奴隷スタートした俺の異世界逆転劇~俺は奪われた家族を取り戻し、この修羅の様な世界を住みやすくする~
まんじ
第1話 奴隷
掘っ立て小屋の様な、狭くて汚い家の中。
粗末なボロボロのテーブルの上に、ふかした茶色のイモが置いてあった。
甘くておいしい、僕の大好物だ。
「うわぁ!美味しそう!!」
「お誕生日おめでとう。セイギ」
母が笑顔で、おめでとうと言ってくれる。
今日は僕の10歳の誕生日。
テーブルの上のイモは、僕への誕生日プレゼントだった。
「いいなぁ……」
隣にいる妹のゼンコが、指をくわえて羨ましがる。
僕は――僕の家族は奴隷の身分だ。
そのため、イモなんて御馳走はめったに口に出来る物じゃなかった。
それこそ、誕生日でも無ければ。
「……半分食べるか?」
「え!?いいの!?」
ゼンコが黒いどんぐり眼を大きく見開き、輝く様な笑顔を見せる。
奴隷だから身なりは汚いが、家の妹は母さんに似て凄く可愛らしい。
「お兄ちゃん大好き!!」
「へへ……」
イモを掴んで二つに割る。
当然手で割ったので、若干ずれが生てしまう。
サイズ的には6-4だ。
僕は少し迷ってから、大きい方をゼンコに手渡した。
「ほら」
「大きい方……いいの?」
ゼンコが戸惑った様に聞いて来る。
僕への誕生日プレゼントなのに、自分が大きい方を受け取っていいのだろうかと思ったんだと思う。
「気にしなくていいよ。さ、食べよ」
「うん!」
妹が嬉しそうにイモに噛り付く。
僕もそれに続いてかぶりついた。
「甘くて美味しい!」
「ほんどだ!お母さん、凄く美味しいよ!」
「ふふ、ゆっくり食べなさいね」
僕達の様子を見て、母さんが優しく微笑む。
優しい母さん。
可愛い妹。
奴隷と言う身分ではあったけれど、僕は幸せだった。
そう、幸せだったんだ
あの日までは。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はっ……夢か」
懐かしい夢を見た。
僕は土の上に、ゴザを敷いただけの寝床から体を起こす。
回りでは、何人もの人間が僕と同じ様にゴザを敷いただけの寝床で眠りこけていた。
「お母さん……ゼンコ……」
僕の10歳の誕生日。
家族と過ごした最後の誕生日。
それはもう2年も前の事になる。
あの日、あの後、見知らぬ男達が僕の家へと急にやって来た。
「誰だお前ら!妹を――ぐぇっ!?」
妹を守ろうとした僕は、その場で殴り倒されて気を失ってしまう。
そして目覚めた時、もうそこに母と妹はいなかった。
「なんで?どうして……」
ほんの前日までは、奴隷ながらも幸せにやって来たのだ。
なのに、一瞬にしてそれは理不尽に踏み躙られてしまう。
「お願いします!何でもしますから!母さんと妹を!」
「五月蠅い!黙れ!」
僕は主人である男に、母さんや妹を助けて欲しいと懇願した。
だが彼は僕を殴りつけ、それまでとは違う仕事――採掘場へと僕を送ってしまう。
それから2年――僕は過酷な採掘場で働き続けた。
此処の環境は最悪だ。
仕事は子供である僕にはとんでもなくきつい上に、配給される食べ物も石みたいに硬いパンと、吐き気を催す程不味い魔物の肉が入ったスープのみ。
「僕……このままここで死ぬまで働かされるのかな。お母さん。ゼンコ……」
今日は僕の、12歳の誕生日だ。
でももう、あの暖かかった世界は戻ってこない。
先の見えぬ絶望に、僕の目から涙が零れ落ちる。
大声を出して泣きたかったが、それをすると眠りを邪魔された他の奴隷達に殴られてしまう。
実際来た当初は、夜泣きして良く殴られていた。
「うっ……くぅ……」
僕は必死に声を堪えて、涙を流す。
二人は無事なのだろうか?
お母さんとゼンコに合いたい。
そんな事ばかりが、頭の中をグルグルと巡る。
その時――
「――っ!?」
突然、頭の中から得体のしれない記憶が沸き出して来た。
それは別の人間。
それも、異世界の人間の記憶だった。
「ああ、そうか……ぼく――いや、俺は転生したんだった」
その記憶は前世の物だった。
ブラックな会社での激務が原因で、俺は34歳の時に過労死している。
本来ならそこで人生は終わりだ。
だが俺は運よく、神の行う千年に一度の転生の抽選に引っかかる事が出来た。
お蔭で、チートを得て異世界転生できた訳だが……
「ったく……何で奴隷なんだよ。しかもこの世界、権力者がやりたい放題してるっぽいし。こんなんで、どうやってゆるゆるまったりな転生ライフを送れってんだ?」
前世の様な、消耗品としての生き方など絶対したくない。
だから転生先では緩い人生を送ろう思っていたのに、よりによってブラックの象徴である底辺奴隷スタートとか、酷すぎる話である。
「取り敢えず、チートを使って力を付けるべきだな」
転生時に貰ったチートは二つ。
――一つは訓練空間だ。
訓練空間は完全にこの世界から切り離されており、時間の流れも違う。
そのため、中でいくら過ごしても外の世界では一瞬の事となる。
しかも中でどれだけ生活しても、俺自身は一切年を取らないそうだ。
更に訓練空間の中では飲食は不要で、怪我や疲労なんかも瞬時に回復する仕様になっている。
「年は一切取らないのに、なぜか訓練の効果は反映される。しかも常に全快復とか……不思議な空間だよな」
世界の法則をガン無視しているとしか言いようが無い。
まあ神様から貰ったチートだし、そう言うのもありなのだろう。
何せ死んだ人間を転生させられる位だしな、神様は。
一応制限としては、一度に連続して籠れる期間は1年――現実時間比――が限界で、出てから24時間は再使用が出来ない様になっている。
そのため、便利な回復用品として使いまくる事は出来ない。
――で、もう一つは血の代償というチートだ。
これは自らの血を捧げる代わりに、便利なアイテムと交換できる様になっていた。
「ビーカーをいっぱいにして1ポイントか……」
チートを発動させると、薄青いパネルが目の前に現れた。
パネルの画面にはビーカーが映っており、血を捧げるとこれに血が溜まっていくシステムとなっている。
交換用のポイント――通称ブラッド――は、ビーカーを一本満たすたびに1ポイント加算で、これを集める事で強力なアイテムが手に入るシステムだ。
「取り敢えず、一本分チャージしてみるか」
血を捧げると頭の中で念じると、ビーカーの中が赤い血で満たされていくのがパネルに表示される。
「これで一本。結構きついな……」
血を抜くと、貧血気味に体がふらつき出す。
「ビーカー一本ぐらいなら、どうってことないかと思ったけど……」
冷静に考えると、今の俺の体は12歳の子供だ。
それも細く痩せた――栄養失調気味の。
そりゃきついわ。
「この体じゃ、一本が限界だな」
ビーカーの中の血が溜まり、ブラッドポイントが1ポイント補充される。
「交換は……ぐ、駄目だ。キツイ」
血を抜いた影響が大きすぎる。
目が霞み、体がふらついてしまって、アイテム選びどころではない。
「訓練空間なら、全快するんだったよな――うぉっ!?」
俺は試しに訓練空間を使用する。
するとその瞬間、視界が暗転して広い空間へと体が飛び出した。
「とと……」
余りにも急すぎて思わずスッコロビそうになるが、足を踏ん張って何とか堪える。
「ここが訓練空間か。何にもないな」
周囲を見渡すと、地平線がどこまでも広がっていた。
地面はパネルの様な物がぎっしり詰まっており、その感触は硬めのゴムの様な感じになっている。
「取り敢えず……ふらつきは消えたな」
貧血状態だったのが収まり、頭がすっきりとする。
「傷なんかも消えてるし……」
自分の掌を見て、そう呟く。
きつい鉱山作業で俺の掌はボロボロになっていたのだが、それがつるつるした綺麗な物へと戻っていた。
腕なんかにも常に擦り傷があったのだが、それも綺麗さっぱり消えている。
但し、身に着けている服なんかはボロボロのままだ。
どうやら回復するのは自分の体だけらしい。
「どんな物が交換できるか見てみるか」
俺は再度、血の代償のシステムパネルを開く。
便利な物と交換できるとは聞いているが、実際どんなものと交換できるかまでは分かってはいない。
一体どんなアイテムがあるのだろうか。
「ん?初回限定、超お得アイテム?」
パネルにある交換ボタンをタッチすると、画面にでかでかとそう表示される。
『交換期間はパネル発動後24時間のみ。絶対お得の超級品。まずはこれから!』
アイテム名は『Q&A』。
「Q&Aってなんだ?質疑応答的なアイテムって事か?時間制限もあるみたいだし……まあ取り敢えず交換しておくか」
概要が分からないが、神様からのお勧めだ。
ハズレって事はないだろう。
ポイントもたった一ポイントだし。
「なんだっ!?」
俺が交換ボタンを押すと、目の前でボワンと煙が上がる。
そしてその煙の中から、掌の上に乗りそうなサイズの羽の生えた小人が姿を現した。
パッと見、可愛らしい妖精の女の子の様に見えるが……
「お買い上げありがとうございます!私ことQ&A!気軽にキュアちゃんとお呼び下さい!」
その妖精は拳を力強く突き上げ、自分の事をQ&A――キュアと名乗った。
「……」
なにこれ?
この子がアイテムなのか?
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