第2話 音無しの里、星月夜


 銀鏡に来てから毎晩のように星を見上げていた。


 音無しの里では星が瞬くのが必然の理だ。


 蠍座の尻尾が山の尾根に隠れて見えないようにオリオン座の弓矢も遠くの宇宙に沈んでいる。


 僕はあまたの罪を抱えている囚人だ。


 生まれながらの鎖を約束された囚人。


 


 ほら、この手で心の刃を振り下げてみないか。


 君だって心の奥底にある光る石を見つけたいだろう。


 星を震わす闇のように僕らも輝く光を羨む闇の裾になりたいんだ。


 


 星に祈りを捧げる神楽は全国探しても銀鏡神楽だけだ、と教えてくれたのは伯父さんだった。


 銀鏡に引っ越してから三年も経とうとする頃、伯父さんは僕に一人剣を教えてくれた。


 


 一人剣は年少者が舞う花の舞と違い、格段に舞のレベルも難解になれば格も違う。


 大きく違うのは本物の小刀を振り回しながら舞うという点だ。


 初めて伯父さんが舞う一人剣を見たのは僕が十四歳のとき、その迫力と言えば簡単には言い表せない、神が降臨したようなしなやかで精悍な舞だった。


 


 残酷な銀の刃先に連なる一筋の強い光と漆黒の闇を裂く音の群れがこの瞼の裏によく見える。


 両手で持った小刀を抗うように交差し、でんぐり返ししながら天空に向かって飛び跳ね、𨕫(しめ)と呼ばれる神籬の前でただひたすらに祈りを捧げるのだ。


 魑魅魍魎が跋扈する深夜、剣が夜の底をさらう音だけが永久に響く。


 怪我はしないだろうか。息切れしてリタイアしないだろうか。


 


 不安は隠せないし、ないと言ったら嘘だ。


 伯父さんのように舞える自信はない。


 伯父さんに不安を漏らすと伯父さんは辰一君ならきっとできるさ、といつものようにはにかんで答えてくれた。



「花の舞も舞えるようになったんだ。辰一君ならきっとできる、と俺は信じている」


 花の舞は月日が経つにつれ、今ではすっかり軽々とやれるようになった。



「一人剣の舞はまだ僕には早いんじゃないですか」


 早くはないさ、と伯父さんは答えた。


「できれば早い方がいい。伯父さんももう、五十を前にしているし、最近じゃ、息切れのほうが激しくなってね。神楽の後継者を早く育成したいと思っているし、辰一君ならやれるさ。失敗したらまた挑戦すればいい。なあ、いいだろう?」


 そんな会話の後、伯父さんはその場ででんぐり返しをやって見せた。


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