第11話 ケイとお仕事

 堀川不動産には、大きな犬がいる。


 ではなくなった。


 大きな犬がいる不動産屋さん、という広まり方をしている。


 ケイが、お店の奥にいるからだ。


 犬が嫌いな人は店に入れないから商売にならないのでは? という懸念に対し、社長はこう言った。


「他に行けばいいだろ」


 社長! イケメン! さすが元ニート! さすが元ひきこもり! 実家の道場を潰して不動産屋を始めた天才! と褒めちぎる脳内を冷静に隠して、俺は尋ねた。


「客数が減るのでは?」


 それに対し、社長はこう言った。


「客を選ぶ権利が俺達にはある……ケイちゃん! おやつたべまちょうねぇ」

「ダメです。太っちゃうからダメですよ」

「俺は上司だ! 社長だ。社長の俺にもケイちゃんと遊ばせろ。命令だ! ケイぃ♪ 可愛いケイちゃん♪」


 いい大人が、いいおっさんが、大きな犬に抱きついて喜んでいる……。


 ケイは、仕方ないなぁという優しい顔で、撫でさせてあげている。


 そんな社長だから、会社は部長の織羽オバネ部長が取り仕切っているわけで……堀川ビル一階は店舗で、店舗奥にはケイちゃんスペースがあり、螺旋階段がある。階段をあがると二階オフィスで、経理や総務や設計や管理部などのバックオフィス関連部署があり、本来であれば、俺もそこなんだけど、ケイちゃんが一階にいるから、一階の奥にデスクを移動させてもらっていた。


 俺、管理部なんす。


 我が社の管理とは、管理物件の掃除、修繕計画や手配などなど、オーナーさんフォローや入居者さんフォローなどをするのがお仕事だ。


 今日は、ハチが巣を作っているのではないかと連絡があったアパートに、ケイと行くことになった。


 いや、ケイに乗ってやって来た。


 あった……軒下にあるやんけ!


 ハチ……スズメだ。


 これは業者さんに連絡を……


「ウゥゥ……ワンワン!」

「ケイちゃん、静かに」

「ワン! ガオー!」


 ああああ!


 ケイが、火を吐いた。


 容赦ない量! 燃やし尽くす勢い!


 スズメバチの巣、一瞬で火だるま!


 あ! でも危ない!


 アパートまで燃えちゃう!


「ケイちゃん! ストップ! ストップだよ!」

「ワン!」


 ケイ! 吹雪も吐けるの!?


 うそぉおおおおお!?


 なんてすごいお犬さんなんだ!


 火炎攻撃から消火までしちゃうなんて!


 害虫駆除を、あっという間にしてしまうなんて!!


 ケイは、俺よりも仕事ができるお犬さんなんだね!


 さすが! 

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