■17『困惑と思惑』

 厚さ30cmの壁が円を描くように囲む。外からの風を防ぎ、白い煙が視界を遮る。

 壁の内側ではひつぎのようなコンクリートブロックが何十本も縦長に作られ配置されている。


 コンクリ製の棺の中には複数の敵。生き埋めにされたその棺もしばらくして意味を無くす。

 吸血鬼の力は鋼鉄すら粉砕し破壊する。そして、米兵達も契約先の囚人が窒息・圧迫死する代わりにヌルっと、棺から当然のように脱出する。


 しかし目の前は白い煙に覆われ、フザけた敵も視認出来ない。先程まで感じていた衣服の隙間や素肌を通る冷たい風も無い。


「な、何が起き────」


 米兵達は状況を把握しようとするも数秒も満たぬ内、意識が落ちる。


「上官殿、ご指示を」

「視界が塞がれている、音で索敵しろ」

「「了解ダー」」


 吸血鬼ロシア人達は意識を保ち索敵を開始。ドサッという誰かが倒れるような音が間隔を開けて聞こえる。声の主から察するに米兵だろう。


 しかし妙なのはあの中国人共だ。


 あれほど騒がしかったのが嘘のように今は有り得ない程に静か。部下達の足音に混じってゆっくりと動いている?


「状況報告!」

「はっ! 米兵達は眠って───」

「眠ってなんだ? 報告を続けろ!」

「子どmッ!!」

 

 部下達の声が消える。その足音や気配も消える。

 煙から小さな人影がぼんやりと見える。


「いったい何、ガ──!ッ!!!」

 足元に熱さと鋭利な痛みが走ると同時、口元を防がれ強固な腕で体が動けぬようにロックされる。

 

 さっきの中国人と少年!? なんだ!? そんなことをしても──────。


 ゆらーと小さな人影は徐々に濃くなる。

 そして煙からブワッとその姿を現したのは、同国人と思われる


 吸血鬼、それは系統としては悪霊や悪鬼、化け物に該当する


「ごめんね、おじさん」


 少女がピタッとその体に触れた瞬間、不浄は消えさり灰となって地面に崩れ落ちた。


 状況の確認を終えると壁は解除され、空気が流れ込むと同時に煙は発散され視界が開ける。雪の上には大量の軍服と倒れた米兵達。そしてそこにはガスマスクを着けた五人組。

 

「よし、コイツ等が眠っている内に離れるゾ」

「ok若頭カシラ


「…………」

「何してるのべネップ?」

「早くトンズラするヨロシ」


 白い煙と混じった睡眠ガスは消え去った。

 しかしガスマスクを取り外したべネップは、何故か米兵達の元に立っている。


「「「???」」」

「何をしている少年? 早くココから逃げるゾ」

 

「もちろん逃げますよ、

 おもむろにべネップは足元に転がる米兵達に触れ、『能力』を発動。

 

「な、何やってるアルか!?」


 体内に侵入したくすりはかき消され、ムクリと起き上がる米兵達。起きぬけで状況はいまいち把握出来ない。


「そもそも貴方達は僕達を殺しに来たんだ。それなら、この米兵さん達に事情を話し保護して貰う方が生存率が高い。そうは思いませんか?」


「………………」


 その場にいた誰もが黙って思考を巡らせた。

 べネップはその少しの時間を使い、文とシャーレを自分の元へと引き寄せる。


 既に凛風の手の内はバレた。二度通じるような相手ではない。何よりあの人数差にべネップが加わるのは不味い。


「少年、君たちの話は後で詳しく聞かせて貰う」

「勿論です。そのつもりで起こしました」


 具体的な事は分からないが、自分たちを助けた子を無碍むげには出来ない。そして何より拷問するより早く情報が得られる。そういった思惑の一致によって状況は突然、グルリと変わる。


「……よろしい。それでは諸君、戦闘続行コンティニューだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る