第90話 カリスマメイド爆誕


 一週間後、もみ教授と氷川がメイド喫茶〈ひよこ白銀城〉を訪れると、「お帰りなさいませご主人様」の声と同時に、進化したパルパネオスの姿があった。


「お待たせした。オムライスだ」


 パルパネオスは滑らかな給仕をしていた。

 この一週間で、機巧鎧装と生身の肉体とのギャップがうまく消えてくれたのだろう。


 もうお皿を割ることはなくなっていた。

 仕事以上に有能だったのは、お客様もとい〈ご主人様〉とのトークだった。


『パルパちゃん。今日も、可愛いねぇ』

「我はいつも自分を研鑽している。貴殿こそよくぞここまで来てくれた」


『うんうん。僕にとってはこの店に来るのが唯一の癒やしなんだよ』

「ふむ。貴殿は日頃の鬱憤のために、メイド喫茶が必要なのだな。だが鬱憤を溜め込むだけでは身体に悪い」


『そうなんだよ。上司のあたりが辛くてね。ううう。メイドさんが居ないと僕は……』

「ふむ。事情は把握した。そのような不届きな上司は殺すがいい。大丈夫だ。我が責任を持つ。斬殺だ。誇りのために斬殺しろ。我が国の法ならば、悪・即・斬は許される」


 パルパネオスの対応していたお客は、幸せそうに顔をほころばせる。


『上司も悪い人ではないから。斬殺なんかはできないけどね。でもパルパちゃんと話していると、気持ちがすっとするよ。幻想の癒やしだけじゃない。本当に強くなった気がする』


「強くなったなら何よりだ。大事なことは精神的に陵駕をすることだからな。表では従っていても、本心では従わない。そして虎視眈々と上司の弱みを集め、ある一点で焦点をつくのだ。さすれば悪は滅される」


『そうだ。そうだよねえ。僕、がんばるよ!』


「ではオムライスの魔法をかけてやろう」


 パルパネオスは両手でハートを造り、オムライスを凝視する。


「はあぁぁあぁあああああああああ!!」


 覇気が込められる。


「ミラクル、ゴッド、アルティメット、ターミナル、ヘブンズ、キング、オブ、ゴッドハンド!!」


 ハートを放ったつもりが、勢い余って、小さな拳がオムライスに突っ込んでしまう。

 べちゃ、と半熟卵が飛び散った。

 ご主人さまのほっぺたに卵がついてしまう。

 だがパルパネオスは謝らない。


「我の気迫で、オムライスは形状を変えたようだが。この形状こそが、新しい貴殿の心の姿だ」

「僕の心……」


 オムライスはパルパネオスの小さな拳の痕ができていた。


「この爆ぜたオムライスは、貴殿が殻を破ったことの象徴だ!」

『僕が、殻を……?』


 ご主人様は、殻を破ったと言われ、高揚した。

 パルパネオスの侯爵としての特質だった。


 部下を鼓舞する才覚が、メイド喫茶で生かされていたのだ。


「我から貴殿への、漢玉おとこだま、確かに渡したぞ!」


 ここでメイドさんが一斉に拍手をする。


「漢玉、入りましたぁ」

「おめでとう!」

「新たなご主人さまの誕生に感謝!」


 同僚のメイドさん達は「もうどうにでもなれ」という気持ちでヤケクソだったが、パルパネオスを扱うにはこうするしかなかったのだ。


「もう一個食べます」

「ふん。仕方の無い奴だ。オムライス入るぞ!」


 結果、オムライスの売り上げは二倍となったという。





 一部始終を見届けた氷川ともみ教授は、予想以上の反響に唖然としていた。


「まさかここまで進化するとはな。氷川。貴様は罪な男だな」

「いえ。教授が首を突っ込んでいったからです。私は巻き込まれただけですよ」


 ふたりの前に店長、岡野が現れる。


「あんた達……。よくもやってくれたわね」


 岡野の顔は神妙だった。


「店の景気はよさそうだが。ご不満か?」


 もみ教授が尋ねると、岡野はぽつぽつと、もみ教授に相談を始めた。


「それがね、あの子……パルパちゃん。蓋を開けてみたら、カリスマ性がありすぎたのよ」

「侯爵というのは本当だったようだな」


「売り上げは二倍になったわ。でも、このままじゃこのメイド喫茶はいつかズレてしまう気がする。ホストじゃなし、オムライスはドンペリじゃないのよ?」


「だが売れているじゃないか。漢玉オムライスだっけ?」


 もみ教授がみやると、漢玉オムライスの注文は殺到していた。

 どうやらパルパネオスが悩みを聞き、オムライスに拳をめり込ませるまでが、サービスらしい。


「売れているけど、こわいの。お皿なんかどうでもいい。ああ、私はなんて人を拾ってしまったの……」

「まあ機巧種族なら、いつかは故郷に帰るでしょう。一時のフィーバーだと思ってください」


 もみ教授は他人事という風に、へらへら笑っていた。


「笑い事じゃ、ないわよぉ!」



 メイド喫茶〈ひよこ白銀城〉では武士メイドのカリスマ的声が響いている。


「そのような輩は我が瞬殺してやろう。案内するがいい」

「ありがとう、パルパちゃん!」


「我は貴殿の敵の100倍の戦闘力を持っている。試しに我の頬をはたいてみるがいい。さすれば貴殿の敵も、次に会うときはカスにみえてくるはずだ」

「俺……。なんだか勇気がでてきたよ。こんなに親身になってくれるなんて!」


 後に聞く話だがパルパネオスの漢玉を受けたご主人さまは軒並み出世を果たし『CEOになりました』『社長になりました』『東洋のジョブズです』などなど、たくさんの方がお礼に来たそうだ。



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スペース

メイド回はもっとやりたいんですが、ひとまずここで一区切りです。100話で二巻分の予定なので、そろそろ究極完全生物とかだそうと思います。


『究極生物笑』と思っていただいたら、☆1でいいので評価、レビューなどよろしくお願いします。

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