四章 丑三つ時は別の顔
鶏鳴 丑の刻
闇夜
雲が月を完全に覆い隠し、
夜霧の屋敷全体が深い闇に包まれていた。
その暗闇の中を歩く一人の女の姿があった。
腰まで伸びた女の髪は
周囲の闇より暗くそして黒かった。
不意に、女の足が止まった。
女の視線の先にポツンと灯りが見えた。
子の宅の灯りだった。
今、その戸が開いて中から大きな男が出てきた。
女は身を翻して屈み込んだ。
長い髪が女の身体を覆うと
女の体は完全に闇と同化した。
男は両手を広げて大きく欠伸をすると、
ふらふらとしたおぼつかない足取りで、
女とは反対の西の方へと歩き出した。
女は静かに立ち上がると
足音を殺して男の後に続いた。
男は今にも転げてしまうのではないか
と思われるほど
その大きな体を左右にゆさゆさと揺らしながら
鼻歌交じりに歩いていた。
その時、
突風が吹いて女の長い髪を巻き上げた。
同時にその風は前を歩く男の体を大きく揺らした。
男の右足が空中へ煽られて男は体勢を崩した。
それでも男が倒れることはなかった。
男はその揺れる上半身を左足一本で支えていた。
風が通り過ぎると男はふたたび
へろへろと歩き出した。
女は小さく息を吐いてから男の後を追った。
闇の中に男の不規則な足音と、
蚊母鳥の「キュキュキュキュ」という
啼き声だけが響いていた。
男は乾の宅の前まで来ると足を止めた。
女の足も止まった。
乾の宅の灯りは消えていた。
男は少しの間その場に佇んでいたが、
すぐにまたよろよろと歩き出した。
男が闇に消えるのを待ってから
女は乾の宅の戸を軽く叩いた。
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