第56話 落とし物とイヤホン

横断歩道の前で、子供達と信号待ちをしていた。その前を、学生さんらしき女の子が、自転車で通り過ぎた。その時、その女の子のリュックのポケットから、定期入れがポトリと落ちた。丁度、私の目の前に。

拾い上げて「落ちましたよ~」と大声で言ったが、聞こえなかった様で、どんどん遠くに行ってしまった。彼女は、イヤホンをしていたので、音楽でも聞いていたんだろう。子供達も、心配そうに、彼女の行方を眺めていた。

拾ったケースの中には、学生証が入っていたので、『学校に連絡をして、交番に届けよう』と思った。子供達にも「後で、交番に届けるね」と告げた。そして、信号が青になったので、渡って、歩いていたら、一人の子が「戻って来た!」と言った。振り向くと、何となく、必死の形相で、来た道を走行している彼女の姿が見えた。学生証で、彼女の名前が解ったので、道の反対側から「○○さ~ん」と何度も叫んだ。子供達も、ずっと目で追っていた。でも、声は届かない。彼女は、来た道をドンドン進んで行った。しばらく待っていたが、戻ってこなかった。

見守りボランティアが終了してから、学生証に書かれている大学に連絡をして、「最寄り駅の交番に届けて置きます」と言う。

最寄り駅の交番と言っても、2㎞は離れている。一旦帰宅してから、交番に行き、拾った定期入れを届けた。

対応してくださった交番の人(おまわりさんではなかった)が、「最近の人は、イヤホンをしている人が多くて、声をかけても聞こえないんですよね~」と言っていた。

翌日、子供達には、交番に届けた事を報告した。いつか、この子達が、落とし物をした時は、きっと交番に届けてくれるだろう。出来れば、自分を守る為に、自転車でも、歩きの時でも、イヤホンをしない人になってくれると良いナ、と思う。

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