第70話 冥淵獣の出現


 迷宮浸食のゲートがビーチ上空に浮かぶ。

 ゲートの渦から表れたのは、竜の胴体に獣の頭部をした、迷宮魔獣だった。


 体長は約2メートル。

 五体はそれぞれ黄色、水色、炎色、紫陽花色、漆黒のボディを持っている。



「解析をします」


 ロココが瞬時に解析し、夢斗の網膜に情報を送ってくれた。


【冥淵獣】

雷獣 レベル50

HP140 攻撃85 防御80 魔攻162 魔防115 素早さ200


水獣 レベル50

HP237 攻撃80 防御80 魔攻162 魔防115 素早さ85


炎獣 レベル50

HP140 攻撃200 防御80 魔攻115 魔防130 素早さ117


陽光獣 レベル50

HP140 攻撃85 防御80 魔攻200 魔防115 素早さ162


月光獣 レベル50

HP202 攻撃85 防御162 魔攻80 魔防150 素早さ85



「レベルが同格の魔獣が5体か。面白い」


 夢斗が海へ出ようとすると、脇から金髪ピアスに浅黒い肌の集団が踊りでる。

 先程一悶着あった浅黒野とその仲間達が、冥淵獣に向かっていた。


「わるいな兄ちゃん。俺らは迷宮探索者なんだ」


 浅黒野に続き、取り巻きもまたイキリ始める。


『俺たちは十人いる。任せることだな』

『しかも浅黒野さんはボクサーでもあるんだぜ』

『せいぜい指を咥えてみているんだな』


 冥淵獣が上空から砂浜へ落下し、ビーチに接近する。

 浅黒野は全身を揺らめかせ、連続の拳を放った。


「迷宮探索者の力に俺のボクシングの技を乗せた技、エグザイルロールだ!」


 朝黒野の連打が冥淵獣・水獣へと浴びせられた。


「おらおらおらおら、おらおらおら、おらぁ!」


 無数の拳が冥淵獣へと炸裂。

 されど朝黒野の拳は、最高峰の格闘家の技に過ぎなかった。


 迷宮は、現実の強さとは別種の力が求められる。


「あばっ!」


 水獣の尾の一撃で、浅黒野は吹き飛ばされてしまった。


『浅黒野さん!』


 浅黒野は水切りの要領で海上を吹き飛ばされる。地面に叩きつけられたわけじゃないから、致命傷ではないだろう。

 取り巻きらは一気に、意気消沈した。


『だめだ。B級探索者で歯が立たないなんて……』

『俺たちは、終わるのか……』

『住民の避難を優先させるんだ』


 浅黒いピアスの男達が、冥淵獣を前に打ちひしがれる。戦意喪失し、炎獣、雷獣などの尾の一撃で吹き飛ばされていた。


「なんだったんだよ。ったく……」


 夢斗は全身に〈黒い霧〉を纏い、〈漆黒纏衣〉を起動。

 フルフェイスとなった後、〈ダークアクセルフィールド〉を展開。


〈漆黒の領域〉が空間を裂いて伸び、亜空間めいたトンネルとなった。


『なんだ? あの黒い霧は?!』


 ギャラリーが湧き上がった刹那。

 パァン! と音が空間をつんざき、冥淵獣・水獣が海面へと吹き飛ばされる。


 暗黒加速拳の直撃が、水獣に浴びせられたのだ。


『あいつは……。あいつはいったい、何なんだ?!』


 2メートル級の冥淵獣が一撃で吹き飛ばされる。

 あまりに一瞬の出来事に、海辺にいた市民は何が起きたのかわからない。

 これが少年の拳によるものだと、誰が思い至るだろう?


「今回の暗黒加速拳は〈浸透勁〉。内部浸透の技で吹き飛ばした。」


 夢斗は拳ではなく、掌の発勁で攻撃を行っていた。


〈発勁〉が使えるようになったのは確認済みだったので、暗黒加速拳と両立できるかどうかを試してみたかったのだ。


「冥淵獣はあと四体か。とっとと片付けることにしよう」


 上空には、空を飛ぶ冥淵獣が四体。

 夢斗の隣には、琴糸操術を起動した真菜とロココが立っている。


 パーティ単位での、連携が期待できそうだった。





 夢斗と冥淵獣が交戦を初めた同時刻。

 機巧種族のふたり、パルパネオスとマルファビスもまたビーチにいた。


 海の家でサングラスを買い、パラソルと日焼けベンチをレンタルして、日差しを浴びながら寝そべっている。


 冥淵獣に先に反応したのはマルファビスだった。


「ネオス卿。おそらくあの獣は冥世界のものです。反応が酷似している。我々を追ってきたのかもしれませんよ」

「あれだけ尖兵どもを切り刻んだんだ。追ってくることもあるだろうな」


 パルパネオスは何食わぬ顔でトロピカルジュースをストローで吸い上げる。


「市民は避難を始めています。どうしましょうかね」


 マルファビスが日焼けベンチから立ち上がる。

 マルファビスの本体は眼鏡をかけた赤毛の女性だった。


 身長は158センチ。体重はおそらく平均的。

 2メートル20センチの機巧鎧装からは想像できないほど、使用者は小柄だった。


「市民など逃しておけば良いだろう。それよりマルファビス。なぜあの少年がいる? 偶然にしてはできすぎだろう」


 そしてパルパネオスの本体は、マルファビス以上に小柄だった。

 白髪のお団子髪のツインテールというのもあり、少女としか形容できない容姿だ。


 背丈も150センチにも届かない。

 手足も華奢で、白銀の騎士とは似ても似つかない。

 それでも、オーラは本物だった。


「そ、それは……。少年の住む街に転移したからですね。ネオス卿が気にかけていらしたので……。わざと彼の街を選んだのです」

「私に気を遣ったのか? からかっているつもりならお前とて斬るぞ」


 パルパネオスの威厳は本物だ。

 一度機巧鎧装を纏うや、一秒を切り刻み、反射神経の限界を超えた斬撃を繰り出す。


 まごうことなき〈機巧世界侯爵〉のオーラだ。

 斬られるわけにもいかないので、マルファビスは必死にごまかした。


「少年と出くわしたのは、偶然ですよ。まあ迷宮探索者同士は引き合うと言いますし……。あ、あのときのネクロマンサーもいますよ! 私のスカージを台無しにした恨み!」


「……ふん。まあいい」


 パルパネオスはサングラスをかけ直し、日焼けベンチでゆったりと横になる。


 冥淵獣など意に介さず、特盛フルーツ白玉パフェを口に含んだ。

 白髪のお団子髪のツインテールを、ぽんぽんと指でいじる。


 戦闘や迷宮浸食よりも『トロピカルジュースと白玉パフェ』『せっかくのビーチを楽しみたい』と言わんばかりだった。


「パフェを食べつつの余興といこう。少年で駄目なら我々が出ればいいだけ。この極上の甘味によって、我の体力は全回復しつつあるからな」


「私はもうボロボロですけどね。正直もう戦いたくないので、少年を応援しますよ」


 パルパネオスはトロピカルジュースを傾け、サングラスごしに夢斗を遠目にみる。


「私を失望させてくれるなよ、少年」


 次の瞬間だった。

 冥淵獣の火炎が飛来、すぐ脇の砂浜で弾けた。

 ごうぅと、パルパネオスの隣にあったパラソルが萌えてしまう。


「思ったより戦火が飛んできましたね。離れましょう」

「我はここでいい」


「駄目ですよ、ネオス卿! 生身で食らったらひとたまりもないですって」

「……ここがいいのだ」


「やっぱり少年のこと気になるんじゃないですか!」

「気になど、ぜんっぜん! なっておらん!」


 パルパネオスはサングラス越しに夢斗を見ていた。


「ふ。良い拳を打つようになったな。我の即死の一撃を耐えただけはあるな」

「ああもう。運びますよ!」

「うわ、何をする。やめ!」


 マルファビスは無理やりパルパネオスを抱き上げ、走り出す。

 寝そべっていたベンチのパラソルが延焼した。わかってはいたが、機巧鎧装なしで冥淵獣の闘いに巻き込まれればただではすまない。


「移動しますよ。鎧装をゲートから取り出すにしても、人目につかないところの方がいいんですから」

「ふん。あの少年が勝つだろうから問題はないがな……。見せて貰おうか。成長した力をな」


「キメ顔はいいですから、走りますよ!」


 機巧種族のふたりは逃げる市民に紛れつつ、夢斗の闘いの趨勢を見守るのだった。


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スペース

パルパネオスはラスボスかと思いきや、師匠ムーブとツンデレヒロインムーブをキメてきました。確かにこいつは初めからブレてないんですが、困っちゃいますね(白目)


『ヒロイン増えるならヨシ!』『パルパネオスをヒロインにすれば?』と思って頂けたら☆1でいいので、☆評価、レビューなど宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews


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