ラスト・ボール
ミヅハノメ
序幕 「ラスト・ボール」
拾ってくれ、と思う。落ちるな、と願う。
相手のラケットから流星のようなスマッシュが放たれ、力強く台の上でバウンドした。しかし相手のドライブがうまくいかなかったのか、普通のスマッシュよりも速度が遅く、上回転も弱い。台に弾かれたボールが山なりの軌道を描く。
――落ちるな。
仲間が足をもつれさせながらもボールを追いかけた。互いに二セットずつ取るフルセットに及んでいる。1
――落ちるな、落ちるな。頼むから。
拳が白くなるほど握り締められる。仲間も総じて似たような顔をしている。「落ちろ」と「落ちるな」以外の言葉を思い浮かべている人間など、此処には一人たりとも存在しなかった。世界はスローモーションで投影されていた。もう自分がボールを打てる訳でもないのに、ラケットを力強く握っていた。
――頼むから、本当にお願いだから、
これから先のことなど考えていない。たった一球以外のことなんて考える余地もない。それ以外に何もいらない。
――落ちるな!!
心がその感情で塗り潰された瞬間、ピンポン球が床に跳ねる音が聞こえた。
3-2
1S ○3-1
2S 0-3○
3W ○3-0
4S ○3-2
5S 1-3○
「……、はー…………」
蝉が鳴いている。
夏が始まったと同時、
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