第00■章

「へーッど、ショルダーズ♪ にーえんトーズ♪」

 Knees And Toes♪

 Knees And Toes♪……。

  

 歌と共に上機嫌で調理されていく食材達。

 グツグツと煮えたぎった鍋の中には佐藤・水・醤油・酒、それに佐藤君のお父さんとお母さん。


「サトーくんのショルダーズ♪ 膝と足ニー&トーズ膝と足ニー&トーズ♪」

 煮込みながら次の具材の下ごしらえ。

  

「サトーくんのショルダーズ♪ 膝と足ニー&トーズ膝と足ニー&トーズ♪」

 人体で一番美味びみとされるのは、脂と肉がたっぷり混じったふくらはぎ。

 踵から膝裏にかけて縦に切り、そこから横に刃を進めて回すと、骨から綺麗に肉が取れる。


「やったー! 上手に出来た!」

 健康に害がない程度に太っているのが理想的で、子供や女の子は特に柔らかくて食べやすい。

 あっ、もちろん男の子も好きだよ?


「おっと、佐藤くんのパパとママもちゃんと混ぜてあげるからね♡」

 ミンチにした内臓をこねこねハンバーグ。


 綺麗に取れた肉もすき焼きの具材に。

 他にもソーセージやミートボールなど盛り沢山。


「よしッ、完成!」

 テーブルの上には満漢全席。


 そこにはおびただしい数の肉料理。

 食人鬼の手料理、フルコース。

 

「いただきまーす♡」

 バクバクと躊躇ちゅうちょなく箸を進ませ、その味と食感に頬がとろけそうなほどに舌鼓したつづみ

 

「佐藤くんの腸で作ったソーセージも美味おいひ♡」


 食道を通って佐藤くん達が徐々に自分と一体化していく、その感覚を文字通り味わいながら悦楽と多幸感で内側を満たしていく。


 日常の中にある、一時ひとときの幸せ。


 じっくりとゆっくりと口に運びながら、机に並べられた料理を残さず一つ一つを胃に入れる。


 それを1時間の時を経て完食。


「ごちそうさまでした」

 そして手を合わせ感謝を口に出す。


「ふぅー……おいしかったぁ」

 少しの間を置くと食後の充足感と眠気が襲ってくる。もうこのまま寝ちゃってもいいかな……という誘惑に一瞬は負けそうになるが────。


 『働かざる者食うべからず』。


「うん! お腹も膨れた、仕事仕事!!」

 坂口は食後の惰性に負けず気合を入れ、調理と一緒に仕立てたバケツを何個か持ち出し、自宅から飛び出す。


 家から出て少し歩いた先にある『養豚場ようとんじょう』。


 これは数年前に食べたお肉が持っていた仕事場。豚さん達を飼育する人がもういないので、坂口が代わりに育てている。


 そして豚は、蛋白質ならなんでも食べる。


 そのため人間には食べられない"部分"や、調理しきれなかった"肉"も、豚さんの餌として大変身!


「ほーら、新しいお肉だよー」


 骨などの硬い部分も農作のうさくで使う業務用粉砕機を改良したもので砕き、食べやすくして与えている。


「あっ、ブーちゃん! コレも食べないとダメだよ! 好き嫌いは良くない、めッ!」


 そして豚さん達のお世話を終えると、今度は袋につめた"肥料"を田畑に持っていく。


「豚さん達のと、佐藤くん達の体にあったコレを混ぜてっと……」


 袋をきっちりと締め、上から足で踏み、よく混ぜ、動物さん達の"廃棄物"を"肥料"に変える。


 満遍まんべんなく土壌に巻いた後には農具を使って更に慣らし、全体を綺麗に整えていく。

 彼女が言うにはこれが後々のちのち、良い作物が取れる土台となって芽吹くそうだ。

 

 そしてこれらの『仕事』を一通り終えた頃に、いつも時間は夕方を回っている。


 そして今日は────。


「今日は『デート』かぁ、緊張するなぁー……」

 

 昼間の作業を終えた後はシャワーやメイク・身だしなみを整えて、作業服から余所行よそゆきの格好に着替える。


 美しい見た目に真新しいワンピース。その服の純白さは、露出した褐色の肌をより魅力的に彩る。


 縦長の鏡で自分の姿を最後にチェックし、チラッと坂口は時計を覗くと、

「あっ、大変! 遅刻しちゃう!!」


 とっくに待ち合わせ時間の10分前。

 家から待ち合あわせの駅まで15分はかかる。


 だから走った、一生懸命走った。


 慌てながらも目的地に着いた首元には間に合った安堵と共に、艶めかしい汗がジワぁと滲み出す。


 「はぁ……はぁ……」と息を切らし、急いで着いたはいいものの『目的の彼』は何処にも見当たらない。そしてそこには見知らぬ────。


「あなたは誰?」

「ワタシかい? ワタシの名は"クラモト"」


 人がいた。

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