といっても、目的地があるわけじゃないし、出来ることと言えば派閥のアジトから少しでも離れるくらいか……」
佐渡島の面積は知らないが、小さな県ほどの面積があった気がする。だとすれば、数十キロも離れれば安心だろう。派閥の人間にしたって、そんな遠くまで探しに来るとは思えないし、派閥の人間以外が俺の顔を知っているとも思えない。まあ、指名手配のようなものもないし。
問題は、昨日のバイクが使えないという事で、歩いて逃げるしかないってことだ。ヒッチハイクでもすればいいのかもしれないが、地名は知らないし、この島で車を所有しているのは警察とか自衛隊とか、わざわざ島に呼ばれた商売人くらいで、何か問題でもあれば即投獄される。投獄されたらどうなるかは知らないが、うわさでは投獄されて帰って来たものが居ないとかなんとか。処刑でもされんの?
「よし、とりあえず人気は無しと」
付近に何も音はしない。できるだけ目立たないよう、道から少し離れた場所をあるく。少し離れた場所でも、泥ではなく石が組んであったり、砂利がひいてあったりして汚れる心配はなさそうだ。時折、遠くで排気音のうるさいバイクが走っているみたいで、その音が近づいてくるときには茂みに隠れたりしている。まあ、マントを使えば見つからないんだろうけど、心理的にも姿を物理的に隠したくなる。
それにしても、あんだけ音を立てて俺を探す気があるのか? それとも、アジトにあるのは全部改造バイクばっかりなのか? バイクに詳しくないから分からないけど、ああいうのって元に戻せるんじゃないの? それとも部品も無し? よくわからん。
「とりあえず、太陽の上がって来た方向に向かうか」
目的地は無いから、とりあえず方向が分かりやすい東へと向かう。俺がもともと居たのはおそらく、本島に一番近い西側から少し北へ行った場所だと思う。そして、海についたら今度は海沿いに向かって右て側、南の方へ進めばいいだろうと思っている。
とぼとぼと歩いている。耳だけは澄ませていて、バイクや誰かが走るような音が聞こえたらすぐに隠れるか、マントの阻害機能を使うつもりだ。後ろをキョロキョロと向きながら歩くのは逆に目立つからやらないつもりだ。だから代わりに耳を使っているのだ。ただ、前方は出来る限りしっかりと見ているつもりだ。前から追手が来ることはほぼないと思うが、万が一車かバイクで探している奴が居て、戻ってくる途中とかだったら困るからな。そういうのを見つけても阻害機能をつかってやり過ごす。
「腹減ったなぁ……」
こんなことなら、どっかでオニギリでも買って来ればよかった。この辺りには何も無く、小川はあるけどそこで何かを獲るのは無理そうだ。だいたい、知識も技術も無い。悪いとは思ったけれど、近くにある畑から白菜と大根を盗む。誰か見ているかもしれないので、認識阻害機能を使っている。これで、最悪誰か見ていても俺が盗んだとは分からないだろう。この島で罪を犯したら、島の中にある独房に入れられる可能性があるから、十分に注意して立ち去る。念のため、足跡を足で消したし、土はしっかりと靴から落とした。
小川で大根を洗い、持っていたナイフで皮だけ剥く。かじってみると、甘くて水分たっぷりで美味しかった。白菜も外側の葉っぱだけ取り除いて、中の白い部分や黄色い部分を齧ると、こちらも甘くおいしかった。
昼が近くなると、日差しが強くなってきた。この時期にしては暑く、夏みたいだ。これで歩くのは体力の無駄だろうと、どこかの木陰で夕方まで隠れることにした。暇な時間を使って、何かの役に立つかもしれないと思い、魔法の練習をする。いままで練習なんてしてこなかったから、自分に何が出来て、どうすれば役に立つかを考える。
そうこうしているうちに涼しくなってきたので、歩きを再開する。しばらく歩いていると、いくつかの民家が集まっているのが見えた。俺は夜になるのを待って、その民家に侵入する事にした。
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