■24『引き金』

 片手を天高く上げ、手の平を太陽に向ける。地響きに近い轟音が神社全体に木霊こだまする。


「【神通力】」


 樹齢千年を超える大木たいぼく。歴史的建造物。道を舗装するアスファルトまでもが浮かび上がる。


 少年はただまっすぐ走る。

 距離にして5m……4m………───。

 参道のど真ん中、賽銭箱に目掛めがけ突っ込む。


 宙へ浮く凶器はその進行を防ぐため、グルンと方向を変えて放たれる。高速の物体は間一髪、対象に当たらない。しかし地面との衝撃は凄まじく、その破片を周囲にばら撒いた。


 背丈が150にも満たない子供。体が小さい分、被弾する面積も小さい。鉄や枝、弾丸にも並ぶ威力の攻撃たまを素早く避ける。


「目には目を、歯には葉を、武器には武器を」


 女との距離───2m。


 べネップは足を止めず、尻ポケットに手を当て拳銃に触れる。まだ確信はない。しかし希望はある。


 村での戦闘を経て能力のたぐいが利かないと分かった。しかし実物じつだんならどうだろう? 坂口は文を殺した。しかしなぜ自分ではなく武術家ウェンを? 


 (それは恐らく、物理攻撃が有効だから)


 予備動作無し、銃口を向けて引き金を引く。距離は短く文字通り「十中八九」当たる。


 引き金が動けば撃針げきしんが叩かれ雷管らいかんが突かれる。火薬は強烈な爆破と共にから薬莢やっきょうと銃弾を解き放つ。


 弾は風と空気抵抗の影響を受けながら進む。


 しかし、べネップの予想は大きく間違っていた。


 坂口は感染者の能力に対し高い優位性を持つ。が、それは副次的な効果。防御の要となるのはあくまで、五十嵐の現実改変による『幸運』。


 では何故坂口は文を狙ったのか? それは文の持つ単純シンプルな強さが『幸運』で防げないレベルだったから。


天文学的数値であったとしても、可能性があることならば坂口に対する『危害』は回避される。


 しかし慢心せず、明確な殺意を持った文が相手の場合、その限りではなかった。


どくしゃのみぞ知る真実。だね♪」


 銃の軌道は大きく逸れ、坂口の頬を掠める。

皮膚は熱を帯び、頬は小さな傷を作って血を流す。


「色々誤解してるよ、べネップくん」

 坂口はその血を親指ですくい舐める。


「止めといた方がいい」

「うるさい」


 間髪入れず撃鉄を起こし、べネップは次弾の狙いを定めている。


「後悔は先に立ってる」

少年の目は怯えていた。しかし口は笑っている。


 少し走っただけで息がハァ……ハァ……と漏れ出る。坂口の助言は空を切り、その指が引き金を引くと同時───薬莢やっきょうは破裂し弾倉だんそうに誘爆した。

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