異常な一般性。愛の証明。
アルガ
第1話 ボクの証明
100年前は人権保護、環境保護、動物愛護が議論の話題であった。そしてその保護活動と言うのは世間一般にも認められ、普通の行為であると思われるようになった。
今では『異常性』というものが漂っている。
数年前までは話題の欠片もなかったものが、一般化しているように。『おかしい』というのは普通へと変わった。その世界の空気をまるごと入れ替えたように。
ネクロフィリア(死体性愛)は認められている性癖である。性癖のためなら、両者合意の上であるなら犯罪でもない。死体はパートナーとも呼べるモノであった。
奇病は創作のものでない。皮膚から花は出るし、鉱石も生まれる。またそれを愛する者も一般的だ。
むしろ、受け入れられない愛の方が少ない。
異常とは一般とは、まるで大差などない。
ボクこと山田は『ノーモフィリア』(普通への愛)を追い求めている人物だ。
これは『ふつうのおとこ』と言うべきなのか。差別主義者と言うべきなのか、ボクの中では判断がつかなかった。
今の世の中はまるでファンダジーだから好きではない。周りを見れば、歩く動物がいる。人間の状態で。ポリ袋の中に腐った手を入れたまま通勤をしているサラリーマンがいる。さらには、傍から見る限りには父娘に見えるものはカップルである。
彼らは言う。「愛は綺麗」と。ボクは思う。「愛は元から汚い」と。
周りが、世界がアオイロとするなら。ボクはアカイロだと思う。反対のイロは目立つはずなのに、薄く消える。
蒼い水のプールに、赤を加えても意味がないように、薄い味はボクだった。
ガン!
どうやら電柱にぶつかってしまった。気づくとそこは、学校の目の前であった。
「おいおい! 大丈夫かー? 山田。高校3年生にもなって未だに電柱にぶつかるだなんて……変なやつだな!」
話しかけてきたのは、幼なじみの男だった女。レイジがそこに現れた。性転換手術も誰でさえ簡単にできるもの。レイジも女となり、レイちゃんと名前を変え、胸も作り、髪も作った。口調は、かつて一緒に遊んでいた男のままであるが。
「んー。あぁ。日本の将来について考えてたんだ」
「えー? なんだそりゃ! お前はまず、自分から変え……あっ! ソウタくん。あの、一緒に教室まで行こ? えへへ」
ボクの眼の前からレイジは消え、レイへと変わった。好きな男子が現れたからだ。ソウタは満更でもないように、レイを連れどこかへ去っていった。アオとアカは似合わないらしい。
少し前は、レイジと共に新作のゲームについて議論していた。今は、アオに潰されないように歩くので精一杯だ。赤色のプールがあるなら、レイジも一緒に誘いたい。なんて考えていたら教室についた。青い青い教室だ。
友達はレイジだけではない。ソレ以外の人だっている。
「よォ~。山田ァ! 今日サボろうぜェ? サボってゲーセン行くんだ。そんな浮かねえ顔やめて、笑顔! 笑顔! 」
女から男になった。ナツミからナツキになった男。チンピラのような金髪が入っているが、意外とちゃんとしている奴だ。
「そーだよ。せっかくさ、この『4本の蜘蛛手』で対人戦無双できるようになったんだよ。いまならナツキをボコれるんだ!」
シュッシュッと風を切りながらボクサーのフリをしている人物は、蜘蛛が好きなスルト。蜘蛛好きが高じて蜘蛛と一体化した人。蜘蛛が擬人化したような形で、歩くときは6本使い、作業するときは6本のうちの4本を手として使用している。性別は不明。
「んだとスルト! 今から死合してやんぞ? あ”?」
「ご、ごめんなさい」
こんなのはナツミとスルトが蜘蛛になる前から見慣れた光景だ。だけど、気分が冴えないのか、その様子を見ても笑う気持ちにはなれなかった。
だけど、本当に笑えなくなるなんて、このときは考えてすら居なかった。この『ノーモフィリア』は知られてしまうなんて……
なんで気分が優れなくても学校に行ったのか、皆勤賞がかかっているから? いや違う。友達と会えるから? いや違う。
悪夢のような、この異常な世界が消えることを目の前で見たかった、確認したいからだ。
「……大丈夫かァ? 今日は朝から全校集会だけど、ムリすんなよ?」
「山田くん。みんなで今日サボろうか? 皆勤賞かかってるけど、青春のが大切だよね」
優しい言葉を掛けてもらっても、気分は良くならなかったが、良くなったフリをした。
「ふふ。大丈夫だって。しっかり学校を終えて、放課後はみんなでサボろうな」
「おう!」
「うん……って放課後はサボり判定にならないんじゃ……」
そのまま3人で体育館へと向かう。
「やっぱァ、蜘蛛だとシューズを6足用意するの面倒いよなァ」
「そうだね。いくら手にも出来ると言えど、普段は脚として使ってるからさ、脚判定くらっちゃってさ」
隣では他愛のない会話が繰り広げられていた。会話に交じるほど元気ではないので、周りを見渡す。
軽めのケモノ人間と重度のケモノ人間スルトのようなが手を繋いでいる。ゾンビ女子とネクロフィリアで有名な女子がキスをしようとして、教師に注意をされていた。ロボットと電力人間が互いに愛について語っていた。
違和感だらけの体育館にマイクを落としたような、気持ち悪いノイズが響いた。
「げェ。ったく、クソ教師どもちゃんとしろよな」
「あー。あー。よし、ちゃんと電源入りましたね。ではこれから、全校集会を始めます。お願いします。では座ってください」
「なー、山田ァ。ちゃんと体調悪かったら俺に言えよ」
ありがたい忠告だ。幼少期にとある無茶をし、ボクが大怪我を負ってしまったを覚えているらしい。そういえば、あのときも気分が冴えてなかったな。
「あー静かにしなさい。今日は大切な報告があります。この学校に『ノーモフィリア』がいるのではないか、と一般調査委員会(異常性を排除する連中を許さない団体)から連絡がありました」
「はあ"! ふざけんなよ! 差別主義者なんてまだ生きてるのかよ」
「えー。あの大掃除から消えたと思ってたのにぃ」
「もーさ、勘弁してほしいよね。そっちが異常なのにね」
マイクを落としたクソ教師に向かって声が上がった。不良、ギャル、真面目そうな子、さまざまな声。姿は違っても『ノーモフィリア』は許さない。その内容は同じだ。
ボクの隣にいる、ナツキとスルトも同意見だ。
「チッ。朝から気分悪ィぜ」
「うん。左に同じく」
「『ノーモフィリア』がいるなんてなァ、もっと気分悪くなってねェか? 山田」
いいや。とだけ返事はした。
異常な一般性。愛とはなんなのか。ボクは両親に捨てられたときから、ずっと考えている。
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