同じクラスに転校してきた絶世の美少女が、僕に興味を持つなんておかしいと思ったんだ。どうやら僕は国家機密の軍事兵器らしい。
重里
プロローグ
「世界最強の軍事兵器」
――ああ、青い。
世界に色がある。
鮮明な色合いに小さくため息をついた。
自身の呼吸音が耳の中でやたらと響いている。
それなりに大きな建築物だったことが一目でわかる鉄骨、街路の植樹、ガードレール、看板の一部。
かつての面影達が無数に散乱している。
高さ数メートルほどの崩れかけたコンクリートがある。
それに背をもたせ掛け、怯えた目でこちらを見ている男がいる。
軍服を着ている彼は兵士に違いない。
ゆっくりと近づく。
彼は何かを叫ぶように口を大きく動かした。
でも僕には何を言っているのかはわからない。
ただ彼が発する音で耳がわんわんと鳴り響くだけだった。
彼は青ざめた顔をしていた。目に涙を浮かべ、ガタガタと体を震わしている。
こちらに手を向け懸命に首を振っている。
――そうか。
懇願しているのか生命の存続を。
僕は右手を振り上げ、眼の前の虚空を平手打ちのごとく真横に振り抜いた。
空間がぐにゃりと曲がった。
ゼリー状の液体のように波打つと、それに合わせて彼の上半身はいびつに歪んだ。
パァン!
甲高い音を立てて、一瞬後には元の形に戻った。
絶望の表情は引き千切られ、真っ赤な体液をびしゃりと地面にまき散らした。
汚らしくも、見慣れたその光景から視界を外し、あたりをぐるりと見回す。
大小さまざまな形の瓦礫が散乱している。先ほどと何も変わらない景色が広がっているだけだ。しかし。
――まだいる。
案の定、次の瞬間、少し離れたところから空間の歪みを感じた。
危険を察知した僕の部品は自動的に力を発動させる。時間はゆっくりと流れ出した。
乾いた発破音が間怠っこい響きで聞こえてくる。
その中で歪みの発生した方向を僕は見る。
左前方100mほど先だ。
人類が文明の証として築いた建築物がまだ形を残している。
そこにある雑居ビルらしき建物の3階に、半身を壁に隠し、こちらに銃を構える人間が見えた。
続いていくつもの歪みが発生した。
その歪みを作る原因は、まっすぐこちらに向かってくる。
弾丸だ。
だがそれらはまったく僕に当たる気配がないことを、僕は目で確認する。
時間の流れを意図的に戻す。
世界は途端に慌ただしくなった。
弾丸はビュンビュンと風切り音を立てながら、僕の後方に飛び去っていく。
瓦礫にぶつかり小さな音をたてる。
雑居ビルの前に停めてある軍用車両に数名の人間が集まっていた。
上部に取り付けてある大きな銃に、重たそうな帯をせかせかとした動きで取り付けている。
その銃口をこちらに向けると、勢いよく火が噴いた。
僕は、力をつかう。
ダ、ダ、ダ、ダ、ン――。
連続した打撃音が一帯の空気をぼわんぼわんと震わせた。
放たれた銃弾は空間を歪ませながら赤い閃光を伴ってこちらに向かってくる。
しかしその殆どはやはり僕にはあたらない。通り過ぎるだけだ。
ただ無数の弾丸の中に、僅かな数だが体に向かってくるものを見つけた。
右に左にひらりひらりと撫でる様に手を振り、空間をぐにゃりと曲げる。
時間の流れを元に戻し、歩き出す。
弾丸は僕が曲げた空間に沿うようにして、地面やそこらの建物の残骸に
乾いた衝突音が鈍く響き渡った。
――どうして逃げてくれないんだ。
どうにも気怠い気持ちになる。
でもこれは任務。僕らが存在する意義なのだ。
歩きながら空に向かって右手を上げた。
そしてその手を兵士たちが潜む雑居ビルに向かって振り下ろす。
ゴォォォ――ッ!
鉄筋コンクリート製であろうそのビルは、僕が作り出した『重み』によって、砂のお城を踏みつけるような簡単さで押し潰されていく。
鼓膜をつんざく轟音と衝撃波、そして爆風を生み出した。
ビルの壁面は粉々に砕け、鉄骨や窓ガラスが周囲に勢いよく大量に飛散する。
これでもかというほどの土埃を多量に舞いあがらせた。
それらは辺り一帯を大きく包み込み、兵士や装甲車がどうなったかなど、皆目わからない。
崩れ去ったビルの残骸に埋もれたか、衝撃で飛散したか、それとも押し潰されたか――。
そのいずれか、または全てに違いない。
僕はその光景をぼうっと眺めていた。
舞い上がる粉塵で何も見えないのに、ただそれを見つめていた。
しばらく後、やっと視界が鮮明になる。
しかしそこはやはり他の場所と同じ。
ただ瓦礫がある――。
それだけだった。
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