■23『出会い』

「惑星?」

「そう、厳密に言うと宇宙だ」


 これはオレのこきょうが奪い取った戦利品。

 同一銀河系に存在する肉体の完全機械オートマチック化、それに成功した異星人の科学技術。


「生物の魂や心は脳に存在する」

が、その脳を制御する基礎理論と装置と?」

「ああ、勝手に持ち出せたのは試作品プロトタイプだけだが」


 倉本は男から五百ページを超える分厚い資料と、地球の資源や現代科学では再現不能の装置オーパーツを受け取った。


「内容はお前らチキューに合わせ翻訳したが、理解出来ない部分は臨床じっけんで確認してくれ」

「おいおい、どうにかならないのかい?」

「オレの専門は軍事。それも破壊工作担当なんだ。医療知識や生物機械はどうにもな」


 男は耳を触りながら答える。


 利益メリットが無いにも関わらず、気まぐれに声を掛けた地球人。

 やつれた顔して歩いている姿を見かけ、面白半分で接触し、割と知能が高い個体だと興味を惹かれた。要するに馬が合った。


「宇宙からの侵略者……笑えない冗談だ」

「軍人は辞めてる。今は自由気ままな海賊、無法者フリーターみたいなもんだから安心しろ」

「SFも世知辛いね」


 倉本は参考資料に目を通しながら話す。スーっと文字に視線を移し、ベージをめくる。

 既に興味は男から手元に移行し、返事はしているが心ここにあらず、意識は紙に無我夢中。


 その様子に気がついた男は「やれやれ」といった面持ちで、話を切り上げた。


「それじゃ、オレは作業に戻る」

「ん? ああそうか、用事があるんだったな」

「数年か十数年も経てば、また暇になるさ」

「長命で羨ましいな。君がまた地球こっちに来るまでには完成させるよ」


 倉本は顔を上げ、視線を男に移す。

 しかし目の前に男はいない。


 急いで辺りを見渡すと男は既に、参道に連なる階段近くまで歩いていた。

 

 後ろ姿を見せながら片腕を上げ、手をヒラヒラと横に振っている。宇宙にもハンドサインはあるのか、と倉本は関心して呟いた。


「また会おう」


 階段に足を掛け、男は下へ下へと降りていく。倉本の声は小さく聞こえていない。階段はあと数段。男は鳥居をくぐると、返事をした。


「おう、またな────」

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