第3話 飲み屋
俺は見つからないように徒歩で逃げる。もうすぐ、日が沈むから、暗くなってから行動しよう。そう思って道から少し外れた草むらに隠れる。そのあとすぐに、俺を追ってきたであろうバイクが何台か道を通っていった。俺が乗り捨てたバイクがまだ見つかっていないのだろう。だが、見つかるのも時間の問題だ。俺は生きてきたいままで一番、時間が経つのが遅く感じた。
やっと日が暮れた。あれからも何台かバイクや車が通っていった。まあ、一般人と言えばいいのかどうか分からないが、派閥に入っていない人たちもいるし、なんなら入っていない人の方が多い。ただ、そういう人たちはそういう人たちで集まっているから、多少のもめごとですぐ殺し合いになるという事は無い。
暗がりを移動して、集落へと入る。ここは、もともとあった集落なのだろう。島を改造したときに建てられた建物と、もともと住民が住んでいた建物の2種類があって、もともと住民が住んでいた建物は木造が多い。そしてここは木造の建物だ。ただ、多少改造してあるのか、家の2階と2階が外付けの渡り廊下で繋がれていたり、無理やり2件を1件に改造したりしてある。
その中で、飲み屋みたいな場所を見つけたので入っていく。中はコンビニくらいの広さで、テーブルが乱雑に置いてあり、各々飲んだり食べたりしているので、飲み屋で合っていたようだ。犯罪者の島で商売を? そう思うかもしれないが、ここで普通の生活ができるようにある程度の秩序もある。なんなら、犯罪者の島の中でも警察が居るくらいだしな。犯罪者の中にはもともと何かの商売をしていた人とかも大勢いる。そして、何の罪を犯してここに入れられたのか分からないような人も。だから、見た目だけでどうのこうのという事も無いし、普通に働いている人も居るってわけだ。
俺はポケットからビール一杯分の金を出してビールを受け取る。さすがに、無銭飲食を警戒して前払いが基本である。そして、できるだけ奥のテーブルを目指す。すべてのテーブルが埋まっていたので、知らないおっさんと同席だ。ここで、落ち着くまで情報収集できないかな。おっさんは、入り口の方を向いてちびちびと飲んでいて、俺の方を向く様子はない。俺から話しかけるのもためらわれたので、俺もちびちびと飲む。
「おい、ここに居るやつらぁ!」
入口に男が飛び込んできて叫ぶ。その後ろからもう一人男が入ってきた。店に居た全員が、なんだなんだと入口の方を見る。俺は気持ちおっさんの体に隠れて見つからないようにする。
「俺たちは人を探している。ここに居るやつらは名前を言え! 嘘ついたら殺す! 嘘は分かるからなぁ!」
店内に居た人々は、戸惑っていたが男たちが本気で危害を加えようとしていると感じたため、しぶしぶであったが名前を言い始める。男たちは、その名前を黙って聞いている。しゃべらない方の男が、名前を聞くたびに手帳を見る。もしかしたら、逃げた心当たりがある人物の名前が書いてあるのだろうか? 男たちに近い方から名前を言っていき、とうとう一番奥の俺のテーブルまで順番が回ってきた。
「おい、お前。名前を言え!」
ビクリとして、俺が口を開こうとすると……。
「黙れ」
おっさんが喧嘩腰でそう言った。
「何だと? 死にてぇのか!」
男はダンッと近くのテーブルを叩く。はねたビール瓶が倒れ、ガシャンと音を立てて落ちて割れる。それでも、おっさんはちびちびとビールを飲んで名前を言う気は無さそうだ。
「ちっ、まあいい。どう見てもお前は俺たちが知らねぇ顔だ」
男たちは、おっさんを放置することにしたようだ。それなら、とうとう俺の番か……。やっぱり、名前を言ったらバレるんだろうか?
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