ミミ

 死の恐怖を味わったアンから十秒ほど顔面アイアンシザースを受けたインは、繰り返し謝り何とか和解して放してもらう。

 その後インは、早速とばかりにテイムしたワームの能力を調べるため、ステータス画面を開いた。


 種族 ワーム

 名前:無し LV1

 HP196/400 MP137/137 消費最大MP75


 筋力20

 防御0

 速度14

 魔力9

 運0


 アビリティ 『捕食LV5』『鞭LV3』『縮小化』『巨大化』『粘液LV4』『乾燥肌』



 捕食


 大口を開けて相手を飲み込み締め付ける。

 抜け出さない限り、相手は五分ごとに最大HP八%ずつ減少する。



 鞭


 鞭や触手などを使用して相手を攻撃、拘束するアビリティ。

 LVを上げると、使えるスキルが増えていく。



 縮小化


 巨大な体を小さくして天敵から身を隠す。

 現在の全長十三メートル。使用すると全長一メートルになる。



 巨大化


 小さくした体を元に戻すときに使用する。元の体の大口は狙った獲物を逃がさない。

 現在の元々の体のため使用不可。



 粘液


 体からヌルヌルの粘液を出し、斬撃耐性LV%分を得る。

 使用すると乾燥肌の効果が三%上昇する。



 乾燥肌


 このワームはミミズ型であるため日光に弱く、日の当たる場所にいると毎秒最大HPの一%減少。



「毎秒HP一%減少で済むの!?」


 流石ゲームとインは驚嘆する。

 元々で百秒、粘液を使った場合は計四%の為、まさかの二十五秒しか活動できないのだがあまり気にしていない。

 しかしこのままして置いたらすぐ体力が0になるのもまた事実、ひとまず木陰がある場所まで避難する。


 対するアンは、インの最初の行動から終始意味が分からないと表すかのように触角を動かす。

 だがインは、後で解説するねと笑顔を向けてから、テイムしたワームの名前を思い浮かべる。


(このワームはミミズだよね。ミミズって英語だとアースワームだっけ? アースワーム、縮めるとアム? なんか腕っぽいよね? うーん。アースワーム。ミミズ。アスワムは長いし……、うーん。ならシンプルに、ミミちゃんにしよう!)


 インは速攻で名前を決めてワームの名前を操作すると、ワームの名前がミミに変わる。

 名前を喜んでいるのか、全長十三メートルあるワームのミミは、触手をゆらゆら動かした。

 その様はインの目から見て嬉しそうにしているように見えるが、きっと他の心が穢れている人から見れば、全く別の光景に映る事だろう。

 その姿にインはほだされるも、すぐにどうしようか考えだす。

 その内容はいったん町に戻りたいのだが、このままミミを連れて町に入ればどうなるだろうか、といったものである。


 今のミミは全長十三メートル。

 人間の平均身長の何倍以上もある存在だ。もしこんなのが町に入れば、確実に注目を集めパニックが起こるだろう。

 そして他プレイヤーから攻撃を受けるかもしれない。

 そうなるのはインも望むところではない。ならばどうするか。答えは簡単、縮小化のアビリティを試してみる事だった。


「ミミちゃん! 『縮小化』」


 インがアビリティ名を口にすると、ミミの体が見る見るうちに縮んでいくではないか。

 五メートル、三メートルと進み、終いに巨人を連想させるほどの巨体が一メートルほどの大きさまで縮小すると、ピタッと収まった。

 きっとミミからは、主を遠近法で小さく見えていたのだろう。

 タメどころか、自分よりも大きくなった主を嬉しそうにミミは触手で絡めとり、甘えるかのように他の触手と体を押し付けるのだが、その光景はまさしくあれである。


「うん、これで大丈夫だね」


 ワームを小さくしただけで大丈夫と、意味の分からない持論を展開したインは、一度放してもらってアンの正面となるよう座る。


「実はミミズってね、皮膚呼吸、皮膚から空気を吸う環形動物なんだよ。それでね」


 と、ワームについて解説していく。


「でもファイに手伝ってもらうのもアリだったかも」


 インは何気なく妹に手伝ってもらうのもよかったと呟く。

 ミミズは皮膚呼吸、なおかつ日光で地面が温められると、その温度に耐えられなくなって地中から出てきてしまうのだ。

 だがもしそんなことをすれば、ファイは容赦なく出てきたワームを焼却処分していただろう。

 カブトムシやクワガタムシならともかく、これ以上姉が変なムシをテイムする前に。


 そんな事にも気づかずインは今までの行動理由を解説すると、アンを抱き上げて小さくなったミミと共に町に戻るためにその場から歩き出し、日の元にでてしばらくミミが光に包まれた。


「……えっ?」


 目の前で光を伴い消えていくミミ。

 あっけにとられたインが空を見上げてみれば、電子の日光がランランと降り注いでいる。

 早速アビリティ、『乾燥肌』の洗礼である。


「ミ、ミ……、ミミちゃぁぁぁーーんんんっ!!」


 広い広い自然豊かな高原。地に膝をつけた少女の叫びが、ひっそりとアンだけに届き消えていくのだった。


 *  *  *


 町に戻り、行きつけの教会に立ち寄ったインはミミを復活させてもらうと、せっかくなので一緒に町の中を案内しようと町中を歩きだす。

 とはいえ、インもそこまで町について詳しいわけではない。

 現時点で知っている所だけを案内する。


 しかし問題がある。

 それは、町を歩いている途中で死んでしまうという事だ。

 この世界はできるだけ異世界に近づけようと運営が設定しているため、町にいてもダメージを受けるようになっている。

 何の対策もしなければ、再び暖かい目で見てくる神父の世話になるのは確実だろう。

 かといって現状で何とかする方法ない。百秒で死んでしまうのだ。


「可哀そうだけど、ポーションしかないんだよね。ごめんね」


 インは調合で多く作ったポーションを振りかけ、常にHPを回復させる手段を取る。

 これなら減っても増えるのだから、対処自体はできているのだろう。

 その間ずっと、ミミは日光で焼かれる痛みを伴うのだが。

 とはいえ外に出るときは、常に土の中にいればほとんど問題なしだ。


「……おいあれ」

「……嘘だろ。なんでワームをテイムしようと思ったし」

「……それよりあれ女の子で間違いないよな? 実は男だったりしないよな?」

「キャアアアア!! 嘘でしょ! なんで町中にあんなのがいるの!!」


(何か注目されてるような?)


 注目されているようなではなく、確実に注目されている。

 そもそも小さくしたところでワームである事には変わりない。

 そんな手もなく足もなく、耳どころか鼻すらない、触手と口しか持っていないヌルヌルの存在を連れて町中を徘徊したらどうなるか。


 そんなの火を見るよりも明らかに決まってる。


 しかしそのことに虫が好きなインが気づく様子もなく、始まりの町の噴水に戻ってくると、そのまま草原に向かっていきレベリングを開始し一時間強。

 夕飯で兄のハルトに呼ばれたため、ログアウトしていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る