第14話 犬好きとケイ

 花京院家にお呼ばれして、お屋敷に入ると青葉アオバさんの旦那さんが剪定をしていた。


 植木職人なのだ。


「お世話になりますぅ」


 挨拶すると、ニコリと返してくれるも無言。


 この人の声、聞いたことがない。


 喋ったところ、見たことがない。


 背は低く、小太りで、少しハゲていて、四十過ぎの旦那さんはヒトシさんという。


 年の差十五歳? なかなか珍しいのではないか? 世の中の男性に勇気を与えてくれる存在だと思うのは俺だけだろうか?


 玄関は開いていて、中に入るとトイプードルのメロちゃんがお出迎えしてくれた。


 ケイに影響された青葉さんが、お迎えしたのである。


 ペットショップで売れ残っていたらしく、お迎えして半年だけどすでに一歳と六ヶ月になる。


「山田さん、わざわざごめんなさい、来てもらって」

「いえいえ、いつもありがとうございます。印鑑、お願いできますか?」

「わかりました」


 花京院家所有のひばりヶ丘駅徒歩一分のビルの路面店が空いたので、うちで募集をしたのである。すぐにテナントの申込みがあり、契約も無事に終わったので印鑑をもらいに来たのだ。


「裏庭にドッグラン作ったの。よかったらケイちゃんを連れてきて」

「いいんですか?」

「ぜひぜひ! メロと遊んでぇ」


 用事も済み、書類を抱えて帰るところで仁さんに挨拶をする。


「お邪魔しましたぁ」


 ニコリと返してくれるも、やはり無言。


 この人、どうやって青葉さんを口説いたのだろう?


 声を聞いたことがないんだが……。


 ……。


 というようなことがあってから3日後の今日。


 お休みの日だ。


 朝、俺はケイの散歩で花京院家の若夫婦と出会った。


 俺はケイ、向こうはメロちゃんを連れている。


「こんにちは」


 挨拶をすると、青葉さんが黄色い声を返してくれる。


「きゃー! ケイちゃん! ケイちゃぁん」

「キュンキュン♪」


 ケイも、青葉さんを知っているから甘えた声を出して……ん?


「ケイちゃん、メロちゃんだよぉ」


 旦那さんが、メロちゃんを抱き上げて猫なで声でケイちゃんに近づく!


 旦那さん!


 そんな声、出せるの!?


 メロちゃんの尻尾が、高速プロペラ回転!


 ケイも、しっぽブンブンでよろこんでいる♪


「ケイちゃん、仲良くしてもらってよかったねぇ」


 俺も、猫なで声でケイに話しかけた。


 ケイ、ニコニコ♪


 犬好きは、犬に話しかける時、猫なで……いや、犬なで声になるのだ!

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