第67話 発剄の力に目覚めてしまう



 金髪ピアスの浅黒い集団は砂に埋まる夢斗を差し置いて、真菜とロココの肩に手を掛けた。


「彼氏埋まっちゃってんならさぁ。俺らと遊ばね?」


 真菜から殺意が発せられる。ネクロマンサーの糸が彼女の指先に顕現した。


「申し訳ないけど。巣に帰って貰っていいですか?」


 夢斗は危機感を覚えた。

 やられる怖さではなく、真菜が相手を傷つけてしまう恐怖だった。

 

「駄目だ、真菜!」

「だって、夢斗君……」


 砂に埋められた夢斗にはなすすべがない。


「お、彼氏、ものわかりいーじゃん」


 躊躇している間にも、ガラの悪い連中が真菜とロココを取り囲んでくる。

 力を込めるも、そう簡単に砂から脱出はできない。


(ただの力じゃ駄目だ。力以外の力……)


 このとき夢斗の脳裏にひらめきが走る。


 夢斗は常々、新たな技のバリエーションを考えていた。

〈暗黒武術家〉は『相手の技をコピーし暗黒属性を付与する』という形で技を習得するが、コピーの必要性から技の数が少なかった。


 今も基本的には〈暗黒加速拳〉のみだ。

 なので覚えた技にバリエーションをつけるために、常に発想の種を探していた。


(殺戮の天使戦では〈打撃の概念)を〈概念指定防御〉された。だから新技のことを常に考えていたが。この砂からの脱出がヒントになるかもな)


 夢斗は全身を震わせる。

 度重なる筋トレで時々感じていた感覚がある。


【血液を操作し体内で循環させる感覚】が、この夏の海、砂に埋められるという状況で、芽生えようとしていた。


(ロココ。上限値開放を頼む)

(畏まりました)

(生体循環・上限値開放だ)


 新たな暗黒加速拳のバリエーションのために暖めていたアイディアがある。


 それは発勁はっけいの力だ。


 一節によれば、発剄とは運動量のことを指すという。

 運動量(勁)の減少を少なくし、威力をくまなく伝達する。

 この威力の伝達が〈発勁〉の本質とされる。


 漫画に見られる〈内部破壊〉などは、現実離れしていることであり、あくまで『威力の伝達』が発勁の本質だった。


 しかし夢斗は諦めなかった。


(内部破壊にはロマンが詰まっている)


 夢斗は〈暗黒武術家〉として、内部破壊を及ぼす発勁である〈浸透勁〉を試してみたかった。


(ダークアクセルフィールドや漆黒纏衣のときに発生する〈黒い霧〉が重要だ。〈黒い霧〉を体外に放出するのではなく、俺の周囲で循環させることができれば〈浸透勁〉がみえてくるはず)


 真菜が、日焼けした男に腕を掴まれる。


「ちょっと、やめてください」

「いいじゃねえかよ、姉ちゃんよぉ」


 真菜の怒りも限界のようだ。

 ここが迷宮だったら、柄の悪い男達は琴糸操術で支配されるか、最悪肉片になっていたことだろう。


(真菜の手を汚したくはない)


 砂に埋まりながらも、全身に〈黒い霧〉を巡らせ〈漆黒纏衣〉を起動。

 次に血流を意識。体内の流れを意識しつ、漆黒纏衣を体表面で循環させる。


 すると夢斗を囲んでいた砂浜が震えだした。


「ぁん? 地震か?」


 男たちが勘違いする。まったく呑気な奴らだ。

 夢斗は〈黒い霧〉の循環の後、全身のエネルギーを開放した。


「ぬん!」


 どぼぉ、と、筋肉の隆起で衣服が爆ぜるように、夢斗を埋めていた砂浜が爆発する!


「な、なんだぁ?!」

 

 舞った砂は海風にさらわれ、小さな砂塵の竜巻となる。

 驚愕に目を見開く、金髪ピアスの男達。


「あいつ、自爆でもしたのか?」

「う、うけるぜ。ははは……は……」


 浅黒い金髪ピアスの男達は、乾いた笑いを浮かべる。

 人智を超えたエネルギーを前に、強がりをいうことしかできないのだろう。


(まだだ。いまのは砂を漆黒纏衣で吹き飛ばしただけに過ぎない。発勁の力を試すにはここから)


 砂の煙の中から、夢斗は悠然と立ち上がる。

〈漆黒纏衣〉を解除。あくまでこれは浸透勁の訓練だからだ。


(ここから俺自身が〈発勁〉を放っているか、だ)


 なにかの本で読んだことがある。

 発勁にはいくつかの法則があるらしい。

 曰く。


『勁の速度と、身体の運動速度は一致しない』

『勁の大きさと外面上の動作の大きさは一致しない』

『勁を発する際、勁が体内を通過する感覚がある』


(漆黒纏衣を発動し、俺の全身にエネルギーを循環させる。次に漆黒纏衣を解除し、エネルギーだけを残す。これで発勁の力を擬似的に再現できるはずだ。生身で発勁が使えるなら、漆黒纏衣起動時も使えるからな。試してみて損はない)


 砂塵の中、男達の眼前に歩み出た。


「すまないが。俺の連れなんだ。放してやってくれないか?」

「な、なんだ? てめぇは! 埋まってたんじゃ?!」

「砂を爆発させて出るくらい俺には楽勝なんだよ。ったく。しょうがねーな」


 夢斗はあえて言葉を強める。


「頼んでいるわけじゃねえんだよ。消えろ!」


 以前の自分からは想像もつかない、力強い声がでた。

 だが男たちもまた、引き下がるわけにもいかないのだろう。

 夢斗一人に対し、とりまきがわらわらと沸いて10人ほどにまでふくれあがる。


『おい。誰に口聞いてんだ?』

『浅黒野さんはほぼA級の迷宮探索者なんだぜ』

『ちょっといい身体してるみたいだがよぉ』


 向こうも面子があるらしい。


「おいおい。兄ちゃん。お前がどんなもんだっていうんだよ!」


 浅黒野と呼ばれた男が夢斗に肩をぶつけた。


「オラァ!」


 その瞬間、浅黒野は骨の髄まで理解してしまう。

 夢斗の纏った〈発勁〉のエネルギーが、肩を通じて浸透してきたのだ。


「ぐあぁぁあ?!」


 浅黒野は、夢斗に肩をぶつけただけで3メートルほど吹き飛ばされ、砂浜を転がった。


『浅黒野さん!? ぐぅぅ?!』


 衝撃は風となり、取り巻きまで伝わった。


(発勁は成功のようだな)


 夢斗は、倒れる浅黒野に歩み寄る。


「大丈夫か?」


 大人に突撃し弾かれた幼児を扱うが如く、手を差し伸べた。


「お、おうよ。ありがと……」

「こちらこそ、いきなり吹き飛ばして悪かった。砂浜だったから良かったよ」


 朝黒野は悟る。

 脳裏によぎったのは圧倒的な力の差を……。


(もしかして俺は……。手を出してはいけない奴に手を出しちまったのか?)


 とりまきが駆け寄るも、浅黒野のグラサンは割れていた。

 だが割れたグラサンを気に留める様子もない。

 浅黒野という男はイキってはいたが、小物ではないようだった。


「やるじゃねえか。……行こうぜお前らぁ!」

『押忍!』


 浅黒野の指示で、金髪ピアスの男達は去って行った。


「ったく。なんだったんだ」

「ふぅ。助かったよ。ありがと、夢斗君」


 真菜が肩に触れようとするが、夢斗はさっと避けた。


「どうしたの?」

「今の俺には触れない方がいい。〈発勁〉が循環している。少し、鎮める」


 体内のエネルギーの循環をゆっくりと収めた。真菜やロココまで吹き飛ばしてしまっては大変だ。


「ふぅ。収まってきた。お礼をいうのは俺の方だ」

「また、みつけたんだね。新しい力」

「怖いか?」

「ううん。立ち向かうための力だから。私は支えたいよ」


 真菜とロココとの仲は深まっていく。

 時折訪れる危機はスパイスのようなものだった。


「ロココも。ありがとうな」

「いえ。問題ない相手でしたので。それより今は、あれに興味があります」


 ロココは、移動車両のアイスの店を指さしていた。

 色とりどりのアイスが冷凍庫に入っており、よそってくれるのだ。


「特別なアイスな予感がします」

「やっぱわかるか、ロココ」

「はい。検索には情報はでますが。味はでませんから」


 夢斗と真菜は顔を見合わせた。

 確かに移動車両のアイスは、なんともしがたいおいしさだ。


「あれはな。夏に食べるとすげえうまいアイスだ」

「皆でたべようよ!」


 三人で別々の味のアイスを食べた。

 ロココは、頬をほころばせ、ご満悦だ。人間体を楽しんでいるようだった。


「おいしいです! おいしいって、不思議なものですね……。ひゃん!」


 ふとロココがアイスを落とした。

 形の良い胸の水着の合間に、アイスがこぼれてしまう。


 夢斗の全身の血液が、再び循環を初めた。

 夏はまだ終わっていないようだ。


――――――――――――――――――――――――

スペース

雑魚を吹き飛ばすノルマを達成しました笑

でもなんか勿体ないので、浅黒野さんは後でいい感じにします。


「大事にするのいいよー!」と思っていただけたら☆1でいいので評価、コメント宜しくお願いします。レビューもお待ちしてます!!

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews





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