第71話 暗黒パーティの力


「今のはビギナーズラックだな。次の一発を撃つには〈発勁〉が足りない」


 夢斗は肉体の〈エネルギーの流れ〉が途切れていくのを感じる。

 暗黒加速拳を打つには支障はないが〈発勁〉はもう撃てないだろう。


 残る冥淵獣は4体。

 通常の暗黒加速拳だけでどこまで葬れるだろうか。

 ふいに倒れた水獣が起き上がった。


 倒しきれなかったとおもいきや、水獣の背中には〈糸〉が接続されている。


「意識がないなら、琴糸操術で操れるね」


 真菜が気絶した水獣をネクロマンサーの〈琴糸操術〉でコントロールしていた。

 ロココをつれて水獣の背中に乗りこむ。


「ナイスだ! そいつを足場にする」


 琴糸操術は、死体だけでなく意識がない相手の操作もできるようだ。

 夢斗も水獣の背に乗りこむ。飛翔能力は確保したといえる。


「高いです。飛ぶのですか?」


 ロココは真菜の隣で、水獣の背中にへばりついている。

 彼女の〈上限値解放の力〉は、今は真菜に適応されている。ロココ自身が夢斗ではなく真菜に〈上限値解放〉を使うべきと判断したのだろう。


 炉心精神としての通信機能は残っているので、三人の連携は十分可能だ。


「真菜。ロココを頼んだ」

「任せて。必ず守るから」


 このときロココは、真菜の左腕に〈機能回復・上限値開放〉を行っていた。

 真菜の左腕が使えないことは、夢斗には秘密にするつもりだったからだ。


 夢斗はすでに前衛として、強さを確立している。

 なので、ネクロマンシーの力で倒れた水獣を掌握し、飛行能力と足場を得ることを優先したのだった。


『ガアアァア!』


 炎獣が上空から火炎を吐き出す。

 真菜が水獣を操作し、水砲を吐き出した。


 火炎と水しぶきが拮抗し、水蒸気があがる。夢斗は水蒸気を切り裂くように〈ダークアクセルフィールド〉を展開。

 上空の炎獣の地点まで伸びる。


 炎獣の口腔が開き、再びの火炎が迫る。

 二度目の火炎の威力は減衰している。構わずを「暗黒加速拳」を発動。


 ダークアクセルフィールドが炎獣まで伸びた刹那、拳は打ち抜かれている。


『ギャオオオォウウ?!』


 炎獣の腹部が陥没。巨体がのけぞりながら、水面に落ちる。


「二体目え!」


 発勁を打って体力を消耗していたため、暗黒加速拳の威力も弱まっていた。

 全力で拳を打ったならば、冥淵獣の肉体は破裂していただろう。


(迷宮魔獣なら容赦はしないが。こいつら、なーんか動物みたいで可愛そうなんだよな)


 強さを得たことで、今の夢斗には余裕がでてきていた。

 戦場で情を持つことは命取りだとわかってはいるが……。


〈暗黒加速拳〉の扱いにも慣れてきたことで、どの程度で葬り去ることができるのか、どの程度なら倒すだけに留めるのかが、わかってきたのだ。


 だから今回は、死なない程度に打ち込む。


 上空へ拳を放った夢斗が、水獣の背中に戻る着地の瞬間。

 陽光獣がリーフ状の額から太陽光を吸収していた。太陽光をエネルギーとする『ソーラースパーク』の技だった。


 ロココの通信が脳内に響く。


「夢斗さん。大変です。すさまじいエネルギーが来ます。夢斗さんはともかく私はひとたまりもありません」

「ロココ。俺に捕まっていろ。ギリギリで回避を……」


 ソーラースパークが放たれると同時、倒したはずの炎獣がぶぉんと飛翔した。

 炎獣の背中には〈糸〉が刺さっている。

 

「琴糸操術」


 炎獣の背には真菜が乗っていた。気絶する炎獣にネクロマンシーをかけて操作していたのだ。


「私は手癖が悪いからね!」


 炎獣ごと陽光獣に激突。

 ソーラースパークの奔流がそれて行く。ソーラースパークは海面に着弾し、ぼじゅううぅと巨大な水しぶきをあげた


「夢斗君、ロコちゃん。飛び移って!」


 水獣は乗り捨てて、炎獣に移れとのことらしい。

 ロココを抱えて夢斗は跳躍。


「と、飛ぶのですか? わ、私は高所恐怖症で……」

「しがみついてろ!」

「あわ、あぁぁあぁぁっ!」


 炎獣の背にいる真菜の隣へと、降り立った。


「真菜。君って、こんなに強かったんだな!」

「ネクロマンサーの応用力を舐めてもらっちゃ困るね」

「狩ってくる」

「どうぞ」


 ダークアクセルフィールドを上空に展開し、飛翔と加速。

 陽光獣に拳を打ち込み撃破。


『ンモォオオォオ!』


 絶叫をあげて、陽光獣が海面に落ちる。

 だが拳の感触は、どこか不穏だ。


(暗黒加速拳の威力が落ちている。やはり発勁を発動したのが、いけなかったのか。はぁ……。くそ。息も切れてきた)


 身体に痛みはないが、夢斗はガス欠となってくる。


 残る冥淵獣は、雷獣と月光獣の二体。

 炎獣の背に戻ると、雷獣が上空に飛翔した。

 雷雲が集まり、空気が弾けていく。


「雷はやばいな。対策がでてこない」

「いつもの夢斗君なら、『やられる前にやる』っていいそうだけど?」


 ピンチなのに隠しても無駄だろう。

 夢斗は正直に告白する。


「ガス欠なんだ。フィールドが出ない」


 真菜は目を細め、不敵な笑みを浮かべた。


「じゃあ……。私に頼って貰わないとね。一度地上に下りるよ!」


 炎獣ごと砂浜に着地し、ロココを脇へ逃がす。


「賢明な判断です。がんばってください!」


 ロココが退避したのを確認しつつ、上空の雷獣と月光獣を見上げる。

 雷獣の角には雷がチャージされ、静電気がそこら中に走っていた。


「夢斗君でも雷より速くは動けないよね」

「いつかはできるようになるが。今は確証はできないな」

「賭け、と行きますか」


 真菜の意図はわからないが、ここは彼女を信じるしか無い。

 雷獣の角から雷轟が放たれ、天罰のごとくふたりを貫いた。



 浅黒野ら金髪ピアスの集団らが、海上の激戦を眺める。


「あいつら、やばいやつだった。高位の探索者だったのか……」


 冥淵獣に吹き飛ばされた浅黒野は、即座に気持ちを切り替えた。

 浅黒野は海から引き上げた後、仲間達に指示を出してビーチの市民を避難させることにした。


「避難は終わったかお前らぁ!」

「浅黒野さん! 大丈夫そうっす! 白い髪と赤い髪の女の子が、一悶着ありましたが……。全員避難しました」


「救急要請と上級探索者の要請は済ませたか」

「全部やりました」


「うーし。後はあのガキどもを見届けるだけだな」

「逃げないんですか?」

「一番前で闘ってるあいつらを見捨てたら、それこそ男がすたるぜ」


 浅黒野ら金髪ピアスの集団は、すぐさま自分達の役割を理解した。

 夢斗たちを高位探索者と認め、そのサポートに回ることにしたのだ。


「やばいすよ、浅黒野さん。あの空にいるヤツ、雷っすよ!」

「雷はまじい……。打った! 避けろぉ!」


 だが無情にも、雷獣の雷は夢斗と真菜に直撃してしまう。


「ガキ共ぉぉぉっ!!」

 

 希望はついえたかに見えた。

 だが次の瞬間、浅黒野達は信じられない光景を目にする。




「夢斗君、生きてるぅ?」

「ああ。だがまさか、アースを取るとはな」


 真菜はネクロマンサーの糸を砂浜に食い込ませ、擬似的なアースを取っていた。

 アースとは電気を地面に逃がすために、電路と地面をつなぐ装置のことだ。

 糸を砂に食い込ませることで電路を作り、雷のダメージを逃したのである。


「アースだけじゃないよ」

「これは……避雷針も、か?」


 さらに真菜の横には、糸が螺旋状となり、空高く伸びていた。


「すべての糸を使って、〈避雷針〉と〈アース〉をつくった。雷の直撃を裂けて、地面にも逃がす。それでもちょっと痺れちゃったよ」


 無傷で済んだのは別の要因もあるようだ。

 夢斗の左腕の〈奈落の腕輪〉が光を帯びていた。


(奈落の腕輪も、電気を吸収していたのか。ならば……)


 電流は奈落の腕輪をぐるぐると循環している。腕輪は発光するほどの電力が渦巻いていたが、夢斗の肉体は無事だった。


 夢斗は次の手を考える。


「考えがある」

「乗った」


 上空を飛ぶ雷獣と月光獣を見上げる。


 そしてロココは物陰に隠れながらつぶやいた。


「応援してますよ~。ふええ……」


――――――――――――――――――――――――――

スペース

真菜さん、ヒロインの貫禄が出てきた気がします。ネクロマンサーの能力、応用効きすぎる……。


「ヒロインこの子だったね!」と思い出していただけたら、☆1でいいので☆評価、レビューなど宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews






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