【1/30完結】夏の終わり、世界の終わり〜願いを叶える少女と未来人と〜

天野琴羽

第1章~夏休みの始まりと2人のおかしな来訪者~

第0話 夢の中の女の子

 女の子がひとり立っていた。

 ひとめ見た瞬間に、俺は心を掴まれていた。


 女の子は大きな庭の付いた古めかしい家の前で、誰か人を待つようにして立っている。その姿がどこか儚げで、神秘的な雰囲気さえ感じられる。


(すごく、きれいだ)


 まずはそれが第一印象で、だけどよく見てみると、神秘的な雰囲気の中にもあどけない可愛さがある。

 小柄で華奢な身体と真っ白な肌、そして、クリッとした大きな瞳が、なんだかハムスターみたいな小動物を思わせた。


 歳はたぶん中学生くらい。年齢が近そうだということで、余計な期待が膨らんでますますドキドキしてしまう。


 真っ白な細い腕と肩の先まで伸びた黒髪のコントラストが、すごく綺麗だった。髪も一本一本がさらさらと光っていて、きっと、触れたらものすごく柔らかいんだと思う。

 清楚な印象のブラウスも、少し幼い感じのする後頭部の大きなリボンも、どっちも彼女によく似合っていた。


 彼女は誰かを待っているんだろうか。

 俺はその姿から目が離せない。平たく言うと、見惚れてしまっていた。


(あ、これ夢だ)


 なんとなく、それを直感した。

 だから正面にいるはずの俺に気づかないのか。


 もう少し彼女に近づこうとしてみても、身体は思うように動かない。だんだんと意識が覚めていくのを感じる。

 夢を夢と気づいてしまったら、やっぱり続きを見るのを難しい。


(けど、この子はいったい誰なんだ?)


 こんな綺麗な女の子、知り合いにはいないし、テレビの中でだって見たことがない。

 それなのになんでだろう。

 この女の子からは、どこか懐かしい感じがした。


 と、どこからか1人の男が現れる。

 彼女の父親だろうか。どこか冷たい目をしたその男は、そのまま彼女のもとに近づいてなにか声をかけた。

 彼女は男に連れられていくと、近くに停められた車の前で立ち止まる。

 

 いよいよ夢が覚める。その感覚がある。

 車に乗り込むその直前、彼女のつぶやく泣きそうな声が、俺のもとまで確かに聞こえた。


「私は、みんなを不幸にする魔女だから」


 ドアを開けて車へ乗り込む彼女へ、俺は手を伸ばそうとして――。


祐介ゆうすけ―! 本当に遅刻するから!」


 突如、聴き慣れた声が響いた。

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