課金しないと迷宮入り確実な世界で無課金探偵の俺は ver.6.7.2

山野エル

プロローグ

 いや、分かってる。

 昔からケチだケチだと言われてきた。

 比嘉沈ひがしずむって名前も没落した人間みたいで、それもまたケチっぽく見えるのも知ってる。

 だから、俺は今日、じっくりと貯めに貯めてきた≪事件簿≫を≪探偵運営局≫──通称「運営」に送る決意をすることができたのだ。


 普通に考えて、俺以上にケチなのは≪運営≫の方なんだよ。毎朝ポストに放り込まれる支援物資はショボいゴミばかりだ。≪事件簿≫なんか、1週間に一度しか寄越さねえ。だから、10個貯めるのに2か月もかかったんだ。普通はスタートダッシュキャンペーンみたいなので、初日にガチャ回せるようにするだろ。終わりが近いソシャゲかよ。


≪探偵神器ガチャ≫は、俺たち探偵に必要なものを支援してくれるシステムだ。≪事件簿≫1個からでも回すことはできる。だが、それでは意味がない。現在≪探偵神器ガチャ≫は、10連ガチャで星7の探偵助手≪ソニア・フリージア≫を派遣可能と謳っているようだった。写真で見る限り、なんとまあ麗しい美少女である。


 無課金を貫いて得た≪事件簿≫10個で、俺は探偵としてのキャリアをロケットスタートさせるのだ。

 この2か月、犬やら猫やら落とし物を探して這いつくばって来た。すべてこの瞬間のためだったのだ……。≪探偵神器ガチャ≫では、事務所の拡張パーツも入手できる。こんなあばら家みたいな事務所とはおさらばだ。


 俺は天に向かって両手を合わせ、≪運営≫のウェブサイトにQRコードで読み込んだ10個の≪事件簿≫を送信した。


【ご応募ありがとうございます。支援物資は翌日配送予定です】

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