VSグラスウルフ戦 1
グラスウルフが四つ足の膝を曲げて体勢を低くし、牙を剥き出す。
そして一息で飛び上がった。
「アンちゃん姿勢を低くして!」
別の事を考えてしまったせいで反応が遅れてしまったが、何とか思考の海から戻ってきたインは、アンに指示したうえで自分もしゃがみ込む。
瞬間、荒れるような風圧と共にグラスウルフの巨体が、インとアンの上を通り過ぎる。
後少しでも判断が遅れていたのであれば、二人そろってエルミナへと無料タクシーで搬送されるとこであっただろう。
何とか最初の一撃を回避できたインはアンと立ち上がり、魔物の剣を両手に振り向きざまにグラスウルフへと突撃する。
(やっぱり効かない! アンちゃんでもだめか)
グラスウルフの足にインのナイフのような魔物の剣が突き刺さり、アンも同じように噛みつく。
が、グラスウルフに痛む様子はない。
それどころか少しとはいえ、自分よりもはるかに小さいものに傷を付けられたことがむかついたのだろうか。
「ワオオオオオォォォンン!!!」
グラスウルフは力技で風圧を纏わせ、右、左と丸太のように太く、槍のように鋭い爪を持つ足で薙ぎ払う。
足が持ち上がる予備動作を見て、アンは持ち前の速度で急ぎ反応し、振るわれるタイミングに合わせて神がかった回避を披露する。
これでもアンは、インが調合をしている間勝手にレベル上げをしていたのだ。
そして現時点でのレベルは5。『SP激増』アビリティの貰えるSP三倍効果で、ステータスは人間の15LVと同等になっている。
そのおかげか、アンの目には止まって見えるとまでは行かないが、ちゃんと目で捕らえ体が反応してくれる。
しかし、インは違う。
攻撃を奇跡的に避ける事は出来ても、その際に発生する乱暴な風圧は、軽い体系のインをいともたやすく吹き飛ばす。
初めて体が宙に浮く感覚。
そして後は勝手に地面へと落下し、数センチの道を作りインは止まった。
「大丈夫だから気にしないで、アンちゃん!」
インはアンに呼びかけて、無事であることを告げるとインベントリからポーションを取り出し、減ったHPを少しでも回復する。
いくら風で飛ばされたとしても、攻撃がヒットしたわけではない。
それが合いまり、防御が低くともさほどダメージを負わなかったのだ。
ここがゲーム世界だというのも、一役買っているのだろう。
後はそこら辺に生えている香る薬草の効果で、自動的に治る。
しかし、一撃を受ければ終わりであることは変わらない。
アンはいくら防御や速度が上がろうがHP1、常にピンチである中飛ばされればダメージを受けてしまう為、攻めあぐねている。
さらにアンは、『蟻酸』アビリティを封じられている。
遠距離を主体にして攻めることもできない。
(どうしよう……。こういう時自然界での戦い方は……、常に予想外を繰り出す事!)
アンが攻撃を一転集中で引き受けているおかげで、インに考える時間が生まれる。
グラスウルフをじっくりと観察し、どこかに弱点がないか見定める。
そうなれば必然的に巨体故、ある部分へと思考が向く。
(狙うとなれば、当然頭だよね)
グラスウルフの攻撃は、自身の頭にはいかない。
二足歩行の人間などであれば、頭に着いたものを取るのに手を伸ばすことはできるが、四足歩行のグラスウルフがそれをやるのは難しいはず。
なら次に、どうやって頭を攻撃するのか再び思考海へとダイブする。
(グラスウルフの頭。ウルフの頭。ウルフと言えば犬で、犬が悩むものと言ったらいろいろあるけど、その中でアンちゃんが再現できそうなものは……あった。その為にも)
インはちらりと横目でアンを見やる。
白金のように白くて脆い体、強靭なあごから繰り出される怪力、人の皮膚でも平然と登ってこれる足。
そこで気が付く。
(そうだ足。皮膚を登れるんだからグラスウルフの頭にも行けるよね! でも私の筋力じゃ、グラスウルフの上までアンちゃんを飛ばせない。多分魔物の剣を使っても無理だよね)
インの筋力は現状0。
魔物の剣を利用して飛ばしたところで筋力11。
身長が150も行かないインが、五メートルもあるグラスウルフの頭に、四十センチのアンを飛ばすことができるだろうか。
(……できるかも)
インは頭の中で即興の作戦を考えつくと、次にグラスウルフが足を振り切ったところで行動を開始すると決める。
そしてその場面は意外にもすぐ訪れる。
グラスウルフがハエでも払うかのような動きで薙ぎ払い、二撃目を仕掛けるために足を戻す。
「アンちゃんこっち来て!」
インは作戦のためにグラスウルフへと少し近づき、アンを呼び寄せ抱き上げる。
抱き上げるだけで、インは攻撃を仕掛けずその場から離れる。
もう癖になっているのか、一連の動作でアンの頭を撫でながらグラスウルフの出方を待つ。
(ここが大事っ!)
グラスウルフはアンを抱き上げるインへと、膝を曲げて飛び掛かる呼び動作に入る。
これをインは最初の時とは違い、アンに魔物の剣を近づけあおむけで寝転がる。
「アンちゃん、待って! これ作戦だから落ち着いて!」
そりゃ今まで可愛がってくれていた主が、いきなり刃を背中にくっ付けてきているのだから驚かない方が無理な話しだ。
アンは足を四方に動かし暴れはじめる。
「お願いだからこの剣の上で、足を上に向けて寝転んで」
インはアンに寝転ぶように指示しつつも、自分でアンを魔物の剣の腹に寝転ばせる。
前のアリの時なら持ち上げる事は難しかったかもしれなかったが、今の小さい王女アリなら余裕であった。
そうこうしているうちに、その上を既に跳びあがったグラスウルフの巨体が通過していく。
そしてちょうど、グラスウルフの腹の位置とインが重なったところで。
「アンちゃん! ごめんね!」
アンを思いっきり投げ飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます