名前決め?

 種族 ヒヨケムシ

 名前:空欄 LV1

 HP10/10 MP0/0


 筋力4

 防御2

 速度10

 魔力0

 運1


 アビリティ 【加速LV1】【速度増加LV1】【筋力増加LV1】【強硬体】



 加速


 目にも映らぬ速さを持つものに現れるとされる。

 このアビリティを持つものは戦闘中、速度のステータスをアビリティLV×%分上昇する。



 強硬体


 体が非常に固いものに現れるとされる。

 このアビリティを持つものは速度に10分の1の補正を受ける。また防御を+5する。



(強みを生かしきれてない!?)


 果たして、ここまで自分の強みを無駄にできる生物がいるだろうか。

 アンはLV上げを行ったことで改善された。

 ミミも【乾燥肌】があるとはいえ、日の元に出なければいいし、ウデに至ってはただ運が無いだけである。

 しかしこれは訳が違う。

 速度がいくら上がろうと、半減10倍を受けている限りほとんどないのと同じだ。

 鍛え上げることも、改善することもできやしない。

 そうなるとさっきのフレイザード戦ではずっと加速が発動していたということだろうか。

 どこまでが加速発動状態だったかは定かではない。

 だがもしインと出会う前からずっと加速を発動していて、目で追える程度の速さしかないのだとしたら。


(ううん。私が主になるんだから。しっかりしなきゃ)


 へこたれてはいけない。

 弱みや悩みはまた後で良い。

 とにかく今はこのソフーガを心配させたり、不安にさせたりしないことだ。

 インは悪い気を吐き出すかのように、肺いっぱいにため込んだ空気を無くなるまで外に吐き出した。

 よしっとインは活を入れる。

 それから仲間になった白いソフーガに笑顔を向けた。


「これからよろしくね! えっと……」


 そういえば名前がまだだった。

 インは白いソフーガの名前欄とにらめっこし始める。

 そして真っ白だからシロと名付けようとして手が止まる。


(安直かな……?)


 前学校にいるとき、ピジョンから言われていたのだ。


「にゃはは、インちゃんが名前を付けるとみんな二文字になるね~!」


 イン、アン、ミミ、ウデ。

 確かにみんな二文字である。

 それも半分以上、元々の名前から取っている始末。

 身体の部位と被っているようにも見える名前は確かに安直である。


(他にはユキとか? うーん?)


 名づけに愛情を込めているのは間違いない。

 しかし安直といわれる。

 どうしようかと悩んだ末、インは名づけに詳しそうな者に尋ねてみようと結論付けるのであった。


 *  *  *


「それを私に聞くのはお門違いってもんじゃにゃいかにゃ~?」

「やっぱりそうかな?」


 次の日の学校。

 インこと杏子は全ての元凶である、ピジョンこと葵に相談していた。

 今回は杏子の方から相談しに来たのも相まったのだろう。

 昼休みの始まりにクラスに尋ねてきた杏子の話を興味深そうに聞いた後、「それは違うんじゃにゃいかな~」なんて突き返したのだった。


「アドバイスをあげるとするならパクるとか、既にある名前とか、白だけじゃなく、白から派生できるものをつけるっていう手があるね~」

「ふーむ」


 それでもアドバイスをくれる辺り、やはり杏子に対しては甘いようである。

 葵は「それから」と口にして話を変える。


「少し目標がブレすぎなんじゃにゃいかな~? インちゃんって、今何をしたいの~?」

「えっ……。えっと……ソフーガちゃんの名前決めかな?」

「虫ちゃんのためにマイハウスを作る計画はどこへ行ったのかにゃ~?」


 インはハッと口を開けていた。

 その様子にピジョンは非常に白けた目を送っていた。

 その瞳には少し、侮蔑が込められている。

 インは誤魔化すように「忘れていたわけじゃないよ!?」と少し声をきょどらせていた。


「まぁいいんだけどに~。私は関係ないからさ~」

「やることが山積みだぁ」


 気づけば積み上がる物事にインは少し顔を青くさせた。

 まさかここまでになっているとは。

 これに学校から出る課題までついてくるわけである。

 杏子は体中から力が抜けるのを感じていた。

 葵は「まぁ気楽に行こうにゃ~。所詮はゲームなんだからに~」と、杏子の手を引っ張り自分の教室に引き込んだ。

 名前も顔も覚えていないクラスメイトの椅子を引っ張り出す。

 それから葵は杏子を座らせると、弁当の風呂敷を解いた。


「それより魔女ちゃんの方はどうなのかにゃ~」


 葵の言葉から楽しさが覗いていた。

 完全に傍観者のつもりなのだろう。

 葵は弁当の中身に箸を突かせ、ワクワクといった顔を杏子に向ける。


「元気だよ」


 杏子はそう答えていた。

 本当の所は違う。

 料理を食べるペースがいつもより遅くなっていたり、辛くしたりなんてことはなくなっている。

 他にも杏子から見て、いつものファイことほむららしくない行動をいくつか。

 あれは他から見なくても、心に来ているのは確かだ。

 けれどそれを葵に言えばどうなるか。

 きっと面白がるに違いないだろう。


「多分それ全部杏子ちゃんのせいだと思うけどね~」

「今の聞いてなんで私のせいになるの!?」

「そんなの、もっと最初の方で正体を明かしちゃえばよかったんだよ~。襲った杏子ちゃんが、本当はだーい好きなロリ母魔女ちゃんの姉気味でした~ってにゃ~」

「けどそれじゃあ――」

「これだけで恐怖を植え付けるのには十分だと思うけどに~。もし襲った相手が魔女ちゃんの知り合いだったら、友達だったら、親族だったら~。ってね~。ここまで事態をややこしくしているのは杏子ちゃんが変にスパイ活動をしたからだと思うにゃ~」


 言葉も無かった。

 葵はあっけらかんと言っているが、正しくその通りである。

 最初から杏子が正体をばらしていれば、こんな事態にはならなかったかもしれない。

 ベルクに気を付けようという意志が生まれ、ほむらも今まで以上に苦しむことはなかったのかもしれない。

 むしろ現状況はどうだ。

 依存していた相手であるほむらと縁が切れそうな状況である。

 こうなってしまえば、いくら杏子が何かやったとしても無駄になる可能性がある。

 なんせチームが変わっているのだから。

 依存する相手が変わっているのだから。

 恐らくベルクは、自分が依存できる相手じゃなくなった時点ですぐに手のひらを返す。


「今まで入ってきた情報と、元々持っていた情報から推測するに、私はそう推理するかにゃ~」


 なんて葵は話を繰り広げていた。


「まぁ、最適解なんて分からないし~、私からすればそんなマザコンどうでもいいんだけどにゃ~」

「うーーーん……」


 色んな意見があった。

 チームメンバーが悪いという意見。

 杏子が悪いという意見。

 リーダーがちゃんとしなかったのが悪いという意見。

 そして元々のベルクが悪いという意見。

 一番悪いのは誰か分からない。

 いや、そんなことはどうでもいい話だ。

 ただ部外者なのにもかかわらず、不必要にしゃしゃり出てしまった。

 そこは確かだ。


「そ~れ~よ~り~、新たに仲間にした虫について教えてほしいにゃ~!」


 やはり葵からしてみればチームのもめごとよりも、杏子が新しく仲間にした虫に興味あるらしい。

 ひとまず杏子は相談事に乗ってくれた礼もそこそこに、報酬代わりに新しく仲間にしたソフーガについて話し始める。

 話しの内容に葵はメモをしながら、あれやこれやと質問攻めにする。

 それに杏子も同じように機嫌よく答えて行った。

 盛り上がる二人。

 しかし忘れてはならない。

 話している主題は虫であることに。

 そして今は昼休み、昼ご飯を食べる時間である。

 話しがどんどん弾む二人の様子に、ヒヨケムシとはどんな虫だろうと片手間にスマホで調べては後悔する者が続出していく。

 そうして最後に、少なくない人数からご飯中に虫の話題は止めてほしいと頼まれたのは想像に難くないだろう。


 *  *  *


「うわぁ……」


 少しでもインベントリの中を整理しようと、インは手に入れた魔物の素材を売りに出かけていた。

 今までもいらない素材は割と売りに出していた方である。

 しかし猛炎の世で手に入れた素材は今までと格が違っていた。


(紅一閃のソフーガの素材。こんなに高く売れるなんて)


 インの手元にはそろそろ自分の家を買えそうなほどフォンが溜まっていた。

 簡単な話である。

 ソフーガの素材は上級プレイヤーとして名高い、ファイですら欲していたものである。

 ソフーガの発見数は少なくない。

 必ず一匹は見かけることができるほどだ。

 ではなぜ高く売れたのか。

 それは目に映らないレベルで速いという特性上、倒すのは非常に困難を極める。

 先読みするに当たっても、見えなければ読みようがない。

 実質、姿を見かけたらこっそり近づき、不意打ちで攻撃を当てるのがソフーガの主流の狩り方といえた。

 そんなレアであまり見かけないソフーガの素材。

 インはファイにあげた残りのほとんどを売ったのだ。

 自分の家を買えそうなほどフォンが溜まるわけである。


 そんなことも露知らず、インは猛炎の世で必要となる道具を買い足した後、露店を見歩いていた。

 このまま溜めておこうという思いと、少しくらい使っても良いんじゃないかという欲が頭の中でせめぎ合っていたからだ。


「なんでなんですか!?」


 すると一角の飲食店と思しき場所から、聞き覚えの声が耳に入ってくる。

 忘れるはずがない。

 あの声だ。

 何度も何度もファイを困らせたあの声。

 苛立ちよりも先に、何が起こっているのだろうという疑問が来る。

 そして声の正体、ベルクが扉を破壊して現れた。


(えっ……)


 昨日ぶりなはずのベルク。

 しかしそのベルクの姿は別人かと思うほどずっとやつれて見えた。

 ぼさぼさになった髪、目の下に見える薄っすらとした隈、そして不必要なほど上下する肩。

 ベルクはインの姿を捉えるや否や、鬼のような形相で詰め寄った。

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