疑い

「確かにそうですけど、イベントですし。……そんなにおかしいんですか?」


 インが見てきたこの町が変だと匂わせるピジョン。


 現代日本ならばおかしいのは確かだが、戦時中の町だと考えればこれくらいは当然だろう。

 第一侵略者が攻めてきているのだから、ボロボロになるのは当たり前だ。

 初めの説明でも、ここは地球ではないとも言われている。

 どこもおかしくはないはずと、インは首をかしげる。


「そうだね。じゃあなんでこの町の住民はしゃべる言語が違うのかにゃ?」

「言語がちがう?」

「そう、言語。戦時中だというのに、別の国の人が枷もなく歩いているのはおかしくないかな?」


 ピジョンの言う事は最もだ。

 戦争が終わっているならともかく、最中のような物なのに言語が違う者同士、いるのは何故なのか。

 しかしこうとも考えられる。


「それは侵略者を倒すのに、他の国や星とも協力をしているからとか? ライア、通訳できるようだし」

「住民の言語が、侵略者と一致しているのにかな?」


 ピジョンの言う話では一回目のPVPで攻めてきた侵略者と、町でやせ細っていた住民の言葉が、全く同じわけではないが似通っているというのだ。

 とはいえこれは、訛りが出ているのであれば何もおかしくない。


「でも偶々って可能性もあるよね?」

「うんうん、大いにあると思うよ~。でも住民もろとも吹っ飛ばすのが、守ると口にしている者のやる事かにゃ~?」


 バリアを張っているから大丈夫。

 だから住民もろとも吹っ飛ばしても、ちゃんと守っている。

 それは豪語している者の行動としては、ちょっと違うのではないか。

 むしろ上を取れているのに、わざわざ飛び降りて空襲をしてこない辺り、侵略者の方が住民を意識している。


「それに通訳で相手は言葉が分からないのをいいことに平気で嘘をつく人もいてね~。例えば英語でゲームが好きだと言っているのに、通訳者は話す価値もないとか。酷いときは国同士で、国のトップは条約を結ぶって言ってるのに、通訳者がお前の国なんて亡んじまえとか通訳したりね~」


 相手が違う言語で何を言っているのか分からないからこそ、人は通訳者や翻訳者に頼る。

 しかしその通訳者が嘘をついているとなれば、話は全く別。

 こっちからすれば、それが嘘だと分かるはずもない。

 それと同じ事をライアはしているのだという。


「他にもこのイベント面白いよね~。戦闘中以外とはいえ、途中で陣営を変えられるんだから。まるで、真実を知った後で寝返ることができるように」


 裏切り。

 このイベントは裏切りができるようになっており、陣営を変えられる。

 今も多くのプレイヤーが、侵略者側じゃ勝てるわけがないと魔法少女側に寝返っているころだ。

 誰だって貫通魔力砲で100ダメージ以上食らって、隙を生じないもう一撃を受けて倒されればやる気を失うだろう。

 むしろそれで攻略のやり甲斐があると燃え上がる人物の方が少ない。


「ピジョンさんは、ライアを疑っているんですか?」

「ちょっとね~。でもそうなると怪しい。中には日本語で話す人もいるし、魔法少女と侵略者の戦いをなぜ別の星でやるのかとかね~」


 地球でやれば、侵略者側なら仕事でムカついて街を壊すなどのストレス発散ができるはず。

 魔法少女側なら住民からの指示を受けて英雄になれるはず。

 いくら罪悪感を無くすためとはいえ、わざわざ別の星でやるメリットはそれだけであろうか。

 もっと他の星でやるからこそできることがあるんじゃないだろうか。


「例えば……、魔法少女は悪を倒すという価値観を潰すとか」

「ピジョンさん?」

「悪かったにゃ~。ちょっと考え事が強くなってた。とりあえず今日はもう寝ようか~。ゲームとはいえ習慣を乱すのはね~。はい枕」

「ありがとうございます!」


 ピジョンはインベントリから枕を取り出しインに渡す。

 渡すにはウィンドウを操作する必要があるが、うわべ上の役割を果たす分にはこれだけでも十分なようだ。

 インが床で寝転び枕を敷くと、ピジョンも同じように寝袋に入って隣に寝転がんでくる。


「ごめんね~。寝袋は一つしか持ってなくて」

「いえ、枕だけでもありがとうごさいます!」


 最初は暗闇で、誰もいなかった。

 アンもミミも呼び出せなくて、すごく寂しかった。

 だけど今は、ピジョンさんが隣にいてくれる。

 誰かが一緒にいるという安心から、インはすぐに眠りへと誘わる。

 深く、深く、害虫と益虫と不快害虫がうじゃうじゃいる地獄らくえんの夢を見始める。

 ちなみにインのお気に入りは甲虫である。


「ありゃ。これからもっと話そうと思ったけどもう寝ちゃったか」


 ピジョンは安らかな寝顔を浮かべているインを見て、静かにそう呟く。

 寝袋から手を伸ばすとインの頬を指先でぷにぷにと突いて、にやけた表情を浮かべる。


「やわらかい。癖になるね~」

「ううん」

「おっと、起こしちゃうか。それにしても触れられるなんて、セーフティタッチ機能かけてないのかな~?」


 ピジョンは寝袋にくるまったまま天井を向く。

 まだまだこのイベントは気になる事がある。

 インのあの様子を見る限り、恐らく最後までお知らせを見ていないのだろう。

 この侵略者と魔法少女の戦いは三日、最大三回戦えるのだが、そのうち一回でも侵略者側が勝てば勝利となる。


 星を乗っ取られると考えればあまりにも妥当。

 だからこそ最初は気にはならなかった。

 このゲームだって他のMMOと変わらず、一回目のイベントはただのPVP。

 そういう条件があるだけで、特に深い意味はないのだろうと。


 しかし魔法少女は、見たところ一人しかいない。

 その一人があまりにも強すぎる。

 誰かが言った通り、レイドボスと見間違うほど。

 あんなのに勝つには、それこそ主人公補正でもない限りは不可能だろう。


 ともなればどこかに弱体化フラグや、種がありそうなもの。

 だがあいにくと、魔法少女と一緒に行動していたインから聞いた情報では、何もわからない。

 他にも魔法少女にしか治せない宇宙恐怖症等々気になる事が多すぎる。


 後イベントは二日しかないというのに。


 考え事がグルグルと脳を刺激してくるせいで、目がギンギンに冴えて眠れないピジョン。

 特に意味など何もない言葉でも、こんなストーリー形式を取られては、すべてが伏線に見えてしょうがないのだ。


「ンンンンゥゥゥゥゥ!!! 眠れない」


 インがスヤスヤと安心感から眠る中、ピジョンは悶々とした感情が渦巻くせいで、なかなか寝るに眠れないのだった。

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