九章 夜霧家の崩壊

隅中 巳の刻

幕間

夜霧の敷地に陽光が射していた。


本宅から出てきた孤独が一度大きく背伸びをした。

それから南東にある巽の宅の方へ目を向けた。

それからしばらくその場で様子を窺っていたが、

「ちっ」と舌打ちをすると東回りに歩き出した。

しかし、三歩進んだところで足を止めると、

「一二三の姉貴に話を通しておくか・・」

と独り言ちてから卯の宅の方へ進路を変えた。

孤独の顔には自ずと笑みが浮かんでいた。


不意に一陣の風が吹いた。

孤独の足がふたたび止まった。

孤独はヒクヒクと鼻を動かすと

素早く周囲に目を走らせた。

そして懐から鉤爪を取り出して装着すると

大きな目を見開いて身構えた。

「・・陰陽、てめえか?」

孤独の表情からは笑みが消えていた。

周囲の空気が一瞬で張りつめた。

「・・姿を見せろよ」

孤独がぼそりと呟いた。

そして大きく息を吸い込んだ。

「俺様に不意打ちは通用しねえぞ。

 一切の音を立てずとも、

 どれだけ気配を消そうとも、

 匂いだけは完全に消し去ることはできねえ。

 てめえの『占術』が

 どれほどのモノか知らねえが、

 俺様の鼻を欺くことはできねえんだよ!」


風が止んで

遠くで鳶が「ピーヒョロロ」と啼いていた。


「・・ちっ。

 どのみち、

 男で残ってるのは闇耳を含めて

 俺達三人だけだ。

 今仕掛けてこないなら

 近いうちにこっちからいくぜ。

 首を洗って待ってろよ。

 ひっひっひ」


孤独はくるりと向きを変えると

卯の宅ではなく

子の宅の方へ向かって歩き出した。

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