第82話 精神と肉の部屋の真実



「タイムは?」


 ゴールスイッチを推し、タイムを確認する。


『9秒、残しています』


【『なんと、前回よりも圧倒的な差をつけての突破です!!』】


 実況のヌルタチ・ヌイチロウの声に、夢斗ははっと我に返る。


【『史上初、悪魔城を突破した猛者が、ここに誕生しました。脅威の塊! 人類の最先端! ここに新たな英雄が極まったぁ』】


 かくして夢斗はsousukeを突破した。


「おめでと。お弁当あげる」

「ありがとう、真菜」


 弁当を食べながら、夢斗はロココに向き直る。


「さてロココ。さっき言ってた『精神と肉の部屋の秘密』って奴を教えてもらおうか」

「まさか、私の挑戦をこうもたやすくクリアするとは……」

「自分の使っている拠点なんだ。情報は知っておきたい」


 ロココは不敵に微笑んだ。


「甘いですね夢斗さん。今回クリアしたのは第一ステージです」

「想定内だ。第二ステージ、最終ステージまであると、過去の番組でみたことがある」


「ええ。sousukeはバージョン53まで用意しています。あと53回クリアしたら、秘密を……」

「おい待て。さすがにふざけんな!」


 ロココのふざけた冗談に、つい怒ってしまった。


「夢斗さんが本当にすさまじい成長速度だったので、私も心の準備ができていなかったのです。まさかここまで早く、真実を伝えることになるとは思いませんでした」


 ロココが手に持っていたスイッチを押す。

 体育館の天井が開き、ごごごごと、ガラスのダクトが降りてくる。


「これが最終ステージです。夢斗さんには自力で登って貰って……」


 まだ冗談をいうロココだが、すでにPPがダクトに乗り込んでいた。


「すごいよ。ここだけ無重力だよ?」


 PPの身体が、ダクト内でふわぁぁぁとせり上がる。


「ねえ夢斗君。無重力ってことは……」


 真菜が不安げに夢斗の隣に立つ。


「ああ。薄々感づいていたが、この〈精神と肉の部屋〉は拠点どころの話じゃない。コロニーのようだ」


 ロココは颯爽とダクトに乗り込み、無重力で浮いていく。


「夢斗さんに真実を知らせるつもりはありませんでした。私は精神と肉の部屋の管理を任されていましたが、ずっとはぐらかすようにも言われていました」


「裏がある言い方だな。俺に隠し事をしていたってのはショックだよ」

「……申し訳ありません。でも言えなかったのです。言えなかったから私は、わざと引きこもりになってみたりゲーム廃人になって、やる気をなくす必要がありました」


「いや。俺には堕落を楽しんでいるようにみえたが?」

「ですが今は……。夢斗さんがsousukeをクリアしたことで、〈管理者権限〉にアクセスできます。この精神と肉の部屋の〈真の所有者〉になれるといえるでしょう」


 sousukeはアトラクションかと思ったが、まさかの管理者権限を獲得するためのトリガーだったようだ。


「行ってみようよ、夢斗君」


 真菜に背中を押され夢斗はダクトに吸い込まれていく。

 無重力で浮遊を始めた。


 透明なダクトの向こうには、星々の景色が見えた。

 一面の夜と、瞬く星々の明かりが広がる。


「宇宙、なの……?」

「毎回ワープしていたから気づかなかったが。これはコロニーなのか?」


「少しだけ違います」


 ふたりの疑問にはロココが応えた。


「正式名称は〈クォ・ヴァディス〉」

「なに?」


「宇宙空間、次元空間を飛翔できる龍型の巨大生物の名称です。いま私達はコロニーなどではなく『巨大な龍の中に』います。精神と肉の部屋の現象は、龍の体内でそのエネルギーと恩恵を受けていた、ということです」


 聞き慣れない言葉なのに、夢斗の記憶には符合するものがある。


「〈クォ・ヴァディス〉。どこかで、聞いたことがある。たしか探査団が異世界を渡るために龍に入って次元を超えるとか。自分で言ってて頭が痛くなる話だが……」


「私も聞いたことがある! 人の科学技術ではたどり着けない場所に行くために、異世界の巨大生物の内部に拠点をつくるんだよね。でも研究者にしか知られていない情報のはず……」


 真菜が不思議そうに夢斗をみた。

 

「この拠点に来れたのは、ばあちゃんの〈炉心〉の力によるものだった。だったらすべては繋がっているのかもしれない」


 夢斗は自分の出自について、ずっと平凡な家庭だと思っていた。

 どうやら認識を改めたほうが良いらしい。


「すべては、ばあちゃんから託された〈炉心〉から始まったんだ」


 ばあちゃんの託した〈精神炉心〉。

 上限値解放の力。精神と肉の部屋。


 次々に開放されるエリアに、炉心精神のロココ。 

 ロココのいう管理者権限と、ロココに管理者権限を渡した人物……。


「この先に、秘密がある」


 宇宙空間のダクトを登りながら、夢斗は上方をみあげた。

 先に登っていたロココが、どこか寂しそうに微笑む。


「もう、夢斗さんは、引き返せませんね」


 意味深な呟きは、夢斗には聞こえなかった。




「着きました」


 夢斗と真菜、ロココとPPの四人は、精神と肉の部屋(正式名称〈クォ・ヴァディス〉)の中枢へと到着した。


 中枢はドームのようになっている。

 奥に進むと船のブリッジのようなエリアにでた。


「ガラスのダクトの道は、龍の背中の鱗の部分です。だから外の宇宙空間が見えたのです」


 ロココが解説するも、夢斗も真菜も、現実を上手く受け止めきれない。


〈クォ・ヴァディス〉のことを聞いたことがあるふたりだったが、精神と肉の部屋が『宇宙空間を飛ぶ巨大な龍の腹を改造した施設』だったなんて……。


 わかっていても現実離れしていて、頭が痛くなってくる。


「どうしたのですか? ふたりとも。ビビっているなんて言わないでください。夢斗さんはsousukeをクリアしてしまった。だから拠点の中枢にくる資格があります」


 ロココはいつもの堕落した彼女ではないようだ。

 炉心精神としての、冷徹な彼女の一面が、強く表れていた。


 真菜がPPの手を握る。


「およ?」

「PPちゃん。来たばっかりなのに。慌ただしいよね」

「ううん。むしろ面白いよ~。皆も優しいもの!」


 四人でブリッジの奥に向かうと、ブリッジの中心にホログラムの人影が現れる。

 冷徹となったロココが、人影を指した。


「彼が私に管理者権限をくれた人です」


 真菜とPPが何かに気づいた。

 夢斗とホログラムを交互に見比べる。


「似てる」

「夢斗っちみたいだ」


 ホログラムの人物が「よぅ」と手を挙げた。


「でかくなったなぁ夢斗。ホログラムの俺は若い姿だから、わっかんねえかな」

「もしかして……。じいちゃん?」


 夢斗の中で様々な記憶が繋がった。


――――――――――――――――――――――――

スペース

sousukeで遊んでたと思っていたら重要な伏線でした。

「まさかの精神と肉の部屋の伏線回収か!」と思っていただいたら☆1でいいので評価、レビューなど宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews


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