第69話 PP進撃


「うーん。影のノリが悪いなあ」


 冥種族神殿にて。プリンセスとして人型の肉体を得たPP《ピーツー》は、プラントの力を用いて仲間を創ることにした。


 神殿には〈黒い水〉が水たまりとなっている。実験の試行錯誤の跡だった。


「パルパネオスを殺しに行くなら、仲間が必要なんだけどなあ」


 冥種族の力は〈黒い影〉を用いて現実に干渉できる点にあった。


〈黒い影〉は冥種族の力の源泉たる概念で、〈アルテナ〉と呼ばれている。


 PPはプラントとして産まれたためか、通常の冥種族よりも自在に〈アルテナ〉を操ることができた。


「卵にすれば生命は育つんじゃね?」


 PPの掌に〈アルテナ〉が黒い球体となってぶぅんと浮かぶ。


 冥種族神殿の内部ではプラントの力が強化されている。

 今までは迷宮のクリーチャーとして〈尖兵〉を生み出していたが、がんばれば生命も生み出せるはずだ。


「む、むむむ……」


 やがてアルテナの黒球は5つの卵となった。

 卵は巨大で、直径1メートルほどだ。

 

「よーし。卵作成完了。あとは迷宮の時間の流れを早めれば、育てる時間はゲットできるね」

 

 PPはプラントの力で神殿に干渉する。


「〈タキオン〉を起動するよ。卵を育てたいから全部使っちゃおう」


 タキオンとは光よりも速く移動する仮想的な粒子だ。

【時を超えることができる】とされているが、存在の観測はされていない。


 しかし冥種族は、タキオンを利用する技術を持っている。

 限定的にだが、タキオンの使用によって〈時間の獲得〉ができるのだ。


「迷宮だけならタキオン粒子は使えるんだよね。迷宮は世界の狭間の場所で、物理法則が不確定だからね。タキオン粒子起動!」


 PPは冥種族神殿の周囲の空間にタキオンを纏わせることで、現実世界との時間の流れを隔絶したのだ。


「この神殿だけが時の流れの影響を受けない。つまり周りの世界は止まっているけどこの神殿だけは成長する。あとは適当に眠りながら、卵の成長を待とう」


 横になって一週間ほど眠った。

 やがて5体の卵が孵化を終える。


「わぁ、強そう」


 卵からは全長1メートルほどの竜めいた獣が産まれていた。

 身体は竜で、頭部が獣の生命体だ。

 5体各々『ぐるる』と息を鳴らしている。


「〈冥淵獣〉って名付けよう。時間も結構獲得したし。もうちょっと育ててみようかな」


【冥淵獣】

 水獣:頭部はカワウソめいている

 炎獣:大鷲

 雷獣:神話の麒麟

 陽光獣:アナグマ

 月光獣:狼



 PPはもう一週間ほど眠ることにした。

 起きた頃には冥淵獣は2メートルほどまで育っていた。


「あ、残っていた迷宮の尖兵がいない!」


 冥淵獣はどうやら、放置していた〈尖兵〉を食べて暮らしていたようだ。

 身体には問題ないようで、冥淵獣は各々あくびをしたりねそべったり毛繕いをしていた。


「お腹壊したりしてないならセーフだね。さて……。パルパネオスの反応はどこかな。プラントの能力で探知できちゃうもんね。えーと」


 この神殿以外の時間は進んでいないのだ。

 PPはゲートを覗き、パルパネオスの気配を感知する。


「ゲートを通じて科学世界にでたのかあ。じゃあ僕も科学世界にゴー、だね!」


 ふとPPはあることに気づく。


「僕の顔がまだだった。のっぺらぼうだもんなあ。恥ずかしいなあ」


 考えた末、PPは冥淵獣の一体と融合することにした。


「冥淵獣と融合すれば、顔をつくる必要はないよな。ねぇ。中にいれてよ~」


 雷獣と目があったので、頼んでから、口に入れてもらう。


『がう、がうううう?』


 冥種族は黒い水〈アルテナ〉を通じて融合や肉体の交換を可能としている。

 雷獣もまた全身に黒い水〈アルテナ〉を通わせているので、PPとの融合が可能だった。


「融合完了ぅ!」


 雷獣と融合を果たしたPPは「これなら恥ずかしくないな」と安心した。

 ゲートを開き、雷獣の眼から科学世界を覗き見る。


 時間はパルパネオスが去ってから2時間しか経過していないようだ。

 タキオンを使用し〈時間を獲得〉したことによって、2週間の準備を2時間で済ませることができたためだ。


「パルパネオスは海に向かったのかな? 海って知識はあるけどわかんないんだよな。なら体験してみたいよな」


 雷獣と融合したPPは、5体の冥淵獣と共にゲートをくぐる。


「闘って僕の存在を皆に知らしめるんだ。力を知らしめれば本国の皆も喜んでくれるだろうからね。がんばるぞ!」


 奇妙な高揚と共に、科学世界へ向かうのだった。


――――――――――――――――――――――――――

用語解説

アルテナ

:冥種族の身体を構成する物質。黒い水。

:アルテナを通じて、冥種族同士が融合することが可能。

:タキオンを纏うことができる。


タキオン

:光速よりも速く移動する仮想的な粒子。

:時を止める、時を巻き戻るなどの現象が限定条件下で可能となる。

:冥種族は限定的にタキオンを利用できるようだ。


時間の獲得

:冥種族神殿がタキオン粒子起動によって発生させた現象。

:どこかで聞いたことがある話。


――――――――――――――――――――――――――

スペース

PP回&冥種族のヤバさ回を挟みつつ、四章に入ります。

実は先日この69話を吹き飛ばしてしまい3000字がパーになったのですが、今回の方が気に入ってるのでヨシです。


「敵対サイド強すぎていいね!」「PPは可愛いね」と思っていただけたら☆1でいいので評価、レビュー等宜しくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews







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