第81話 アルテナと上限値解放の結合


【『タイムアップです! 惜しくも! あまりにも……。あまりにも無惨!これが悪魔城の力。人類は平伏すことしかできないのか?!』】


 ヌルタチ・ヌイチロウの実況が、精神と肉の部屋の体育館にこだまする。


「はぁ、はぁ……んぶぅ!」


 幾度となくsousukeに挑戦するも、池にどぼんしてしまう。

 夢斗はずぶぬれになりながらも立ち上がる。


「次は……。やってやる」


 次ができないなら、次の次。

 次の次の次。

 次の次の、次の次。

 次の次。次の次の次。

 次の次の次! 次の次の次の次。

 できるまで、やる。


 真菜とロココ、PPは観客席で弁当を食べながら夢斗のチャレンジをみている。


「真菜さん。私達だけお弁当を食べてていいのでしょうか?」

「いいのいいの。夢斗君は嵌まるとなかなか抜け出してこないし」


「僕も弁当を食べるぞ!」


 PPが夢斗の分の弁当まで食べてしまった。


「また作ってこなきゃね」


 真菜は微笑し、キッチンへ向かった。

 ロココとPPがふたりきりになる。


「ロコちゃんさあ。夢斗っちのことをどうするつもりなの?」

「いきなり馴れ馴れしいのは謎ですが。私は炉心精神です。夢斗さんのサポートをするのが役目です」


「でも夢斗っちさあ。〈アルテナ〉のことは知らなかったみたいだよ」

「アルテナとは?」


「冥種族の力の根源だよ」

「……私たちは〈冥種族〉ではありませんから」


「あっそ」

「あと。真菜さんの前では冥種族のことは言わないほうがいいでしょう」


「どうして?」

「真菜さんのお父様は、〈迷宮観測〉の仕事をしていました。そこで『見てはいけないもの』を見て亡くなったと聞いています」


「それ、僕の本国かもしれないな。真菜は優しいから好きなんだけどなあ。嫌われたくはないなぁ」

「……どうやらあなたも、急速に感情が成長しているようですね」


「悪いかな?」

「いえ。私も夢斗さんといることで心を学びました。人の強さの原動力です」


「そんなこと言われたの初めてだ。本国からはいつもいつも、『プラントとして生産しろ』ってしか言われなかった。『心があるから駄目なんだ』っても」

「では、あなたは冥種族として、私達と敵対するわけではないと?」


 ロココが鎌をかけた。

 PPとは雰囲気で仲間になったが、ロココは抜け目がなかったのだ。


「当然だよ。あんなところ、僕の方から願い下げだね。僕は自由になりたかった。プラントで、迷宮を生産するだけの一生だなんてごめんだもの」

「……あなたの意図はわかりました。しばらくは様子見をします」


「こわいなぁ。でもね。それでも……本国の監視とか命令とかよりはずっとましだよ。顔も手に入れたし、服まで貰って、メイクまでしてくれた。君にも真菜にも、頭が上がらないよ」

「それはどうも」


 真菜が弁当を持って戻ってきた。


「あら? ふたりとも仲良くなったの?」


「探り合いをしていました」

「探られちゃったよ~」


 ロココもPPもあっけらかんと応えた。


「しょうがないなあ。お弁当、いっぱい作ってきたから。仲良くしなさいよ」


 真菜はキラキラ肉の他に野菜と果物たっぷりの重箱を広げた。

 そろそろ夢斗がお腹を空かせて休憩に来るだろう。


 真菜は挑戦する夢斗をみやる。


「最終エリアまで来たね」


 夢斗は、反りたつゴーレムに対峙する。


「はぁ、はぁ……。こいつを超えるのか?」


 夢斗はPPのいっていた〈アルテナ〉という言葉を思い出す。

 漆黒纏衣のことだと思っていたが、PPは一瞬だけ水の上を走っていた。


 アルテナには物理法則を超える力があるのか?

 反り立つゴーレムはどんどんと反り立っていく。


「登るぜ!」


 はじめゴーレムはなだらかな坂の助走+90度の壁だった。

 だが、恐ろしいことが起きる。


 夢斗が走り出すとゴーレムの角度が90度から更に角度を縮めていく。

 コの字のような形に、ゴーレムが屈折していったのだ。


「こんなの登れるわけねーだろ!」


 夢斗はやけくそになり、全身に〈漆黒纏衣〉を発動させる。

 暗黒武術家の持つ武装の一種だと思っていたが、〈漆黒纏衣〉の構成物質アルテナに秘密があるのなら、コの字のゴーレムも登れるかもしれない。


 夢斗は90度の壁を蹴り上げ、登った。そのまま壁を蹴り上げ、コの字のゴーレムを、逆さまになったまま駆け上がる。


 脳裏では〈上限値解放〉の表記が現れる。


――――【重力抵抗の上限値を開放しました】――――


 そんなことができるのか?

 上限値解放は物理法則を無視したことはできないはずだ。


(いや。違う。PPのいうように〈漆黒纏衣〉の〈アルテナ〉が物理法則を超える力を持っているならば……)


 上限値解放の『物理法則を無視できない』という条件を、アルテナの〈物理法則無視〉によって、限定的に書き換えることが可能なのでは?


「うおおおお。おおおおおお!!!」


 そして夢斗は反り立つゴーレムの作り出したコの字の壁を超えていく。


「頂上だ!」


 ゴールボタンを、バン!と押した。


――――――――――――――――――――――――――

スペース

〈漆黒纏衣〉には『上限値解放の制約を無視できる力』があったそうです。

「これはリアルに人外になっちゃうw?」と思って頂けたら☆1でいいので☆評価、レビューなど宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews







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