初戦闘
「HP3、MP0。これで最大……なんて脆く軟弱な……」
「テイムした魔物にはSPが無くって、ステータスは勝手に振られるって聞いたことがあるが……。流石にこれはないだろ」
マナー違反に入る行為であり、嫌ならいいと断っていい。
そう前置きを踏まえてから見せてほしいとハルトが頼み込む。
そんなに酷いステータスなのだろうか。そもそも基準が分からない。
おとなしくゲーム経験者に見せたほうが賢明だろうとインは詳細を提示した。
筋力増加
筋力が1加算される。
LVが上がると効果アップ。
蟻酸
獲物や生存競争を生き抜くために使う、アリの持つ武器。
尾部から酸をかけ、相手の防御を無視して攻撃する。
LVが上がると威力アップ。
頑丈顎
相手を頑丈なあごで噛み砕く。
自身の筋力によって、噛みつき系の威力が変動する。
こちらの筋力が相手の筋力を上回れば、持ち上げることができる。
防御増加
防御が1加算される。
LVが上がると効果アップ
「MPを使用するアビリティが無いから0でも問題が無い。それにこれ防御は固いようだし行けるか?」、
「いやおにぃ。HPが軟弱の極みを通り越してる。すぐ冥界行きの切符を切る羽目になるだろう」
ああでもないこうでもない。
と何やら呪文のように廃人二人は呟き続ける。
今まで感じたことのないただならぬ雰囲気。
恐ろしくなったインは再度確認する。
「輪廻転生の車輪を抜け心機一転、新たな境地を開け」
「調教のLVを上げるにはアンと戦闘しないといけない。それもLV10になるまで本来一人と一匹でやらないといけない。うん、頑張れ」
難しそうな声を羅列して杖を掲げるファイ。
ハルトも頑張れと投げやりの如くサムズアップ。
何もわかっていないのかアンはただ見上げていた。
「ええぇぇぇぇぇえええええ!!」
そしてインの驚きは暖かな風と共に緩やかに消えていった。
* * *
「と、ともあれ弱者を踏みこえ力を我が物に。食物連鎖の頂点に君臨しようおねぇ」
「そうだな。今日は俺達がついているんだ。レベル上げ手伝うぜ」
「ファイ、お兄ちゃん。……うん、頑張ろうアンちゃん!」
これから強くなっていけばいい。
インは決意を胸に新たな仲間のアンを引き連れ草原をうろつく事10分弱。
今度は三体のアリが出現した。
警告しているのだろうか。口元のハサミを動かし威嚇する。
「か、可愛い!」
「おねぇは判断を見誤る愚か者か?」
呆れるかのようにファイが口にする。
そしてアンもやる気出せとでも言いたげにインの足を触角で叩いた。
その姿に飛び上がったファイはそそくさとハルトの背に隠れていった。
「そうだった。行くよ、アンちゃん!」
インの言葉でアンが飛び出した。
アンの目標は正面にいるアリだ。
負けじとハサミを動かし噛みついた。
HPバーの赤が少しだけ横にずれる。そう、少しだけ。
そもそもアンはLV1。
その程度の筋力で噛みついたとして一回じゃ倒しきれるはずがない。
そして攻撃を加えてしまったということは敵と認知される事にもつながる。
すぐにインが助太刀に駆け出すももう遅い。
三匹のアリから蟻酸をかけられ、光になった状態を噛みつかれ、アンはHPバーを枯らした。
「そんな、アァァァァンちゃぁぁぁん!」
仲間にしたばかりなのに。
目の前であっけなく光の粒子となり散っていく。
膝から崩れ落ちるイン。
そんなインにアリたちの標的が移り変わる。
アリたちすでに動き出していた。
その一瞬、何か熱がインを横切る。
ファイの『火球』だ。
ハルトも剣を抜き放ちアリたちのHPを枯らした。
「……アンちゃん。そんな、アンちゃん」
インの瞳に雫が浮かぶ。
もう会うことはできないかもしれない。
アンを連呼するその姿は行き別れてしまった恋人へ呼びかけるかの如くである。
「仲間へと昇華した魔物は転生する。何度落葉を迎えようともな」
「インベントリ、見て見な」
縋る勢いでインはインベントリを開く。
そこに並べられていたのはポーション。
そしてアンの輝石と名付けられたアイテム。
震える手を押さえつけインはそっと取り出した。
アンの輝石はまるで真っ赤な宝石だった。
脈動するかのように赤い明滅を繰り返す。
正しく生きている心臓。
「――これっ」
「それはテイムした魔物がやられたときに必ず落ちる輝石。テイムした魔物は俺らと違う。やられたら教会に行って復活させないといけない」
「そう、何度やられても生き返られる奇跡のような輝石。だからわたし達の最初に集う場所をそこに指定したのだ。早く光の眷属の主を祭る、神聖なる者の所で復活の儀式を行おう。おねぇ」
手を差し出してくるハルトとファイは希望の光のようであった。
インも手を伸ばして握り返す。
「うん!」
「奇跡のような輝石って、紅蓮と灰塵の魔女なのに寒いな」
「た、たまたまだ」
そうしてイン達は教会まで戻り、神父に100フォンを払って復活させてもらった。
何か呪文のような言葉を聞いた後に輝石が弾け飛ぶと五体満足なアンの姿。
さっきほどと変わらず足で床を叩き、インに対して触角を動かしている。
「ごぉめぇんねぇ~!」
インは人目も気にせず飛びついた。
大切にすると告白めいた言葉を口に出し頬を何度も摺り寄せる。
「「「うわぁ」」」
その様子にファイと近くにいた何人かのプレイヤーとNPCがそっと体を引いたとかなんとか。
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