第61話 心の切り替えスイッチ

Y君は、時々、8時20分のバスを見ないと気がすまない事がある。一種の“拘り”だと思う。それは突然なので、私は予測できないから、何時そうなっても良いように、心の準備をしている。もし、抱きかかえたりして、無理に登校させようとすると、その拘りが解消するまでずっと殻に閉じこもり、その日の学校生活にも影響しそうなので、私はY君が納得するまで付き合う様にしている。学校にも、その事は伝えてご理解頂いているので、登校が遅れる事も了承して頂いている。

今日は、久しぶりに、その拘りが出てしまった。人が通らない広い所で、バスが来るまで20分程、2人で立って待っていた。バスを一目見れば気が済むので、その後は、「じゃあ、急行で行くよ」と言って、2人で手を繋いで、早足で進む。こういう時は、Y君も、立ち止まる事なく、ニコニコしながら一緒に早足したり、時には、走ったりしてくれる。時間が遅いので、通学路は、私とY君だけだった。けれど、下駄箱の所に行くと、数人の子供と、先生と父兄がいた。ここから先に進めない子達だ。何とも言えない重たい空気。そんな中、Y君が靴を履き替えるのを見守り、教室まで連れて行く。皆さんの前を、ペコペコと頭を下げながら。Y君を、担任に預けて、下駄箱に戻ると、皆、まだいる。涙を流している子や、だまって突っ立っている子。親も、先生も、時々声をかけながら見守っている。私は、その前を、またペコペコ頭を下げながら通過した。

どこの学校でも、朝はこんな光景がみえるんだろうな。

この子達が、気持ちを切り替える事が出来るスイッチがどこかにあると思う。それが、見つかる様に、願いながら学校を後にした。(2023.10.24)

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