魔法少女 4

 自分が初めて生まれた研究室。そこには二人の人影があった。

 一人はライア。

 彼女はもう一人の少女、インを机の上に寝かせると、カプセルの形をした装置を起動する。

 何かよく分からない緑色の文字。

 それが黒いスクリーンに映し出され、上に流れていく。

 それを確認し終えるとインの前髪をかき分け、初めてできた友達の寝顔を覗く。

 毒で倒れているのもあり、表情は蒼白。

 うなされているのも合わさり、お世辞にも血色がいいとは言い切れない。


「ごめんだっけ。本当にごめんなのはこっちだよイン。だって――」

「最初から自分の命がないのは分かっていたから。でしょ、魔法少女ちゃん」


 自分しかこの場にいないと考えこんでいたのもあってなのか、不意打ち気味に聞こえた言葉に焦りを張り付け振り向く金色の魔法少女。

 そこには、壁を背を預けて立っている初期装備の少女。

 不法侵入して人の日記を盗んでいた、インからピジョンと呼ばれていた子がいた。


「確かピジョンだっけ! 忘れ物でもあったのかな!」


 いきなりの訪問にもライアは笑顔を忘れないで対応する。

 若干口元が引きつっているのさえ除けば、誤魔化しは完璧だったかもしれない。

 だがピジョンからすれば、そのような笑顔はもう意味がない。


「そうそう忘れ物しちゃったんだよね~。それで来てみれば、こんな場面に偶然遭遇するなんて。いや~、インちゃんの運がいいからかな~」


 ――ねぇ、誘拐犯さん。


 おどけるように壁から背中を放すと、ライアと向き合うようにピジョンは位置取りをする。


「誘拐犯って。わたしはインがあんな埃っぽい場所で寝るのはかわいそうだと思ったから、ここに連れて来ただけだよ! そっちこそ、入ってくるなら声くらいかけてよ!」

「ふ~ん。寝かせるならここ以外にも両親の部屋とオネストの部屋があるよね~。こんな機械しかない場所に友人を寝かせるのは違うんじゃないかな~?」


 インが寝かされているのは机の上、ただ寝かせるだけであればフカフカなベッドがある部屋の方が良い。

 ピジョンに指摘されても、ライアは笑みを崩さない。


「あそこは埃っぽいから、インがかわいそうでしょ!」

「そうだけどそうじゃないよね~。魔法少女ちゃん、本当はインちゃんの体を乗っ取ろうとしているんでしょ?」


 このままだらだらと続けてもしょうがない。

 何よりイベント終了という名の時間制限もある。

 だからこそピジョンは、普段なら有り得ないほどの直球を投げた。

 しかしそれでも、ライアは余裕を崩さない。


「わたしが、インを? そんなわけないじゃん! 第一なんで――」

「さっき言ったとおり、初めから住民が侵略者なのが分かっていたから。それと、自分の力の供給源が侵略者なのも」


 タンッタンッと、ピジョンは入り口を封鎖するかのように右左と、行ったり来たりする。


「だからそんなわけないって! だってわたしは、あの時初めて。インから体の事を」

「確かに魔法少女ちゃんは、インちゃんから初めて体の事を聞いたよね。正確には、誰かの口から知っている情報を初めて聞いた。読んで知った場合なら、その限りじゃないよね~」


 初めて情報を聞いたのはインから、それよりも先に読んで知ったのは聞く前。

 だから嘘ではないとピジョンは口にする。


 そもそもこれは、推理でも何でもない。

 ライアの秘密が置かれていたのはライアが寝ていた場所。

 さらに言えば机の上。

 そんな目に着く場所に置かれていれば、知る機会などいくらでもあるだろう。

 埃がほとんど被っていなかったのも理由の一つと言える。

 住民が埃まみれで汚いのに、魔法少女だけ綺麗と、おかしい部分はいくらだってあった。

 恐らく他プレイヤーの何人かもすでに気づいているかもしれないと、ピジョンは心底楽しそうな表情を作り出す。


「じゃあ不法侵入者さんの言う通り、初めから知っていたとしてもなんでわたしがインを狙わないといけないの!」

「それは簡単。インちゃんがエルフで魔力量が多いから。大勢いる中で目にすることができたのは、近くにミミちゃんがいたからかな。プレイヤーの中にワームが紛れ込んでいたら、誰だって二度見はするよ」

「でもそれは見つけた、狙いを付けれたっていう理由だけ。エルフだったら、他にも大勢いたじゃん!」


 エルフだったら他にも大勢いた。

 確かにライアの言う通り、エルフの種族はイン以外にもいた。

 しかしピジョンはそれも否定する。


「そうだね~。でもインちゃんは違う。一つ目は、初めに言った通りエルフだから魔力量をたくさん持っている。二つ目は、魔法少女ちゃんと身長、容姿が似ているからかな~」


 容姿といっても、似ているのは体系と金髪という部分。

 ただ髪なら切るなり伸ばすなりすればいい。

 瞳はコンタクト入れるなりすればいい。

 ピジョンは二本指を立てて言い放つ。


「体を貰う以外にも、大方自分の服を着せて、インちゃんを自分、もしくは仲間だと偽装して侵略者を騙し、そのうちにどこかほかの星に行く気だった。例えばそう、余分に力を吸い取る為とか」


 そうでなくても、さっきも言った通りエルフは魔力量多い。

 吸い取るMPの量が多いインちゃんは、魔法少女ちゃんにとって絶好のカモ。


 だからこそインちゃんに近づいて、理由にそれらしい内容を付ける事で納得のいくものにし、魔法少女服の副作用も当然知っている上で自身のネコを上手く利用して、着てもらうよう頼みこんだ。


 しかし一番この推理で決定的なのは、パーティーを知っている最中に魔法少女が行ったセリフ。


「今のわたしの体にある力をすべて注ぎ込んだ。今のわたしって、言葉が変じゃないかな~?」


 とはいえこれは、状況証拠を一つづつ適当に組み立てた、核心を突く証拠も何もない穴だらけが過ぎる物。

 探偵じゃないピジョンは、目的なく動かしていた足を止めた。

 その推理に、ライアは侵害とでも言いたげに頬を膨らませる。


「だから違うって!! インの友達でしょ! だったら同じ友達じゃんわたし達! せっかく仲良くなれそうだったのに、変な言いがかり付けて! インに言ってやる!」

「別に同じインちゃんの友達でも、私とアンタは友達じゃない。それに起こしたければ起こせばいいじゃん。起こせられるならの話だけど」


 今までのどこか楽しげな表情から一転、ちゃん付けからアンタ呼びに変えて、無表情で淡々とライアを突き放すピジョン。


「自分で麻痺入れたんだから起きる訳ないよね。回復使おうにも、毒も入ってるから意味なんてない」


 NPCでも、プレイヤーの装備をスキルやアビリティ無しで、無理やり剥がすなんてことはできない。

 さらに、布の服の上から魔法少女服を着ているならともかく、このゲームの性質上男女関係なく下着もなく全裸に引っぺがすことは不可能だ。

 そしてもし仮に装備を二重に着ていたとしても、インの持つアビリティ内容じゃ重複はしない。

 当然、最大HPやMPを増やすなんて効果も、麻痺や毒を受けるなんて効果も発生しないのだ。


「それに、アンタは上手く誤魔化しているつもりのようだけど、私から見れば全然」

「誤魔化すも何もホントの事じゃん! もうほんとに怒ったから、インに全部チクるんだから!」


 ライアは机の上に寝かされているインに、何か呪文のようなものをピジョンに聞こえないように詠唱すると、薄青く光る手を向けた。

 回復の効果を持ったスキルなのだろう。

 淡い光は弾け飛ぶ。

 しかし、当然、インは目を覚まさない。

 ピジョンは酷く冷めたような目でライアを見つめる。


「ウソつくときって、図星を突かれそうになったから話題を変えたがるんだよね。今とか、インちゃんから聞いた老婆の時のように」


 なおも見苦しい言い訳を続けるライアに、ピジョンは再び怪しい部分を指摘する。


 曰はく、本当に安心させる為なら、目の前で起きている問題を解決させてあげればいい。

 それが、宇宙恐怖症とわかっているのならなおさら。

 わざわざ眠らせるなんて、余計に恐怖をあおるだけ。


 さらに感情の機微を表情は上手く隠しているが、口元に現れ過ぎ。

 目を逸らすとか、瞬きのしすぎにも注意しているせいで、不自然に目をガンミしてくる。


 今も気づいたのか、目の動きをばれないようにインちゃんを治すという名目上、ピジョンから視線を逸らした、と。


「そ、そんなのたまたまだよ! 会話の途中途中で目はいろんな方向に動くし、相手の目を見て話すといっても、長くずっとは見ないでしょ!」

「そうだね。じゃあもう一つ嘘ついているときの特徴を話そうか。それは、矛盾だよ」

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