救い主と居候
Rod-ルーズ
第1話 失ったあの日
『一年間、暮らしてきたけど我慢できなくなった。別れよう』
家具もない1ルームの部屋に私はどうしていいのか分からずただ、泣き崩れていた。1日前まであった彼との思い出の品はすべてなくなっており一緒に座ってみたソファーもどんな夜も隣で過ごしたセミダブルなベットも、同棲を始めるときに買った食器も何もかも彼は持っていったようで残っていたのは私が実家暮らしの時に愛用していたものと衣類のみであった。
「はぁ・・・どうしてこうなっちゃったのかな・・・」
そう呟いても時は戻ってきてくれない。だからこそ、昨日起きたほんの些細な意見の口違いをただ後悔していたのだった。
私、高橋メイは27歳となった今、派遣社員として千葉県の老人ホームで仕事をしていた。不規則な生活リズムでありメンタル面でもバランスを崩してしまいがちになっていたが、それでも何とか続けられたのは彼氏のおかげでもあった。
大学時代の同級生で同じサークルから付き合った彼。私とはかなり波長も合い卒業してからも交際は続いていき、仕事で失敗した時も私が仕事を辞めたときでも、彼は翌日仕事があるのにもかかわらず親身に話を聞いてくれた。本当にできた彼氏だと思う。
それから互いにもっと一緒の時間を過ごしたいという思いが同棲へと繋がっていき、彼が住んでいた1ルームの賃貸で二人で生活していくことになった。
些細な言い争いは度々起こってはいたが、それは決して悪いものではないと思っていた。互いにデートのときのみ顔を合わせたりするだけだし生活面なんて会わなくて当然と考えていた。だからこそ、3か月、半年もたてば互いの生活リズムを気付いていけるだろうと捉えていたからである。
そして、そんな生活が続いて1年が経過した。その頃の私と言えば、派遣であるのにもかかわらず仕事量は激務であったし、急なシフト変更も重なってあまり彼とも接する時間はとれなくなっていった。
彼の方も、中堅的なポジションに落ち着いたことで仕事量が増えていった。ほぼ毎日定時付近の時間帯で退社していたのが、1時間1時間…伸びていき時には終電ぎりぎりの時間帯で帰宅してくるようになっていったのだ。
『最近私たち会えてないよね、同じ部屋で過ごしているのにさ』
「そうだなぁ、まぁしょうがないじゃないか。シフト制と休み固定の弊害だろう。あまり、気にすることじゃないさ』
そして彼の私への接し方だって変わってきていた。最初の頃は『きっと疲れている、だから彼は私への接し方も冷たくなっているだろうからこれが落ち着けばまた戻ってくるだろう』と自分に言い聞かせていた。ただ、私だって溜まるものは溜まる。そしてそれはいつの日か、爆発していき彼にあたってしまったのが昨日の夜勤入りの日であった。
土曜日という日に、1ルームの部屋は感情が溢れている。方や起伏激しく涙を流しながら思いを伝える女、そしてもう一方はただ冷静に物事を見つめる男
我慢できなくなった私は、まだ出勤時間まで4時間も残していたのに関わらずそとへ出ていった。感情が抑えきれなくなったから。あのまま家にいたら間違いなく泣きわめていただろうから一刻も早くその場から出ていきたかったのである。
その時の私はまさかこれが最後になるなんて思ってもいなかったのだから
「やっぱり今こうやって冷静に考えてみたら私が悪かったのかもしれないな~」
あの後、私は何もない部屋を出て最寄り駅にあるネットカフェで過ごしていた。食事も暖もとれて仮眠もできるこの場所は家もない私にとって有難い
まさか、1夜にしてホームレス生活になるとは思いもしなかった。彼に連絡を掛けるも何も返信が来ない、きっとブロックをしているのだろう。まさか完全に距離を置かれるとは思いもしなかった、今はBGM代わりに好きな動画を流しているがなんも頭に入ってこない。
「ほんと結婚とかまで考えいたのに、どうすれば良かったのかな」
考えれば考えるたびに、深い穴に埋まっていく感覚。今の私のメンタル的なものは人生で最悪な状態ベスト3には入るだろう。普段しない仕事の失敗だって起こしてしまったぐらいなのだから・・・
「今日はもう寝よう、アレだったら実家に帰ればいいだけだし・・・ん?この人って」
仕事に関してはとりあえず辞めなきゃいけないな、地方出身であるから実家に帰ったら向こうで再就職をしなければならない。
やることで溢れかえる脳みそであるが、今はそれを上手いこと取り組めるほどの状態じゃない。そう思い私は適当に毛布を広げて横になった。そして寝る前に携帯を眺めていると一人のタイムラインが目に張った。
「大崎巧・・・元職場同僚じゃん・・・」
私が新卒で入った時の同期、2年ほどで辞めてしまいそれ以降連絡を取っていなかった男。あの当時は髪型も性格も女性に対する免疫とかも童貞ような雰囲気をしていたのに投稿された写真では暗めの赤紫した見た目であり、髪もツンツンヘアからサラサラな耳を隠すような姿となっている。そして彼の表情もあの当時と比べて明らかな違っていた
(確か大崎くんって一人暮らししていたような)
そう思って気づいたら電話をかけていた、誰でもいい状態であったが久しぶりに会って見たくなったから彼に電話を掛けたのであろう
数回の着信音が鳴る、出てくれるだろうか。
「おいーっす、久しぶりじゃーん」
繋がった彼の声はあの時と変わらない。他人の声を聴いた私は久しぶりの挨拶を忘れていまの感情を吐露していった。深夜を回っているのにも関わらず彼はあくびも一つせず、黙って話を聞いてくれている。それが今の私にとっては何よりもありがたかった
「そっかぁ、それは大変だったな・・・あのさ、それだったらうちに来いよ」
久しぶりにかけた同期、彼が今後、私を救ってくれる存在になることになるとは当時の私は知る由もなかったのである。
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