魔法
魔法アビリティの取得は、実に簡単。
図書館内でその魔法に関連する本をたくさん読み、使えるNPCに教えてもらうだけでいい。
そうすれば三十分、早くて十五分ほどで取得できる。
一番簡単なのは自由枠の一つとして選ぶことだ。
こちらの方が、時間もかからず手間が少なくて済む。
インはピジョンに連れられて、本棚のすぐ近くにまで来る。
リアルと違い、五十音順にしおりで区切られてすらいない。
どうすればいいのかと、インはピジョンの肩を叩く。
「これ、本棚の本に触れるだけでいいんだよ~」
ピジョンが試しに触れてみると、スクリーンが映し出される。
タブレットのように彼女が操作し、てきとうにタップする。
するとピジョンの手が光り輝き、一冊の本が握られていた。
「簡単でしょ~」
「うっ、うん」
「戻し方は~」
と、ピジョンがさっきと同じ個所をタップすれば、再び手に握られている本が光り輝き、一瞬にして消えていった。
「こんな感じ。じゃあ……そうだね~。インちゃんが満足したら言ってね~」
分からないことがあれば対価が発生しない程度に教えるよと、ピジョンはそれだけ告げるとどこかに行ってしまう。
取り残されたインは早速教えられた通り、本を手に取り開いてみた。
* * *
このゲームの魔法、というより属性は七つに分けられている。
基本区分は闇、火、水、木、風、土、光。そこから火は爆炎やら、水は氷と分岐、進化していく。
魔法は遥か昔の太古時代、始まりの魔法使いと呼ばれた者の手によって広められたという。
その魔法が今日に至るまで何度も派生、研究されていき今のような形となっていった。
闘気もMP区分に入れられているのはそのためだ。
元々は同じ。どうやって使うのか、自分の体ではそのMPがどういう風な形になれば扱いやすいのか。
無意識化で魔力か闘気に変わっていくらしい
他には事前にピジョンから聞いていた剣と、魔法区分についての違い。
スキルはアビリティLVを上げる以外にも、自分で研究していくなり、本などで知識を深めれば手に入る。
極たまに、装備品に魔法アビリティがついてあるのも存在している。
(ライア……。私、着ているからね)
魔法は何を使いたいのか、またどんな形で出現させたいのか具現、どの場所に出したのか指定、最後にどう動かしたいのか操作、大まかな手順はこのような形となっている。
さらには最新のVR技術というものはすごいもので、これらは口に出さずとも頭の中で思い描くだけで、コンピューターが思考を読み取り動かしてくれるらしいのだ。
他には風魔法の疾風のようなステータスを上げる物、植物の生長を促す、土の状態を良くする魔法など、非常に幅広く使われている。
そこまで読んだところでインは本を閉じ、目頭を少し抑える。
(とりあえず分かったけど、どうしようかな)
本は全て日本語対応されていたから理解はできたが、問題はそこではない。
何の魔法を取得しようかという点だ。
(虫ちゃんのこれからを考えると木か土。となるとやっぱり家も欲しいよね)
インは顎に手を当て、木、もしくは土を選んだ場合を頭の中に思い浮かべる。
だがその場合、どうしてもマーロンのように自分のスペースがないとゆっくり休むのは不可能だろう。
ひとまずインは、どっちにしようかピジョンにも意見を求めようとしたところで、一冊の本が目に留める。
(世界、虫について? 何だろう)
リアルでは見たことのない本。
それどころか、映っている虫すら見たことが無い。
駆られたようにインは手に取り流し読みしてみると、自分が今まで見たことも聞いた事もない、この世界ならではの虫たちが綴られている。
現実では絶対にあり得ないだろう生体。
砂漠ならともかく雪山や火山にまで住み、口から火を吐くなど体の構造や何をどうしたらそんな生体系になるのか、体はむしろ大丈夫なのか気になる物。
だが中には、リアルの世界で見知った虫についても並べられている。
(面白い! 他には何かないのかな? ここまで来ると多様性とか通り越しているよね! って、何だろうこれ……)
これだけで三、四時間を優に越せるほど読みふけられるのではないのか、ピジョンと今日冒険に行くことができないのではないのか、インが熱中しているとつい気になる記述を発見する。
それは、
(倒すと強くなれる虫たち。ある男が偶然にもその虫を発見して倒そうとすると、目の前でとんでもない化け物へと変貌を遂げてしまい、逃げかえってきた?)
まるで意味が分からない。
大まかに簡略化して、恐らく倒すと強くなれる虫たちというのは、王女アリのようなSPを落とす虫たちだろう。
だがとんでもない化け物とは一体何なのか。
あまりにも曖昧過ぎるうえ、そこに対する記述は一切書かれていない。
この後に続くページにも説明はなく、他虫の紹介がずらりと並んでいるのみだ。
このままずっと考えていても分からない。
インは一旦この件は保留することに決め、虫の本に目を落としたのだった。
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