告白

 勝利と同時にライアが白い弾を上空へと打ち上げる。

 白い弾はどんどん高度を上げていき、次第に失速するとともに爆散。

 大海のように輝く星空へ、綺麗な一輪の花火を映し出す。


「みんなぁぁ!! わたしたちの勝利だよぉぉぉ!! ありがとぉぉ!」


 三回戦目最後だというのもあり、ライアは声を上げて勝利を叫ぶ。

 町中は始め来た時に比べ、住民が一人もいなくなったせいで静かになった反面、絶望下での逆転に勝利を叫んでいるプレイヤー達のせいで逆に騒がしい。

 その中をライアは、インとピジョンに呼ばれ、共にミミに乗って出てきた廃墟へと戻っていく。


「ピジョンちゃん。勝負って三回あるんじゃなかったけ?」

「そうだよ~。でも三回じゃないんだよねこれが。一日一回なんだよね~。だから夜の十二時。言い方を変えれば、次の日の零時に奴らは攻めてきちゃったんだよね~」


 指で頭を叩いて得意げにそう語るピジョン。

 どうやら夜襲を仕掛けるときに、魔法少女側の利益を隠して侵略者だけ利益があるように説明したらしかった。

 そんな詐欺とも取れる手口に、また嫌われそうな事をしているなぁと、インは呆れた目でピジョンを見つめていた。


  *  *  *


 廃墟に戻ると、ライアを巻き込んだ祝勝パーティーを開いた。

 この三日間、侵略者との戦い、ライアと友達に成れた会話。

 食べ物や飲み物はピジョンがせっかくの宴だからと椀飯振舞する。

 楽し気に会話をするライア。

 この後何があるのか何もわかっていないようなその横顔に、耐え切れずインは口を開く。


「ライア。ごめん」

「えっと……どうしたのイン?」

「おっと、私が変わろうかインちゃん」

「ううん。私が話す。実は――」


 ライアの秘密。

 閉じ込められていた侵略者を見捨てられず解放した事。

 住民が侵略者の元に行った事。

 そして今はプレイヤーがいるおかげで活動できるが、イベント終了と同時に消えるせいで、ライアはもう長くない事。

 全てを包み隠さず、脚色もせず、インは全てを語る。

 ただ本当に、嘘偽りなどなく全てを吐露する。


「……うそ! うそだよ! なんでわたしが死ななくちゃいけないの! ねぇイン。うそだよね。うそだといってよ!」


 ライアは真実を聞き終えると、乱暴にインの肩につかみかかる。

 インは抵抗する事もなく、顔を俯かせ言葉を出さない。

 理由はどうあれ、自分がやったことはライアを見捨てるのと同義だったから。

 友達と言ってくれたライアに相談もせず、やってしまった事だから。


 軽蔑されようと罵られようと、覚悟を決めていたインは無言を突き通す。

 それが本当の答えだと受け取ったのか、ライアはインから離れて数歩後ろに下がる。


「ねぇ、なんで何も喋らないの……? ほんとに、ほんとの事なの……? イン。ねぇイン!」

「ごめん。でも私は、ライアの事を――」

「そんな戯言聞きたくない!!」


 ライアの叫びに、アンはビクンと体を震わせる。

 ミミは変わらず触手をうねらせ、真実を告げられ取り乱すライアを、ピジョンは場違いにもあくびをしながら冷めた目で見守った。


 そんな祝勝ムードから一転して、暗い雰囲気へと切り替わる。

 だが、時間というものは一番心を落ち着かせるのに効くのだろう。

 ライアの気持ちが落ち着いてきたのか、口を開いて言葉を選び出す。


「イン。わたしは、どうするのが正解だったのかな? 必死に守ろうとしてきた住民が、ほんとは侵略者で」


 声にもならないようなかすれた声でライアは続ける。


「彼らがいるから、侵略者が攻めてきて。わたしが守ろうとしたものって、何だったのかな」

「ごめん。私には分からないよ」

「そう、だよね。わたしよりも、侵略者の方が大事なインには、分からないよね」


 ライアの言葉が、針となってインの心を突き刺す。

 それはピジョンから受けた刀よりも鋭く、芯に深く突き刺さる。


 静寂が訪れる。

 口を開いても何を話せばいいのか分からずインは黙りこくり、耳がないミミは終わったのかどうかわからず、ピジョンはただ呑気に背を伸ばして寝転がる。

 薄暗い監獄に閉じ込められたような重たい雰囲気。

 張りつめそうな空間の中、ライアが何の前触れもなく、悟ったような表情で話しだす。


「いいよ。もう終わった事だもん。だからイン。わたしがあげた服を出して」

「そうだよね。友達を裏切る私なんかと、魔法少女はやりたくないよね」

「ち~が~う~。早く出して。ほんとのホントに絶交するよ!」


 ライアは可愛らしく頬を膨らませてインの額にデコピンをかます。

 インが間抜けな顔を晒せば、ライアはいたずらっぽく笑っている。

 インは言われたとおり、ライアから貰った魔法少女服を取り出し渡す。


「これで良しっと。イン、今度こそあげる。調べてみて!」



 ライアの魔法少女服(黄) 激レア


 この服を着たものに、マジカルな力を与える。

 効果HP自然回復Ⅰ、MP自然回復Ⅰを付与し、『光魔法』アビリティLV20、『変身』アビリティLV1を使えるようにする。


 今イベント最中、HPとMPの上限が191上昇し、『光魔法』アビリティにプラスLV40。毒Ⅳ、麻痺Ⅳ


 『変身』アビリティ


 他のものに姿を変え、相手を欺くことができるアビリティ

 見た目を魔法少女服から布の服に変えられる。その場合、HP自然回復Ⅰ、MP自然回復Ⅰが使えなくなる。



「これ」


 イベント限定ではないアビリティが、僅かに5だけ上昇しているのに気づいたインは、目を丸くしてライアへと向く。

 それを横からピジョンは眺め見ると、点と点が結びついたようなすっきりした表情になった。


「えへへ! わたしの今の体にあるすべての力を使った付与だよ!」

「なんで……。私は、ライアを裏切ったのに」


 強化されて戻ってくる魔法少女服を見て、結果的にライアを見捨てた自分に持っている資格はないと、インは手を震わせる。


「だーかーら、わたしの意地悪だよ! ほらっ、その服を着て戦うたびにわたしを思い出すでしょ! だからインは、毎日わたしに助けられるんだよ!」

「でも、それじゃあ余計にライアが――」

「いいんだよ」


 ライアはニッコリと、どこか物悲しくインをじっと見つめる。


「そっか。そっかー! わたしに守るべき人は居なかったんだー! だからイン。そんな悲しい顔しないでよ」


 ライアはインへと近づき、両肩に手を置いて微笑む。


「インのやった行動は人? エルフとして正しい行為だったんだよ! さっきも言った通り、これはわたしの為になるんだから! ほらっ、笑って笑って!!」


 無理してるかのようなライアの笑い方に、インの目から一筋の涙腺が走っていく。

 決して自分がやった行動はライアの為にはならないはずなのに。

 それを快く許してくれたライア。

 我慢が抑えられなくなりインは泣きじゃくり、ライアに抱き着く。


「ごめっ、ごめんねライアァ! 本当に、私の、私のせいで、本当にぃ!」

「インのせいじゃないって。だからもうこの話題はおしまい。明日を生きられるように、勝利を喜び合お! インとその家族たち!」


 抱き着いて号泣するインの頭を優しく撫で、背中を叩くライア。

 事が綺麗に収まったのが分かったのか、アンとミミは跳びあがりインの傍まで駆け寄っていく。

 ライアはそんな二匹も快く受け入れ、勝利と別れの本当のパーティーをイン達とライアは再開するのだった。


「あれっ? ピジョンちゃんどこ行くの」

「にゃはは。インちゃんごめんね。ちょっと用事があるから出れないや。申し訳ないけど、そっちでやっててほしいな」


 一人扉を抜けてどこかに行くピジョンを、インは気にかけて。

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