魔法少女は人間か?
やねろく
第1話:魔法少女プリモ・フラワー誕生!
ひみつの日記帳(ママは見ちゃダメ!)
折戸 花名
今日はすごい事があった!だれかに言いたくてしょうがないけど、仲間にしかしゃべっちゃいけないってユウカちゃんにも、フォンくんにも言われちゃったから日記にすることにしました!あんまり言いたくなっちゃったらここに書くことにします!ちっちゃいころ、王様の耳はロバの耳っていうお話を読んだけどノートはしゃべらないもん。しゃべらないよね?フォンくんたちがいるから自信なくなっちゃうな…。
えっと……?それで、今日あったことだけど、まず今日は友達と一緒に放課後おしゃべりしてました。内容は………忘れちゃった。だってミナミちゃんってば何でも知ってて、でもたまに何言ってるかわかんないけど。政治ってよくわかんないし。で、楽しくて夕方になっちゃってて、5時半くらい?暗くなる前に帰ろうと思っていそいだの。
そしたらいつもの公園の奥にユウカちゃんがいて、かわいいカッコしてたから何してるんだろ?と思ってユウカちゃんよんだんだけど、だっていっつもぴしっとしてて(中学校に行ってからせい服しか見たことないかも?)いつもと感じがちがったから。
そしたらユウカちゃんが…………………何だっけ?
「―ナちゃん―――見えるの!?」
ユウカちゃんがすごくビックリした顔でこっちを見た。あんまり首を回すいきおいがすごくてこっちの方がビックリした!
見えるって、どういう事だろ?聞きまちがいだと思うからもう一回聞こうとしたけどユウカちゃんがおさげをなびかせてあっという間に走ってきた。小学校のときもとっても速かったけどもっと速くなったみたい。ただヒラヒラしたかわいいカッコだから走りづらくないのかな?
「こんばんはユウカちゃん!すっごいね!速くてキラキラで!」
「違くて!!………あぁもう、見えてるのね……。ハイ、こんばんは。コレは、その、ね?」
こんなにコロコロ変わるユウカちゃん初めて見た。おもしろいからもっとやってほしいかも。っていうかやっぱり見えてるって言ってたんだ?変なの。顔も変だし。メガネずれてるし。
「ちょっとトロン!コレってどういう事!?普通の人には見えないんじゃなかったの!?」
今度は急にベルトにつけてたリコーダーのふくろ?に向かって怒ってる。
これってもしかして。
……もしかしてユウカちゃん、ホントに変になっちゃったの…?中学校行ったらこうなっちゃうのかな?
「ハナ、中学校行きたくない……。」
集団登校でいつも先頭に立ってくれてたおねえちゃんのユウカちゃん。ずっと委員長でセンパイの中でも一番かっこよかったユウカちゃん…。
「トロンお願い!ハナもう目から憧れが零れてる!」
おうちのカギを失くしちゃったときおうちに入れてくれたユウカちゃん……。ドレス着て公園で遊ぶユウカちゃん………。
「も~~っ!!トロンったら絶対面白がってる!もういい!だったらハナには全部言っちゃうからね!?いい!?ハナ、聞いて。」
魔法少女みたいなユウカちゃん…………。
「私、魔法少女なの。」
魔法少女のユウカちゃん!マジカル・ユウカちゃんだ!!
「やった~~!マジカルユウカちゃんだぁ!良かったぁ~。リコーダーのパペットマペットじゃないんだね!」
「ふぅ~…。って誰よそんなおおよそ小学5年生で知りえない芸人をハナに吹き込んだのは!」
「エイジくんがこないだ言ってたよ。オレは一生知ってる芸人とふるぅ~いネットミームでしか笑えなくなっちまったんだ…。って。」
「兄さんじゃないの!!」
とにかくユウカちゃんがいっこく堂じゃなくて良かった!なんかブツブツ「お…ちゃん」とか「ずっ…テレ…てる…セに」とか言ってるけど良かった!
「じゃあ、ハナも混~ぜて!ハナはね、悪のかんぶやる!!」
………ユウカちゃんが動かなくなった。あっ、カラス鳴いた。
半開きのへの形の口してだまってこっち見た。カラスもこっち向いた。
だんだん泣きそうな顔してる。やっぱりキレイな服だな。カラスも鳴きそうな顔だねアレは。
………そういえば帰るところだったの思い出した。「やっぱ――」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
今、何時だろう?と思ってまわりをキョロキョロしたところでなんか、変だと思った。けっこう大きい公園なんだけど…、ずっと、誰もいないよね?
「こんな面白れぇ嬢ちゃんがいたのかよ!しばらく見てたがまァ、面白れぇったらありゃしねェ!」
ユウカちゃん、たしかに足速かったけど、人って声も聞きにくいところからパッと飛び込んでこれるっけ?
「お前なら次も大丈夫だな!いやぁラッキーだぜ!」
さっきからリコーダーのふくろがしゃべってる。もしかしてこれって。
「腹話術じゃないわよ。」
……思ってないのに。
「さっさと話してくれたら良かったのに。ハナがなんかこう、ちんちくりんになっちゃったじゃない。いい、ハナ?説明させてちょうだい。」
そう言ってユウカちゃんが左手の人差し指から指輪を外そうとして。ちょっと光ってて、キレイな指輪。
そして外したら、急にパッとまぶしいくらいに光って、で、ユウカちゃんも光って……?
いつの間にかせい服のユウカちゃんに戻ってた?
今見たことにビックリしちゃって、何も光らなくなってユウカちゃんが一息ついたところでやっと、
「すごい………。」
ってだけしか言えなかった。
「落ち着いた?じゃあ改めて説―」
「すっごーいユウカちゃん!!ホントにマジカルだーっ!!」
「あぁそうね、最初から落ち着いてないんだったわ。あと私はマジカルじゃないわ。」
マジカル良いのに。
「じゃあ説明させてね。
私は、2年くらい前から魔法少女になったの。だいたいこの市くらいの範囲かな?その時は先輩の人がいて教えてもらいながらだったけど……、今は一人で悪いやつと戦ってるのよ。だから、腹話術師でもないし、ハナちゃんは普通に学校に通ってもいいの。私はまだまだハナちゃんのお姉さんなの。そして兄さんの言ってることも無視していいのよ?」
良かった。変なユウカちゃんはいなかったんだね…。お兄さんのが移っちゃったのかと…。
「でも腹話術じゃないならトロンくん?っていうあのリコーダーのふくろさんは?」
ドレスと一緒に消えちゃったけど…。もしかしてあのふくろが妖精さんみたいなやつ?そんなこと、ある?
「アヒャヒャヒャ!!俺ってばリコーダーケースになってたのか!?そうならそうと教えてくれりゃあ良かったのによユウカ!ヒャッヒャッヒャ!」
でっかいガチャガチャした声でユウカちゃんのうしろからなんか、ぬいぐるみ?みたいなのが出てきちゃった。なんだかわたの無くなったヘビのぬいぐるみみたい。
ちょっとひんそーでカワイイかも。いやダサいかも…?いや、う~ん?
「この落書きみたいな子が私のパートナーのトロンちゃんよ。口が悪いのだけはどうしょうもないけどとってもカワイイでしょ?古いトンネルの壁みたいじゃない?」
それってカワイイの……?ユウカちゃんってこういうの好きだったんだ。外国の自主制作アニメとか好きそう。
「この子は、《なにか》?の遣いとか何とか言ってたんだけどね。魔法少女のサポートする生き物らしくて、みんなこの子たちの力を借りて魔法を使ってるの。」
「《なにか》って…?なんだかわかんないの?アニメのやつとかってハッキリ教えてくれてたけど……。トロンくん?」
ユウカちゃん、だまされてたりするんじゃ…?何て言うのか、魔法少女サギってコト?
「あァ?まァ。良いじゃねぇか。そりゃアレだぜ。犬にニャーって言うみたいなモンだ。サルにラーメン作らせるって言った方が分かりやすいか?違う?そう……。じゃあ――。」
なんかモヤッとするけど……ま、ユウカちゃんがやってるならいいのかな?っていうかそんなことより!!
「やっぱりマジカルユウカってことは魔法使えるんだ!!どんなの!?見せて!?ばくはつする!?」
「だからマジカルはやめてってば。……見せないわよ。あんまり面白いモノでもないんだから…。1個しかないし。」
ここまで聞かせられて気にならないワケがあるわけないじゃないアル。ん?どっちだっけ?いや、ある。
「あのねハナちゃん。私はね、ハナちゃんが心配なの。いつも楽しそうな事あるとバーッと飛び出しちゃうし「飛び出すの!?」気になることあると分かるまでピッタリ張り付いちゃうし「貼り付くの!?」……もう縛って「縛るの!?」
エイジくんに聞いたのだ。ユウカちゃんはこう言うと面白いって。やっぱりエイジくんはいい事いっぱい言うなぁ。
「せっかく心配してあげたのに!!絶対直した方がいいよその性格!良いもん見せるから!!ガッカリしないでよね!!」
そう言うとユウカちゃんはトロンくんの首?をつかんだ。ヘビとかって首ってあるの?ヘビと同じでいいの?
「元はと言えばアンタが結界を忘れてたせいでバレたんだからね…!ちょっと見せてすぐ戻るわよ…!」
結界って……。見える見えないとか言ってたのってトロンくんが普通の人には見えない魔法使ってたってことなのかな?
「あ?別に俺は結界切ってねぇよ?この嬢ちゃんはこれまた面白い事なんだが…、んあ?」
とか言ってるときに、トロンくんの背中に浮いてる鏡合わせのギザギザみたいなのが光りだした。コレはたぶんホタルイカとかと同じだと思う。ハナはホタルイカには詳しいので知っているのだ。
「遊びはここまでみてぇだな。ユウカ出たぞ。”バケモノ”だ。多分この感じは、ヒト型だな。強いのは居ないみたいだが…、ちょっと多いかもしんねぇ。気ィつけろよ。」
ホタルイカのクセに急に真面目になっちゃった。なんだか置いてけぼりになりそうな気がする。
「分かったわ。ハナ、魔法見せられなくてとっても残念だけど敵が出ちゃったから行かなきゃならないの。コレはもう仕方ないヤツだから!非常に!残念だけど!!」
今日イチの爽やかな笑顔だった。
「じゃあ私は行くから!可哀そうだから変身くらいは見せてあげるけど!ついて来ようしても無駄だからね!」
「ホント!?ありがとう!頑張ってね!!」
せっかくだから体育座りで。こういうのは正しいかっこうで見なくちゃいけない。ちゃんと覚えてますよ。エイジ師匠。
そしてユウカちゃんはさっきの指輪を取り出して、
「フラワー・エンゲージ!!」
左手の人差し指に、ゆっくりはめた。
指輪から光があふれてきてユウカちゃんも黄色い光に包まれる。あとちょっと浮いてる。おもしろい。
「あっ、トロンくんもこっちで見ないとダメだよ。画角が。」
みるみるユウカちゃんにリボンやらフリルやらがまとわりついていってる。手とか足とかから、カワイイベストに、足元が見えないんじゃないかってぐらいまであるスカート、どれも魔法少女って感じでワクワクしちゃう。
こんな間近で変身をみられるなんてこーふんしちゃうって!!力いっぱいトロンくんをにぎりしめてると(なんか色変わった?)、最後にトロンくんが光ってきて……、
ポンッてリコーダーのふくろに変わっちゃったかと思うとユウカちゃんのベルトにビュッと飛んじゃった!
「大胆不敵に魔法少女!ガオーン・フラワー、推参!!」
こうして決めポーズまであるんだもん!サイッコーに決まってるよユウカちゃん!
「すごい!!カッコいいよユウカちゃん!!たぶん!!いってらっしゃい!!」
「ハナもやっと分かってくれたのね。ありがとう。行ってくるわ!だから、離して?」
「ムリ!」
さっきトロンくんがそう着されたとき、思いっきりにぎったままだったから。なんかこう一緒にはさまっちゃった♡
「あ〜もう!どうにか外せないの!?これっ……!トロン!」
ユウカちゃんお腹ほそーい。
「ゲホッ!ゴホッ!ッッカヒュ!!!悪ィが!ムリっぽい。連れてくしかねェかもな。」
いいにおいする〜。
「連れてくって…!大丈夫なの!?」
ここにトロンくんの背中のやつと同じのついてる。
「構わねェから急ぐぞ。大丈夫だから俺らで守りゃいいし。それに……まァまだ分からんか。」
あっ、帰るところだっ
「まったく、いつも大事な事伏せるんだから!ハナ!しょうがないからこのまま行くわよ!走るから捕まってなさいね!!」
「がってんだ!」
グッとユウカちゃんのお腹まわりにまとわりつくと、バンッッッ!!とコンセントの2つの穴に銅線を入れたときみたいな音がした。そうしてものすごい速さで走り出したユウカちゃんに、それはもう必死でしがみつく。目の前をバタバタ泳ぐリボンのひもとお友達になれそうな気がした。
「どこ、向かってるのォォォウォウウォ!?」
「町はずれの廃校のところよ!舌噛むから黙ってなさい!!」
「WOWWOW!!あらそいはぁあ〜〜!!」
おもしろすぎる。全部の遊園地は魔法少女を置くべきだと思う。今度ママとお出かけするときの運転はこのくらいでお願いしよっと。
夕方から夜になる時間、太陽は一番明るく、かげは一番黒くなるこの時間。
もう何十分かすると暗くなるけど、今日ってお月さまは出るのかな?今目の前にあるこのなくなっちゃった小学校には電気はあるのかな?けっこうニガテなんだけど…。
「――って感じで魔法少女ってのは日夜平和のために戦ってるってワケだ。分かったかいお嬢ちゃん?」
革とスナップボタンでできた生き物がしゃべってる。しゃべるんだったらその口のとこカパカパして欲しかったんだけど。
「風でなんにも聞こえなかったよ?ていうかしゃべってたの?だったら言ってくれたら良かったのに。」
「……ハナちゃん?それ、大丈夫なの………?」
あ、そうそう。左うでを右手で支えながら45度の角度に上げくるっと回して差しこむと……?
ゴグンッ…!と肩の骨から音が鳴る。やっぱり外れた骨をはめるにはコレだね!
「ヒョエッ!!」
「説明しよう!ハナちゃんは鉄棒やっては肩が抜け、バレーをやっては肩が抜け、背泳ぎしては肩が抜け!抜けクセがついちゃいました!将来は忍者もしやにいれてます!」
ユウカちゃんは真っ青な顔で見てくる。別に痛くないのに。ユウカちゃんは戦う魔法少女なのにコレってそんな変かな。
「あぁビックリした…。あんまり目の前でやんないでねソレ…。」
ふーん。
ポクッ!ポクン!
「やめてってば!」
「はーい遠足はここまで!こっからは真面目にやんないとね!行くよ!ついてきて!」
「"バケモノ”は暗いところに発生してあまり日の下に出てくる事はない。けどな、ほっとくと人間を襲いだすんだ。……さっきも言ったんだけどな。」
カギのこわれてた正面玄関からスタスタと入っていくユウカちゃんのうしろをついてく。なんだかくつをはきかえないで学校に入るって悪いことをしてるみたいでドキドキする。
「ハナちゃん、守ってあげるから後ろにいて絶対離れないでね。………そして抱き着かないで。動き辛いから。
今回は体育館に結構いるみたいね。それまでの道も警戒していくわよ。魔法少女はこのトロンたちのおかげで探知できるようになるんだけどざっくりしか分からないから。」
なんて言いながらユウカちゃんはゆっくり教室の中を見ながら歩いてく。あんまりきんちょうしてないみたいでカッコいい。しょうじきちょっと怖かったけど、ユウカちゃんがいれば大丈夫かも。
「それにしても……、トロン?なんでハナちゃんを連れてきたの?なんだかわちゃわちゃしたまま連れてきちゃったけどほどいたときに一旦送ればよかったと思うんだけど。」
あっ、それアリだったんだ。どっちにしろ気になるから帰るつもりもなかったんだけどね。
「あァ、そうだソレだ。あんまり嬢ちゃんが面白いモンで大事な事忘れてた。
嬢ちゃんはな………、愉快なんだ。」
「イヤと言うほど知ってるわよ!!」
えへへ、褒められてしまいました。ハナちゃんポイントをあげよう。50点ずつ。
「落ち着けって。一応敵地だぜ?それでな、嬢ちゃんなんだがな、どうやら魔法少女の素質があるらしい。きっと似合うだろうな♪」
えーーーっ!?!?
どんな名前にしようかな?決めゼリフどうしようかな?服ってどうなるのかな?魔法ってなに使えるのかな?
「ホントーーッ!?!?やりたいやりたいやりたーーい!!!」
やっぱりゆうかちゃんに合わせたいよね?たしか魔法少女ガオーン・フラワーだったから…。
「ウウ……、ウルサ………、カンベンシテ……………。」
「へっ?」
低い、うなるような声がした。と同時に
ユウカちゃんが暗いろうかの先を見つめてからだを低くする。片手はハナを
守るように伸ばし、もう片方はトロンくんに伸びていた。
「”バケモノ”よ。ハナは後ろにいてね。」
たしかにいる。まだ暗くてわかんないけどこっちに来てる。
「ハナ、大丈夫よ。」
”バケモノ”がゆっくり窓のそばに来た。足元から光が当たって見えてくる……。
「私の魔法、見せてあげるわ。」
ソレは暗くて黒い。ヒト型のなにかだった。まっすぐ見ると近くにいるのか遠くにいるのかわからないくらい。なにか小さな声で言いながらフラフラ歩いてくる。
「マジカル☆スティック。」
”バケモノ”をまじまじと見ているとユウカちゃんのベルトの左側についたトロンくんが光りだす。周りや”バケモノ”が暗いぶん、見てられないくらいの明るさで。
スナップボタンが開けられるとそこからひと際光があふれてきて、ユウカちゃんがそこに右手を入れる。
「ガマンデキマセンカラァ~~!!」
がばぁッ!とフラフラの”バケモノ”がユウカちゃんにおそいかかる。ユウカちゃんはまだ一歩も動かない。思わず目をそむけてしまいそうになる。怖い!
”バケモノ”の口?だと思う場所がグワーッ!!と真っ赤なだけの歯のない穴がユウカちゃんの頭より大きく開いちゃう。
ユウカちゃんはまだ一歩も動かないでトロンくんから何か出そうとしてる……。ホントに大丈夫なの……?
ユウカちゃんの光をかくすみたいに口がおおいかぶさってくる。
そして、そのタイミングで、
バゴッ!!
にぶい音がひびいて”バケモノ”が真横にはじける。1mくらい水平に飛んでって、ズシャンッ!とまどを首だけつき破って。ぐでんと動かなくなった。
「ハナ、怖くなかった?」
そう言いながらふり向いたユウカちゃんの右手には、銀色ににぶく光る……ぼう?がにぎられていた。
なんだか変な形で落ちていた”バケモノ”の身体は1分くらいしたらシュワシュワと入浴剤みたいに空気に溶けてった。もう割れたまどだけが残っている。
「………これが私の魔法よ。トロンから、その、マジカル☆スティックをね、取り出せるって…ヤツ。落としたりしてもまた出せるわ。」
マジカル☆スティック……?ステッキじゃなく?っていうか、
「なんでそんなビミョーな顔してるの…?」
なんだか困ったような悪いことした子みたいなはずかしそうな顔してる。
「だって……ハナ、魔法少女って聞いてすごくキラキラした目で見てくれてたじゃない?タイミングも悪くて期待させちゃったし…。それだけ?とか思わないの?」
「そんなことないよ!!だって、キラキラしててキレイだったし!しかもあのちょっと怖いバケモノを一発でたおしちゃうんだもん!カッコいいよ!そのスティック?だって、魔法少女って言ったらやっぱりステッキだもんね!!」
ユウカちゃんは昔っから運動もばつぐんでカッコよかったもん。イメージとぴったりだ!
「だって、コレ……。」
ユウカちゃんがマジカル☆スティックを見せてくれる。にぎりやすそうな黒いゴムみたいな持ち手とアルミみたいな銀色をした段々の線が入った円柱の形したぼう。
「ただの警棒なんだもの。」
それから、ユウカちゃんと”バケモノ”の反応があるたびに寄り道をしながら、まずは体育館以外をキレイにしていく。
7~8体くらいがバラバラに出てきたけどみんなユウカちゃんが首から上を警…マジカル☆スティックで何発か、もしくは軽くこづいてからの一発で次々とのしていった。
「正直ね、ユウカちゃんには魔法少女なってほしくないんだ。」めぎっ!「魔法少女なんて言ってもアニメみたいな、華やかな技とかもないし。」
言いながらユウカちゃんはなれた手つきでヒュンッと回して払う。
「このマジカル☆スティックをうまく使えるのも私がたまたま似たようなことやってただけだし。雷剛流小太刀術って言うんだけど。」
名前すご。かなり小っちゃいころからなんか習い事やってるっていうのは聞いてたけど、そんな面白そうなヤツだったなんて。教えてくれたら良かったのに…。
「だから…、連れてきておいて申し訳ないんだけど、ハナには魔法少女、継承するつもりはないんだ。ごめんね。」パンッ、ゴシャ!!
飛びかかってくる”バケモノ”のうでをたたき落としてから”バケモノ”が自分からマジカル☆スティックにぶつかってくみたいにキレイに顔をたたく。おどってるみたいにキレイだった。キレイだったし”バケモノ”は名前のわりに弱そうに見える。なので、ハナも魔法少女、やりたいです。「ダメだからね。」やりたいです……。
「さて、だいたい片付いたかしら。後は体育館の中だけど…。」
チラッとユウカちゃんが外を見る。さっき日が落ちて、あっという間に暗~くなっていた。でも今夜は満月だったみたいで月の光が差しこんでいてけっこう明るい。
「この時間になると”バケモノ”は活発になって厳しくなるわ。体育館にはまとまった数が居るみたいだし。近くにいた方がいいから体育館には一緒に行くけど入口に居てね?いい?」
「がってん!」
こればっかりはヘタなことしたらホントに危ないかもしれないので聞きます。
「…………。」
……トロンくんがなんだか揺れてる。
体育館、でっっかい両開きの引き戸がち。
その向こうからなんて言ってるのかわかんないけどうめき声がひびく。
「近くになって分かるが思ったより多いかもしれねェな。用心しろよユウカ。」
「ええ。ちょっと待ってね。これはもうムリかな。」
そしてユウカちゃんは手元の曲がったマジカル☆スティックを見て、ポイッと捨てた。
ゴトッっと落ちたマジカル☆スティックはそのままに、またトロンくんが光りだす。今度は最初よりたぶんだけどちょっと長い時間がかかって、さっきより太くて黒い重そうなマジカル☆警棒が出てきた。
「結構自由なのよコレ。長さとかも弄れるし。あぁ、そっちはもう要らないわね。」
そう言われてさっき落としたマジカル☆スティックを見たんだけど、さっきあった場所からはもうなくなってた。
「さぁ、行くわよ。心の準備はいい?」
さすがにきんちょーする。
「うん…。頑張ってね…!」
ユウカちゃんはうなずくと引き戸の両方の取っ手に手をかけて、一気に開いた!
ガラガラガラッッ!
身体を大の字みたいにしたユウカちゃんとそのわきからのぞいたハナをいっぱいいた”バケモノ”がいっせいに注目する。それぞれのうめき声もいっせいに止まって、引き戸が止まった音だけが体育館にひびく。
たぶん…、20体くらいいるんじゃないかな?けっこう大きさはバラバラだし爪がとがってたりうでが剣?みたいな形のもいる。まだだれも動かない……。
たっぷり5秒くらいして、まずゆっくりユウカちゃんが何歩か中心に歩いて行って、止まる。”バケモノ”のどれかから声がもれる。「メ、メェ…。」
ユウカちゃんは足を前後に開いて正面にマジカル☆スティックをまっすぐかまえて左手はこしにそえる。「メ、メメメメメメ」
ユウカちゃんのすぅっと息を吸う音がやけにハッキリ聞こえた。
「メガネッコジャナイッスカァァァァア!!!!」
1匹の”バケモノ”のさけび声がピストルの音だったみたいにユウカちゃんをゴールにしていっせいに走り出してくる!
「ギエァアアアアアア!!」
たくさんの”バケモノ”の声が重なってビリビリくる。ハナ言われた通りに入口で待ってるけど、まんなかに居るユウカちゃんはものすごくプレッシャーがあると思うんだけど…。ユウカちゃんはまだピクリともしてない…。
あっという間に近くに来ちゃって、正面にいる爪の長いヤツがだきしめるみたいにがばぁっとふりかぶったそのとき!
パンッ!!
とさっきまで聞いてなかった音で”バケモノ”が打ち上げられる。
ユウカちゃんのマジカル☆スティックを持った右うでが真上に上げられていて、いっしゅん、音楽のしき者みたいにあやつったのかと思っちゃった。
打ち上がった”バケモノ”に目が行っているスキに、パパパパン!!と同じように軽い音が鳴って一番近くにいた”バケモノ”たちがうしろにふっとぶ。
「――雷剛流小太刀術・五芒流し――」
広がった輪のまんなかにいるユウカちゃんは、スティック持ってるうで以外はさっきまでのポーズとあまり変わんないように見えた。「大丈夫よ、ハナ。」
目線は変えないで静かな目つきでユウカちゃんは話しだす。キレイなその声はやけにハッキリと聞こえる。
「雷剛流は最小限の力で受け流し、相手に返すカウンター主体の流派。単純な襲い方しかされないコイツら相手には相性抜群よ。」
………………ユウカちゃん。
また広がった輪がちぢんできて、それぞれがふっとんだぶん今度は時間差でおそいかかる。ズドン!パッパパバン!と気持ちいいくらいにスティックでたたく音が鳴る。
「魔法少女の力で、私の基本的な身体能力も底上げしているし、この程度には負けないわ。」
そう言いながら次々と相手をはじき飛ばしていくユウカちゃんを見て、思わずぽつりと声が出る。
「ユウカちゃん………別に聞いてないんだけど……。」
まぁカッコいいからいっか。
とにかくユウカちゃんも大丈夫みたいだし、もう4体くらい動かなくなってるし。残った”バケモノ”もおんなじようなおそい方しかしないみたいだし。
体育館のまんなかにいたユウカちゃんはキビキビした動き、こういうのをキレのあるっていうのかな?をしながらまた1体また1体とたおしていく。帰ったらハナにもあらためて教えてほしいな。
「あとは!」ゴシャッ!!「コイツだけね!」
あっという間に最後の1体に……。アレ………?なんか……。
こんなに少なかったかな?
「ダーレダ……。アレ、メガネッコジャナイ……。」
耳元で。
最初に飛んだヤツだ。
気が付いた時にはもうおそく、目をおおうように真っ黒でとがった爪が近づいてくる。ダメかも。
「ユウカちゃ「ハナァ!!」ドンッッッ!!
もう泣いちゃって、ボンヤリしている目の前が完全に閉じる、その前に。黒いギザギザに白い手ぶくろが割り込む。
メキッ…!震える手ぶくろが、真っ白な手ぶくろがだんだん赤くなっていく。
「ハナにッ……!!手ぇ出すなァア!!」
パキッ…ビキッ!!
ユウカちゃんの指が”バケモノ”の爪に食い込んで、
バガァァン!!
砕いた。怖い顔で冷や汗流したユウカちゃんがそこにいた。さっきまでの余裕そうな感じがまるで無くなってて、スティックも持ってない。
「しゃがんで!!」
ほとんどボーっとなっちゃったまま言われたとおりにしゃがむと、目の前のユウカちゃんがふわっとスケート選手みたいにはねて回る。長いスカートが広がって中から重そうな黒いくつが伸びて、バチィィ!!!
ものすごい音がして思わず目をつむった。キィン…。
もう怖くなっちゃって小っちゃくなってるしかないハナに優しく声がふってくる。
「もう大丈夫よハナ。怪我はない?」
ゆっくり目を開けると、息を切らせながらそれでもにっこり笑うユウカちゃんがのぞきこんでいた。
「あ、ありがっ…ッズズ…、ぁりがとぉ…ユウカちゃぁん……。」
「大丈夫みたいね……。ごめんね。怖がらせちゃって。」
こんなに怖かったのは初めてだったしこんなに安心したのも初めてだったから、こしがぬけちゃって立てなくなっちゃった。
あらためて周りを見ると、もう”バケモノ”は見当たらない。シュワシュワの死体がそこらに転がっている。よかった…。「グスッ……。」
ぐしゃぐしゃの顔をぬぐって鼻をすすってふぅっと一息つくと、ユウカちゃんが手を差し出してきた。見ると手のひらに一直線に血がにじんでいる。
「え……、でも、」
下からうかがうとユウカちゃんは申し訳ない顔をして言い出す。
「本当に、ごめんねハナちゃん。こんなことに巻き込んでしまって。今の事も私がもっと気を付けていれば良かったんだもの。」
「そんな………!違うよ。ユウカちゃんは”勝手に巻き込まれたハナ”を助けてくれたんだもん、こっちこそ…ごめんだよ。」
そして、ユウカちゃんの手首をつかんで起こしてもらう。
「ありがとう!」
起こしてもらってからおしりのほこりを払ってると、うしろの”バケモノ”がシュワシュワ黒い泡になって溶け始めた。
やっと、これで終わりかな?
「っつ……。」
ユウカちゃんは自分の手を見つめてしかめっ面だ。……大丈夫かな。せめて手の手当だけでもできないかな?と思って振り向く。と、ジャリって音がして何かをふむ。
「なんだろ…?」
足をどけて小さなそれを拾い上げると、指輪だった。なにかふくざつな形をしていて
「ハナ、待って。まだ終わってないわ。」
顔を上げるとユウカちゃんは体育館の奥を見つめてる。そういえばたおした数、最初の感じより少なかった?かも……。
「下がってて…。トロン!!」
ユウカちゃんがもう1本取り出そうと、トロンくんが光りだした。
まだいる。
どこ?暗いけどこの体育館の中は全部見えてる。さっきの事を思い出して天井を見るけど鉄骨とはさまってるバレーボールしか。
「来るわ!」
そして体育館の一番おくの高くなってるとこ、その横の小っちゃい部屋の戸がメキメキ…!!とふくれあがったかと思うと、ベキャァア!
はじけて、中からひときわ大きな”バケモノ”が出てきた。
「小癪な……ッ!中で合体してたんだわ!!」
「アア…!テンバイ……クソ……!!」
またコイツもなにかをさけびながらフラフラ向かってくる。さっきのヤツより大きな爪は床もカベも紙みたいにズタズタにしながら。
「いっ!!」
ユウカちゃんの短い悲鳴が聞こえてそっちを見る。光はおさまっていて、さっきのよりかなり長いスティックを両手でにぎっていた。その手は、身体ごとふるえていてどうみても両手には血がにじんでいる。
「逃げて…!ハナ!!」
それでもユウカちゃんは”バケモノ”とハナとの間に立ってくれる。でもこれは。
これは、もう、ダメかもしれない……。さっきこしがぬけたばかりでコレだもの。走ってにげるなんて出来っこないし……。こんなになってまで助けてくれたユウカちゃんを見捨ててにげるなんて、できない。
「なァハナ、指輪。嵌めてみろよ。」
いつの間にかトロンくんは元のすがたにもどっていて、ハナのそばにいた。
「さっき拾ったヤツさ。お前なら何とかできるぜ。絶対な。」
手の内を見つめる。さっきの指輪を見つめる。今はうすくぼんやり光っていてハナを待ってるみたいに見える。使い方も、わかる。
「なるんだよ。魔法少女にな。」
顔を上げるとなんとか”バケモノ”を引き付けるユウカちゃんがいた。
「――力に、なりたいッ……!!」
戦えるかわかんないけど!とにかくやってみる!!
変身しよう!と念じると口が勝手に動き出す。
「フラワー・エンゲージ!!」
右手の薬指にその翼のレリーフの指輪をはめる。
たちまちうすく光っていた指輪はまぶしく、でも優しく光ってハナの身体を包んでいく。
まずは足。シンプルなデザインのちっちゃいリボンの付いたローファー。
次に腕。真っ白な手と手首からひじまでピンクのオペラグローブ。
そしてフードの付いた短いケープのマントフリルいっぱいのパニエの入ったミニワンピース。
えり元にはマントをとめるおっきなリボンのブローチ。
最後に大きく指輪が光ったかと思うと、ハナの頭のてっぺんに集まって、羽の付いた天使の輪っかみたいなのになった。
「天下無敵の魔法少女!プリモ・フラワー、よろしくね!!」
光がおさまってきて、ちょっと浮いてたのも元の位置にもどる。なんだか軽くなった身体の調子と、服の動きやすさをたしかめるとパンッ!と両手で自分のほっぺをたたいて気合を入れる。なんとなく自分の魔法の使い方はわかる。指輪から感じられるみたい。とにかく今はユウカちゃんを助けないと!
「ユウカちゃん!あとは任せて!!」
言うが早いかとにかく思いっきりつっこむ!たぶん大丈夫!!
そして一番前にいた”バケモノ”の足元まで一気にふみこんで、
「ハナ――!?」
「ンガァァァァ!!!」
とたんにするどい爪がうなり声と風を切る音を乗せて向かってくる。当たったら、たぶん死ぬ、けど。関係、ない。
「止まって」
”バケモノ”は止まる。
ふるえる程度も許さないって思ったから。”この子”はもう絶対に自分の意思で動くことはないし、ハナに逆らう事もできなくなった。
良かった。ユウカちゃんを助けられる魔法で。
「もう大丈夫だよユウカちゃん。ハナも、戦うから。」
マ ジ カ ル ☆ コ ン ト ロ ー ル!!
コレがハナが使える魔法だったの!とっても便利!ユウカちゃんもすっっっごく強い!ってほめてくれたし!
そのあとは、ユウカちゃんのケガは治せない…。って言ってたらトロンくんたちが、自分の担当してる魔法少女ならこのくらいなら何時間かかければ治せる能力があるって言って安心して、ちょっと休んだら帰ることにしたの。
それからユウカちゃんには、「なっちゃったならしょうがない」て言われて帰りながら魔法少女のこととか、バケモノのこととかいろいろ教えてもらいました。と言っても今日はそれはそれは大変だったし覚えてないこともちょっとある……けっこうある。まあいいけど。また大事なことあったらフォンくんに聞くことにしよっと。
とりあえず、
・バケモノが出たらまずユウカちゃんと合流する。
・家族にも友達にもないしょにする。
これだけは絶対に守るって約束したから書いておきます!
このせいでママにはすっごくおこられたけど……(ちょっとくらいいいんじゃないでしょうか!大変だったんだから!)
とにかく、これからはユウカちゃんといっしょに魔法少女としてこの町の平和を守ることになりました!
と、いうわけで!!《魔法少女プリモ・フラワー》!!!!
がんばります!!おやすみ!
5月10日
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